第六話 うん! いいじゃんいいじゃん!!
——聖女は国の象徴であり、その力は国のために使われるべきである。
「はぁ……」
リーンは王宮内にある庭園のベンチで、一人空を眺めていた。
「結局、シルヴェスター様を傷つけてしまった……」
彼はいつも、わたくしを優先してくれる。
そのような方に、『国のためではなく、民のための聖女でいたい』
そんなことを伝えたら、困らせてしまうことは明白だった。
そんな時だった。
ニア様がシルヴェスター様をお慕いしていると知ったのは。
教材を隠すのも、彼女が大切にしていたドレスを汚すのも、あえてすぐに自分がやったとわかるように動いた。
それでも、それが公にされることはなかったのだけれど。
だから、ニア様の乗る馬車に火を付けた。これなら問題にせざるを得ないと思ったから。
——でもさ、あんた人の命救いたいんでしょ? やっちゃダメじゃない?
「ニア様の仰るとおりです。お父様とお母様にも、ご迷惑をかけてしまったし……」
国から聖女として相応しくないと咎められた際も、お父様もお母様もわたくしを責めなかった。
むしろ、『聖女としての役目を背負わせてしまって申し訳ない』と謝られてしまったぐらいだ。
「本当はシルヴェスター様の隣で、この国を支えていきたい。でもわたくしは、授かった力を国のためだけには使いたくない……」
「なら、どっちも欲張っちゃえばいいじゃん! シルと考えようよ!!」
顔を上げると、ニア様の眩しい太陽のような笑顔がそこにあった。
*
——神の加護を受けし聖女は、その力で王と共に国を治めるべきである。
「まさか国の慣習が、彼女を苦しめていただなんて……」
誰もいなくなった応接間で、シルヴェスターは一人頭を抱える。
リーンが慈愛に満ち溢れた子だと知っていた。
それが聖女としてではなく、彼女本来の姿だということもわかっていた。
「でも、聖女としてもそうありたかったのか……」
よくよく考えてみたらそうだろう。
リーンは学園でも、人を地位や家柄で見ていなかった。
それが民に向いていても、何もおかしくはないどころか納得でしかないくらいだ。
「しかし、これまで王妃になった聖女が街に出たことはない……」
母上も元は聖女だが、あの人は煌びやかな生活に酔いしれている側。
話を聞いたところで全くアテにならないだろう。
父上には単に策を求めても、『お前ならどうする?』と問い返されて終わりだ。
まず、僕自身がどうしたいのか。彼女とどう生きていきたいのか。
そのために何を変え、どうすれば国の象徴としての聖女でありつつ、彼女の願いを叶えられるのか。
「とても、難しい問題だな……」
国のこれまでの在り方を変えるのは、簡単なことではない。
——今やっと想い通じ合ったんしょ!? なら、掴み取ろうよ幸せをさ!
「ニアの言う通りだ。リーンは僕を想ってくれている。なら僕はそれに応えられるよう、王太子として策を講じるまでだ!」
棚から分厚い書物を取り出すと、シルヴェスターは机に向かい始めた。
*
「ニア様……」
「いやー、探したわ! ここ、めっちゃいいとこだね!」
あーしは花の種類なんてわかんないけど、カラフルでめちゃ綺麗な庭だ。
風が吹くとそこからいい匂いも漂ってくる。
「わたくし、ここが好きなんですの」
「なんかわかるかも。風も気持ちいいしね〜」
「……シルヴェスター様に初めてお会いした日も、とても心地よい風が吹いておりました」
「へぇー! 第一印象はやっぱり、『紳士的でかっこいい!』だったん?」
「いえ、とても挙動不審でした」
おい、第一印象最悪じゃねーかよ。
「でも……それがよかったのです」
「え? 幻滅〜じゃないん?」
「はい! 噂通りの完璧な王太子ではない、そんなお姿がとても人間らしくて……」
「普通の人、それ嫌がると思うけど……」
リーンて、なんかズレてるよな。
普通は、噂通り完璧な方がいいんじゃね?
「完璧ではないからこそお支えしたい。そう、思ったのです」
「ふーん。なんか、聖女って感じだね」
「そうですか?」
「うん。あーしが知ってる聖女ってさ、みんなに優しくてお返しなんか求めてなくて、でも愛を振り撒く〜みたいな感じなんよね。だからそれっぽいなって」
あーしの言葉を聞いて、リーンがクスクスと肩を揺らす。
「そんなおもろかった?」
「はい。ニア様がご存知の聖女は、聖人君主のようだなぁと思いまして」
「せいじんくんしゅ?」
「人のお手本になるような、立派な方ということです」
「なるほど! じゃあリーンだね! みんなのために力使いたいとかそうじゃん!」
しかし、彼女は首を横に振る。
「わたくしはそんなに立派ではありませんよ」
「そう? あーしはリーンがそうだと思うけどなぁ」
「立派な聖女は、シルヴェスター様の隣で国を支えながら、民にも力を使いたいなどというわがままは願いませんから」
「えっ? それってさ……」
——めっちゃいい顔で笑うじゃん、リーン。
「はい。わたくしはどちらも諦めないことにいたしました。ニア様の仰ったように、どちらも欲張ります!」
「うん! いいじゃんいいじゃん!! じゃあシルんとこ戻ろ!」
「はい! ニア様、ありがとうございます!」
「ううん、あーしはなんもしてないよ。リーンとシルがちゃんとぶつかったからだよ」
「お話ができたのも、ニア様のおかげなのですよ」
とびきりの笑顔を見せるリーン。
やっぱりあーしは、二人に幸せになってほしいと思った。
挙動不審な王太子ってどうなの




