第236話 レディソード
「冒険者ギルドが俺を呼んでるだあ?」
「は、はいぃ……。あの、ゴールド級冒険者のエイジさん……ですよね?」
「そうだが、何で突然呼び出しなんてしやがるんだ? 今は護衛依頼の途中なんだがな」
魔物暴走から4日が経過し、街も表面上は活気を取り戻し始めていた。
カレンと護衛の騎士達は、同盟締結についての細かい打ち合わせなどを行っており、今はこの場にいない。
その間、影治やビッグシールドたちには休暇が与えられていた。
そこへ冒険者ギルドからの使者が訪ねてきたのである。
「あの、その、用件については聞いてないんですけど、とにかくついてきてもらえませんか……?」
「ああん?」
ただの使者という割に、この男からは緊張とは別に微かに必死さがにじみ出ていた。
緊張については、理由は察することは出来る。
影治達は現在領主の館に逗留しており、使者の男は館内のラウンジまで案内されていたからだ。
だがそれとは別に、使者の男は何か隠しているようにも見える……のだが、特にこれといって予定もなかった影治は、男についていくことを決めた。
「……まあ、いいだろう。ティア達はここで待機しててくれ」
「えー? ついてっちゃダメなの?」
「何の用件かは知らんが、ちゃっちゃと済ませてすぐに戻ってくる。だから大人しく待ってろ」
「うーーん、わかったわ。早く帰ってきてよね!」
別にもう慣れたことではあるが、ティアやチェスを連れて歩いているとかなり目立つ。
それに今回は男の態度が怪しいというのもあって、影治はひとりで冒険者ギルドに向かうことになった。
この街についてはまだ詳しくない影治だが、使者件案内役の男はちゃんとギルドに案内する気はあったらしい。
しばらくついていくと、冒険者ギルドの建物が見えてくる。
ギィィッというスイングドアを開けて中に入ると、それまでの喧騒が急に静まり返る。
屋内にいた者達の視線は、まず使者の男へと向けられ、それからその隣の影治へと移っていく。
人の視線を無意識に感じ取っていた影治は、その一連の視線の動きが数人だけではなく、目線を向けてきた者達ほぼ全員が同じ動きをしていることに気付いた。
「おい、マイク。そいつが例の1位の奴だってのか?」
「は、はい! そうですうう」
どうやら使者の男の名はマイクというらしい。
若いヒューマンの男だが、若さゆえの無鉄砲さとか根拠のない自信などは持っていないようだ。
というよりも、何故冒険者をやってるのか分からないような気弱な感じの男だった。
「なら益々納得出来ねえなあ。そんなひょろガキが1位だなんてよお」
「そーだそーだ! どうせインチキでもしたんだろう!」
「ギルドにコネでもあんのかあ? どう見ても強そうには見えねえ、ただのクソガキじゃねえか!」
用件も聞かされず呼び出された挙句、ギルドに着くなり罵声を浴びせられる影治。
しかしそんな状況にも関わらず、影治は満面の笑顔を浮かべていた。
「ハッハッハ。なんだなんだ、よく分からんが俺のことで大分盛り上がってるみてえだな? つうか、さっきから1位1位って言ってるが何の話だ?」
「ああん? そりゃあ決まってんだろ。今回の魔物暴走の勲功のことだ」
「勲功? ……ああ、なるほどな」
今回の魔物暴走では、冒険者ギルドから特別依頼が発動されており、下位の冒険者であろうと後方支援役として召集されていた。
数としてはレンジャー部隊や衛兵、民兵の数が多かったのだが、そちらはマセッティ側が担当しており、手柄を上げたものには特別報酬が支払われている。
そして冒険者たちはというと、別途冒険者ギルドがマセッティ側と協力しながら論功行賞を行っている。
その結果はギルド内に掲示されており、そこには名前と報酬金額が記載されていた。
これは特別依頼に参加することで、このような報酬が得られるということを明示するために行われていることだ。
特別依頼は強制依頼となっているが、個別の冒険者の行動までを完全に束縛できるものではない。
一応参加しなかった場合の罰則はあるにせよ、こうして分かりやすく参加するメリットを見せる事で、次回以降の特別依頼の参加を促す意味合いがあった。
「勲功2位のビッグシールドってなぁ俺も聞いたことある。ピュアストールで活動してるダマスカス級冒険者パーティーだってんなら、文句も何もねえ。だがそれを飛び越えて、ポッと出のテメェのようなガキが1位ってのが納得いかねえんだよ」
「ふーん。つまり、俺は有象無象の下らん妬みのために、態々ここまで呼ばれたって訳か?」
「ああ!? んだと、テメェ!」
「調子こいてんじゃねえぞ、ゴラアァ!」
影治が煽るような言葉を発すると、冒険者達のボルテージが上がっていく。
