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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第21章 戦乱の予感

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第774話 食生活の充実


「……とまあ、その前に。ちょっとこいつを味見してみるか」


 影治の前に並ぶ2つの陶器の瓶。

 同じホルスタウロスクイーンからドロップしたというのに、何故か大きさが異なる。

 1つは通常のホルスタウロスからドロップするものより、一回り大きい500ミリリットルくらいは入ってそうな容器。

 そしてもう1つはかなり小さめで、恐らく容量としては100ミリリットルくらいしかないのではなかろうか。


「うん、美味い! もう一杯!!」


「ちょっとお! もう一杯じゃないわよ! 大体コップで飲んでる訳でもないでしょ!」


 影治はいちいちコップを取り出すのも面倒なのか、陶器を逆さにして口に付けないようにしてダイナミックに味見をする。

 簡潔な影治の感想からは分かりにくいかもしれないが、通常のホルス乳と比べて更にコクやまろやかさ。

 それから口に含み、喉に流し込まれるまでの間に漂う濃厚なミルクの感覚は、食通でなくとも違いが分かるほど鮮明に異なる。


「んで、このちっちゃいのは……ってドロドロしてる?」


 小瓶に入っていたのは白い液体……というよりは、ねばねばした蜂蜜のような物体だった。

 そして先ほどのクイーン乳とは違い、しっかりとした甘い匂いが漂ってくる。


「これはもしや……」


 こちらは瓶を逆さにしても簡単には出てきそうにないので、仕方なく収納魔導具(アイテムボックス)からマイスプーンを取り出し、軽く掬って口に含んでみる。

 すると、濃厚なミルクに上品な甘さが濃縮された、練乳のような味が口いっぱいに広がった。


 影治は特別甘いものが好きという訳でもなかったが、この練乳ならそのまま1瓶舐め尽くすことも出来そうだ。

 甘いは甘いのだが、くどく残るような後味がないので、そのように感じてしまうのだろう。


「それはもしかして練乳ですか?」


「ああ。流石は脅威度Ⅸの魔物がドロップしただけあるぜ。これなら甘いのが苦手な人でも多少は食えるんじゃねえかな? なんつーか、上品な甘さだ」


「へぇ、それ練乳なんだ? 今度あたしも試してみよっ!」


 この世界の一般的な人達は、練乳なる存在を知らない。

 家畜の乳という時点で、それを育てている農家やら遊牧民くらいしか口にしないというのに、そこに貴重な甘味をふんだんに盛り込むなど更に手が届かない存在となってしまう。


 しかしリュシェル達は、影治の食改革の影響を受けたニューホープで暮らしているので、練乳という存在もしっていた。

 特にリュシェルはかき氷に練乳だけかけて食べるのが好きだ。

 またティアは元々砂糖盛り盛りのコーヒーを好んでいたが、最近は練乳を入れて飲むのに嵌っている。

 ベトナム風のコーヒーだと濃い目に淹れるのだが、甘いものをこよなく愛するティアは普通に淹れて飲んでいた。


「肉みてえに、ミルクの方も種類が複数あるってことか。そこは普通のホルスタウロスとは違ぇんだな」


 ちょっとしたトリビアを得たエカテリーナは、コーヒーはブラック派なので、あまり練乳ドロップに関しては興味がないようだ。


「肉と同じってんなら、ドロップ率も違うかもしれねえな」


 その辺も確かめて行こうと思いながら、本格的に16層の探索を開始する。

 11層から引き続きこの辺りのエリアの地図はない。

 終点は20層と近いように思えるが、1層ごとの広さが結構ある。

 通路の幅も広いので、体感的にはかなり広大なダンジョンのように感じられるエリアだ。


「モオオオォォォ!!」


「グモモモモモッ!」


 そんな広いダンジョン内からは、ひたすらミノタウロス系の魔物の泣き叫ぶ声が響き渡る。

 メインターゲットである、ホルスタウロスクイーンからキングタウロスまでとにかく出会った先から倒し、ドロップした肉を焼き、毎日のように焼肉パーティーが行われた。


 キングタウロスは脅威度Ⅹ指定だけあって、単純にパワーがやばい。

 語彙がやばいとしか言えなくなるほどやばい。

 ドラゴンアヴェンジャーだと、素の身体能力はガンテツが高いのだが、そのガンテツですらそのままではパワー負けする。

 シャウラが闘装術で身体強化することで、ようやく互角といったところか。

 何にせよ、15層ボスのバイタウロスのような魔術を使う魔物はほとんどいないので、十分な実力さえあれば戦う側からすればやりやすい。










「ふふふ……。今日もお肉いっぱい!」


