1 交わることのなかった道
お久しぶりです。
初めてお読み下さる方、初めまして。
開けて頂きありがとうございます!
今回もマイワールドです。
まだまだ拙いですが、どうぞよろしくお願いします!
どうして?
信じられない·····結婚しようって·····
私が見たのは何?
電車に乗っている時以外は走っていた。
早く家に帰りたくて。
帰って慣れ親しんだソファに座り、気持ちを落ち着けて考えたかった。
だから、信号が赤に変わってしまったのに·····
一台の車が直に青になるだろうと減速せずに走ってきたことに気付けず、その車の前に飛び出してしまっていた。
交差点中に大きくブレーキ音とクラクションが響いた───
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今日は人がいつもより多い。
「クリスマスイブだからか多いなぁ。まぁ俺達には関係ないイベントだな」
「ああ」
一応、親友の真山竜
小学校からの付き合いで、今では仕事のパートナーでもある。主に営業的なことをしてくれている。
「なんか騒がしいなぁ。交差点にすげえ人集まってるぞ。お!救急車のサイレン、パトカーも·····交通事故みたいだぞ、逸樹」
「また見ようとするなよ、早く帰ってシステムを設計するぞ」
正直、世の中に興味はなかった。
何が起ころうと誰がどうなろうと、日々情報が飛び交う世界で、目や頭を振り回されるのはごめんだった。
自分のやりたいこと好きなことだけに、接している方が楽だ。
横断歩道の渡り始めのところで、誰かが倒れているようだった。救急隊員が事故に遭った人を担架に乗せていた。
見るつもりはなかったが、運び込まれる時に担架から何か光るものが落ちたのが、視界の端に入った。地面に落ちた光るものは、テニスブレスレットだった。
もちろん、初めから俺が知る名前じゃない。
ダイヤモンドが、ぐるりとブレスレット全体に連ねられたブレスレット。
輝きがただの18金チェーンよりも、段違いにすごかったから目に留まる。
それに彼女がつけていたから·····
俺のあの人が·····あれは彼女が·····いや、まさか、そんなはずないな。
高級なものだけど一点物じゃないから、彼女じゃなくても·····でも、何か嫌な感じがした。その瞬間通り過ぎた体をくるりと反転させ、救急車の方へ向かう。
「え!お、おい!逸樹!」
意外もいいとこだった。
小学校からの、親友、東条逸樹──世間に興味はなく、機械システムの中だけにしか反応しない男。
高身長で、穏やかで整ったモデルのような顔をした男なのに、髪でかおを隠し笑わない、人と関わりたくないから。·····もったいない。そんな男のはずなのに··········
でも、そんな逸樹が顔色を変えて、感情を現した。
竜がびっくりして、俺を呼ぶ。
何に対しても無関心だった俺が、急に野次馬のように騒ぎのある方へ向かったから。
小学校からの付き合いで、恐らく、俺の初めて見る行動に驚きまくっている。それはそうだろう·····俺は何に対しても無関心で興味はなかったから·····
ただ一人の人に対してを除けば。
俺は早足で、いや、ほとんど走るという動作を取り、救急車へ運び込まれるところだった人の顔を覗き見た。
「こと、の、さん?まさか·····」
目は閉じてるから、100%彼女だと言い切れないが、間違いない·····古都乃さんだ。俺の、俺の唯一の人·····佳倉古都乃さん·····」
「お知り合いですか!?」
俺の声を聞き取った救急隊員の一人が、声をかけてきた。
「この人をご存じですか?」
「いや·····俺は」
「とりあえず一緒に乗ってください!」
「はい!」
後ろで竜が叫んでいるのも構わず、飛び乗った。
「俺は知らねえぞ·····」
竜は呆れた様子で、今後の俺を案じまくっているのがすごく伝わってくる表情で、俺にだけ聞こえる音量で呟いた。
救急車の中で、救急隊員が応急処置をしている。
俺は彼女の手を握っていた。
「彼女に声をかけてあげてください!意識が戻るかもしれません」
「え·····」
戸惑った。
勇気を出して、声をかけてみた。
「こ、古都乃さん·····目を·····目を開けてください」
声が震える。
もしかして、二度とこの瞳を見れないんじゃないか·····笑った顔を見れないんじゃないか·····
「時々声を!」
また隊員に言われる。
もし彼女をこのまま失ったら、そう思ったら、勝手に言うつもりのなかった言葉が出てしまった。
「古都乃さん。
俺を置いていかないで·····もう一度いや、またあなたの笑顔が見たい!俺に笑いかけて欲しい·····」
何度か彼女に声をかけていると、ぴくっと俺の手で包み込んだ、彼女の小さな指が反応してくれた。
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MRIでは、特に大きな怪我は奇跡的にはなかったようだ。ただ、頭部を打撲して血が少し出たので、様子を見なければならないということだった。
彼女、古都乃さんには両親はいない。
だから、俺だけが彼女のそばにいられる。ここに来て、ずっと彼女の手を握っている。
化粧品会社に勤めているだけあって、肌の手入れも行き届いている。いや、元々キメが細かいのだろう。
目を閉じていると人形のようだ·····綺麗だ。
白い肌に目元は普段メイクでは、涼しげな綺麗さを出している。でも素顔は目尻が下がっていて、可愛さが引き立つ。俺は素顔の方がより好きだ。
鼻は小さめで口元は少しふっくらしていて、扇情的だ。
ベッドで眠る彼女の手を握っている。
──温かな彼女の手。
救急車の中で握っていた時は、冷たさがあったから、今こうして暖かさを感じて安心する。
眠っているだけのようだ。