このままでは、ギルド内で大乱闘に発生するのも時間の問題だ。
だがあと一歩で暴動直前というところで、制止の声がかかる。
それはこの騒がしい中でも良く通る、ハスキーボイスをした女性の声だ。
「あんたら! 騒ぎは起こすなって言ったハズだよ!」
「で、でも姐さん。このクソガキの態度が生意気で……」
「そ、そうですぜ。大体どう見たってただのガキにしか見えねえ野郎が1位だなんて、きっと何かカラクリが……」
「あたいに口答えする気かい? 大体見た目だけで相手を判断するなんざ、未熟もんの証拠さ」
「姉御ぉ……」
「済まなかったね。こいつら威勢だけはミスリル級くらいはあるんだけど、実力は大したことないんだ」
周囲を囲っていた冒険者を押し退け影治の前に現れたのは、190センチ近い身長を持つ大柄の女性だった。
レザー防具一式に身を包んでいるが、素肌が見える箇所も多く、その筋肉質な肉体をこれでもかとばかりに見せつけているようだ。
頭部には2本の角が生えており、尾てい骨の辺りからは動物の尾が生えている。
獣人スキーとして有名なダンフリーであれば、それだけでも種族を特定出来たであろうが、この女性の場合ははちきれんばかりの巨乳をしているので、影治にもすぐに牛人族であることは判別出来た。
もっとも、胸にまで筋肉が詰まりまくっているようなので、彼女の巨乳に柔らかさを求めることは出来ない。
背には自分の身長と同じくらいの大きな剣を背負っており、影治はふと性別は違えど同じ獣人の大剣使いであるバキルのことを思いだした。
「そういうアンタは、結構やりそうだな。で、結局俺が呼ばれた理由は何なんだ? ただいちゃもんつけるためか?」
「そう煽るでない。お前さんが呼ばれたのには、しっかりとした理由がある」
「そーそ。それなのにこいつらと来たら、1位の奴の化けの皮を剥いでやる! って息巻いちゃってさ。ほーんと、しょうもない男共よねえ」
「仕方あるまい。それだけ1位の報酬額が破格だったのだ」
牛人族の女の後から更に3名の女性が前に出て来る。
雰囲気からして、この3人は牛人族の女のパーティーメンバーなのだろう。
先ほどは見た目だけで判断するもんじゃないという話があったが、立ち振る舞いからだけでも、その3人がそれなり以上の実力者であることを影治は見抜いた。
「なんだなんだぁ? 見たとこ仲間たちのようだが、用件ってのはお前達に関係してるってことか?」
「まあそうさね。ゴールド級冒険者、エイジ。あんたにはギルドから昇格の話が持ち上がってる。実績については今回の魔物暴走の一件だけで十分なんだけど、こいつらが言ってたように、その実力をしっかりと確認したいってのがギルドの意向でね」
こいつらというのは、先程から影治に絡んでいた周囲の冒険者たちのことなのだろう。
牛人族の女がそう言うと、「俺がぶっ殺してやりますよ!」とか物騒な声が幾つか上がる。
そんないかにもな冒険者らしい連中を、一睨みする牛人族の女。
それだけで、調子のいい声がピタリと止む。
どうやら彼女達4人は、このギルドではかなりの実力者のようだ。
牛人族の女だけでなく、他のメンバーに対しても冒険者たちは下手に出ていた。
「その実力の確認のために、あんたらと戦えと?」
「そういうこと。あたいはゾネス。この街唯一のダマスカス級冒険者パーティー、『レディーソード』のリーダーさ」
「同じくレディーソードのシャーリーじゃ」
「あーしはロルン。んでえ、こっちの無愛想な感じのエルフがセリアね。よろぴくー」
「…………」
リーダーであるゾネスは牛人族の大剣使いであり、シャーリーは狐人族の魔術師。
やたらぺちゃくちゃと喋っているロルンはヒューマンの女性で、無骨そうな雰囲気を醸し出しているエルフがセリアというらしい。
ロルン以外は全員ダマスカス級であり、ここスメリワでは一番名が知られているパーティーとのことだった。
「それで、どうする? 別に昇格する気がないんだったら、このまま帰ってもらっても構わないよ」
黙って4人を眺めていると、ゾネスが再度影治の意志を尋ねてくる。
影治がレディーソードを眺めていたのは、ビッグシールドのことを思い浮かべていたからだった。
どちらも剣や盾といった装備の名前がパーティー名に入っているだけでなく、多様な種族で構成されているという点も似ている。
特にゾネスに関しては、先ほどもバキルのことを思い浮かべたばかりだった。
「せっかく足を運んできたったのに、何もしないで帰るってのもな。いいぜ、戦ろうか」
申し出自体は別に悩む必要もないことだったので、二つ返事で引き受ける影治。
そして影治たちはギルドに併設された訓練場へと、移動することとなった。