 ミノタウロスの王、キングタウロスのドロップする肉は、筆舌にしがたいほど美味しい。

 とにかく肉の味が強く、物理的に味覚で味わうだけではない多幸感のようなものまで感じられる。

 何かトリップするような成分が、含まれているかのようだ。


「おめぇ、よくあんだけ食って飽きねえもんだな」


「お肉はひゃくやくのちょー! いくら食べても良い」


「そりゃまあ美味ぇことに異論はねえけどよお。流石にこう毎日肉が続くと、野菜や魚も食いたくなってくんぜ」


 影治達は全員が収納魔導具(アイテムボックス)を所持しており、食材に関しても各自が分散して所持している。

 特にリーダーの影治は幾つもの収納魔導具(アイテムボックス)を管理していて、食材に関しても常にメンバー全員が数か月食えるくらいは常に確保していた。


「別に他の食材のストックが足りない訳でもねえが、とにかくここだと肉が取れまくるんだから、少しでも無駄にしない為にさっさと消費した方がいい」


 影治は獲得したドロップの肉を、そのまま調理したり保存するだけでなく、燻製や干し肉などにして加工したりもしていた。

 魔術や魔導具を使うことで、保存期間は劇的に伸びる。

 水分活性を下げることで、保存性が増しているということもあるのだが、他にも冷蔵保存したり付与魔術の劣化保護がかなり優秀だ。


 なお肉の加工は一時的にゲートキーでピュアストールへと飛び、肉肉パラダイスのメリンダに纏めて頼んできた。

 メリンダも狼人族らしく、超高級肉を前にシャウラ以上に興奮しており、褒美に肉を分けてやると喜んで加工に取り掛かってくれている。


「ごくごくごく……」


 一方クイーン乳の方も順調にストックが溜まってきている。

 練乳の方はレアドロップらしく、通常のミルク9に対して1の割合でドロップしており、こちらもそれなりの量になった。

 肉の方はシャウラやピー助が飽きずに食べまくっているが、ミルクの方は気に入ったのかカレンがやたらと飲みまくっている。


「そんなに気に入ったのかあ?」


「ええ、今では朝と夜に1杯ずつ頂いてますわ」


 最初の内はそこまででもなかったのだが、ある日からやたらとカレンはクイーン乳を飲むようになっていた。

 今のところドラゴンアヴェンジャーの中で、一番クイーン乳を飲んでいるのはカレンだろう。


「……無駄だとは思いますけどね」


 カレンの背後にいたセルマが、ぼそっと小さく呟く。

 一瞬ビクッとしたカレンだったが、聞かなかったことにして更にコップをグイッと大きく傾けてクイーン乳を一気に飲み干した。


「ぷはぁぁぁ、美味しいですわ。常温のままでもいけますけど、こうして冷やして飲むのも喉ごしがよくてたまりません! あー、美味しい美味しい」


 1杯飲み終えたカレンが、やたらと美味しさを強調するのだが、そんなカレンにセルマはひたすらと冷めた目線を送る。

 そしてカレンにとある情報を吹き込んでしまったエカテリーナは、そんな2人を横から見つつなんだかなぁという顔をしていた。


 ちなみに影治は最初にカレンに声を掛けたあとは、カレン達から注意を外して目の前のプリン作りに集中している。

 プリンだけでなく、これまでクイーン乳を使った各種スイーツも作っていて、これまでとは一線を画す出来上がりになっていた。


 それにミルクの使い道はスイーツだけではない。

 古今東西あらゆる料理に使われている食材であり、極上の肉を入手出来ていることもあって、久々に影治の料理熱に火が灯っている。

 ヨイチを配下にしてからは、影治も忘れていたような日本の料理や、彼が食べたいと言った料理の再現などもするようになり、料理の幅も広まってきていた。


「よーーし、出来たぞお前ら! おやつのプリンだ!」


「わーっ! 待ってたわよ!!」


「ぷりんぷりん」


 休憩時間中とはいえ、まるっきり緊張感のないやり取り。

 多くの人間にとって、死が隣り合わせのダンジョンの奥深くであっても、ドラゴンアヴェンジャーはドラゴンアヴェンジャーであった。


 だがそんな彼らも、いつもそのように腑抜けている訳ではない。

 ダンジョン探索中や戦闘中は、まるで別人のようになる。

 それは今もまた同じであった。


 影治達が立っている場所の前には、石造りの大きな扉がある。

 場所は牛魔窟20層の最深部。

 この扉の先には、ダンジョンの守護者である災厄級の魔物が待ち受けている。


 しかし、これまでの10層や15層などでもそうだったのだが、ボス部屋には人数制限が設けられていた。

 牛魔窟では、同時に入ることが出来るのは6人までだ。

 大きな扉を前に、影治達は真剣な表情で戦闘メンバーについて話し合っていた。


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