どうか何事もなく、目覚めてくれ·····
あなたが目覚めてくれたら、どんな罰でも受けるから。
「う·····ん?」
日の光が顔にかかり、まぶたの中にも光がわずかに感じられる。ゆっくりを目を開けた·····
「ここ、は·····」
目を開ければ、真っ白な天井が見えた。
周りに目をやれば、見なれない壁·····カーテン、椅子·····。
手に温もりを感じて、その手を見れば、私の手を握ったままうつ伏せになっている人が。
男の人·····
「誰·····?」
手を引いてしまった。
それと同時に、その手の人物が目を覚ましたようで、ゆっくり動いた。
そして、ゆっくり寝ぼけた感じで、顔を上げた。
その人を見つめたまま声を出せなかった。
始めは、前髪で顔が隠れて見えなかった。
でもその人が、前髪を寝ぼけた様子で掻き上げた時、顔が現れた。
整った顔·····瞳が綺麗。
そして目が合った。
怖いと思ってたはずなのに、その顔から目が離せなかった。
どこかで見たような·····綺麗な瞳。
見つめ合っていた彼が、ゆっくり目を見開いた。
「あ·····?あ!古都乃さん!良かった·····大丈夫ですか!?どこも痛くはないですか? 」
「え·····あ··········あの·····」
「あっ、先生を·····」
答える間もなく、矢継ぎ早に聞かれ、先生を呼ぶブザーを押した。
それからすぐにお医者さんと看護師の人が来て、私の状態を調べ始めた。
でも·····体にどこか痛みはあるとかとか、どこを打ったか覚えてるかとか聞かれてるけど、私·····何があったの?それより──私は誰?·····あの人は·····私を古都乃さんって呼んだ·····
自分のことが分からない。
色んな人がいて、その人達から聞かれて怖くて·····怖い!どうしよう·····何が·····?
うつむいて、目をぎゅっと閉じてしまった。
そうしたら·····どこか具合が悪いのかと聞かれて·····
(助けて·····!)
手をぎゅっと太ももの上で握りしめていたら、その手に温かい感覚がした。
ゆっくり目を開けてみたら、私の手を包むように手を添えてくれている。
顔を上げれば、さっきまでお医者さんが来てから、ずっと後ろにいた彼が、私のすぐ近くに来て手を握ってくれていた。
「大丈夫。分からないなら、分からないで。びっくりしますよね·····あなたを責めてるんじゃない。
目をやっと覚ましたばかりなんだから、焦らなくて大丈夫だ」
彼が優しい笑顔で、そう言ってくれた。
正直、無表情に近い感じだったけれど、私には優しく笑みを浮かべているように見えた。
前髪が伸びて、顔を隠していけるけど、私が怖がらないように、かきあげてくれているみたいだった。
見知らぬ人ばかりで、何もわからず混乱しているから、この状況が怖かったけれど、それでも彼の顔は綺麗だと別の感情が生まれるぐらい整っていて、目鼻立ちは、はっきりしていた。いつまでも見てしまうような顔。
でも今は、彼も少し怖がっているように見えた。
「は·····い」
その手の温もりと、言葉と彼の顔に安心して、返事ができた。
「 あの·····」
「うん」
「·····私は·····どうしてここに?病院に?·····私は、誰か·····わからない」
「「「えっ!」」」
お医者さんも看護師の人達も何も言わなくなった。そして、少し間を置いて再び騒がしくなり、別の質問が始まり検査も行われることになり、慌しく俺も彼女も考える余裕がなくなった。
そして、全ての検査が終わって下された診断は──
記憶喪失だった。
(逸樹Side)
古都乃さんが目覚めた!
急いで医師を呼んだ。
──医師たちが病室に入ってきて、彼女に質問を始める。
俺はここで、もう側にはいられなくなるだろうと覚悟をした。十分だ。彼女のそばにほんのわずかでもいられて·····彼女がちゃんと目覚めた。それだけでもう··········そう思っていたら、目をぎゅっとつぶって震えている彼女。その姿は昔、不安で怖かった時自分もそうしていたことがあった。
彼女の気持ちが手に取るように分かると思うのは、己の傲慢さか·····それでも安心させたくて、気がつけば、そばに駆け寄り手を握っていた。
俺の掛けた言葉で、少し落ち着きを取り戻してくれたようだ。
·····だけど彼女が発した言葉で、状況は大きく変わった。
• ───── ୨୧ ───── •
「どうしようか·····確かご両親はいらっしゃらないんですよね」
医者は俺に聞いてきた。
「誰か、彼女の家族のような関係者はいませんか?これからのことを相談できるどなたか」
看護師も俺に視線を向けてくる。
診察室で俺の向かいには、パソコンのカルテを見ながら、眉間に皺を寄せて考えこんでいる。
俺の隣には彼女、古都乃さんがいる。
不安そうな彼女を少しでも安心させたいと、手を握り続けていたら、診察室に行くことになり座った途端、彼女から無意識に自然に手を繋いできた。
驚いた。すごく。同時にすごく嬉しかった。
だから俺は、ぎゅっと握り返した。そして覚悟した。
「·····俺は、俺は彼女の婚約者です。だから、彼女のことは、僕が面倒を見ます」
「えっ⁉️」
「そうだったの⁉️」
「·····婚約者·····?」
みんなが驚く。·····そして彼女も·····婚約者がいたことに。
それが俺だということにも·····
その後病室に戻ってから、彼女自身のこと、両親は他界していること、隣同士だったこと、彼女の仕事のことを、深く考え込まない範囲で、淡々と話した。
また何かショックを受けて、体調が悪くなるのを懸念したからだ。
それでもやはり、全てが初めて聞く話に衝撃を受けたようだし、どうしていいのか分からないようだった。
大丈夫。
俺が貴方を守る──




