第213話 魔力封環
「おおお! エイジ様は回復魔術も使えるのですね!」
「回復魔術を知ってるのか?」
「ええ、勿論ですとも。有名な1級ハンターの男が、回復魔術の使い手だと以前耳にしたことがあります」
「1級ハンター……か」
ダンフリーの名代としてカレンがスメリワの街に出発した。
同行者は影治と愉快な仲間達の他は、ビッグシールドの5人。
それからすっかり影治の信奉者となったエルフのリュシェルに、騎士からは将来の騎士団長候補と評されているアルフォンス。
騎士は他にも2名参加しているが、それでも派遣される騎士の数は少ないと言える。
影治やビッグシールドが同行していることから分かるように、少数精鋭で行こうというのがダンフリーの思惑としてあるのは明白だ。
アルフォンスも騎士2名も騎士の中では実力が高い方であり、今回同行する騎士に関しては結構な数の志願があったらしく、その中から見事同行を勝ち取った経緯がある。
旅の道中にでも、影治に訓練を付けてもらいたいという思いがそこにはあった。
だが今回はそこに更に魔術バカが2名加わっているせいで、常に誰かしらが話しかける状態になっており、影治は若干鬱陶しそうにしている。
「最近は話を聞きませんが、昔はちょくちょく耳にしましたね。まあヒューマンですので、今はもうポックリ逝っちゃってるのかもしれませんが」
エルフが言う昔となると、ヒューマンや獣人辺りからするとかなり昔の可能性がある。
とはいえシリアも知らなかった、回復魔術の使い手として有名な人物がいたというのはちょっとした情報だった。
何分使い手がほとんどいない回復魔術は、現状だと影治が編み出した魔術しかないのだ。
ブランチネスト村での滞在でそれなりに回復魔術を修得したが、もし既存の使い手に教えを請うことが出来ればこの上ない。
だがその相手がハンターだということで、影治は渋い表情を隠せない。
ハンターだからといって、必ずしも全員が全員帝国の影響を受けた者達ばかりではない。
しかしハンターとして1級にまで上り詰めているとなると、どうにも影治はその事実だけでろくでもない人物なのではないか? という疑念が離れない。
「そうか。ところで俺の魔力量が視えるという魔眼の能力だが、今はどう視えている?」
「今ですか? ……えっ!」
どうやら常日頃から能力が発動している訳ではないらしく、意識して切り替えないとリュシェルの能力は発動しないらしい。
改めて自分を視るよう言った影治に、リュシェルは小さく驚きの声を上げる。
「この前視た時よりもかなり魔力が低くなっているように……視えますね」
「うむ、どうやら上手くいったみてえだな」
「な、何をしたんです?」
リュシェルの特殊能力によって、あっさりと魔力量を見抜かれてしまった影治。
スメリワへと出発する前の空いた時間に、この問題をどうにか出来ないものかと色々試していた。
そもそも魔力とはどこから来るのか? という疑問だが、影治の感覚としては体内の一点から湧き水のように生まれてくると感じていた。
それは天使にとって重要な器官である、神聖石のある位置と同じだ。
そこで影治は、体内を流れる変換前の無属性の魔力を操作して、神聖石の周囲を取り囲むイメージをする。
それはあくまで体内魔力のコントロールであって、なにがしかの魔術を発動している訳ではない。
そのため魔力が消費されるということはないのだが、上手くイメージし、指向性を与えた体内魔力で魔力の発生源を包み込むことで、無造作に体外へと放出されていた魔力が、大幅に減少することが確認出来た。
その状態を維持するのは、影治も最初は苦労した。
しかし元々誰に教わるでもなく、転生して間もない頃に自力で魔術を修得できた影治は、この世界の一般的な魔術士と比べ、魔力の扱いに長けている。
この魔力で包み込んだ状態でいることで、これまで無駄に外部に垂れ流していた魔力も減った。
漏れ出た魔力は、元々本人も気付かない自然回復量以下のものだったが、駄々洩れが減った結果、魔力の自然回復量も僅かに向上している。
「なあに、ちょっと体内の魔力をコントロールする方法を覚えてな。おかげで魔力の回復速度が気持ち程度良くなったし、お前にも魔力量を見抜かれなくなった」
「なんと! それはかなり高度な魔力操作術である、魔力封環ではないですか! 私の魔眼の能力を知り、即座に対応されるとは流石はエイジ様!」
「魔力操作ねえ。私も少しは練習してるけど、それよりは普通に新しい魔術が使えるように練習することの方が多いわね。それってそんなに効果あるの?」
「いえいえ。これは元々膨大な魔力量を持つエイジ様だからこそ、より魔力封環が活かされるのですよ。私達エルフのように、長き時を生きる者が修得することはありますが、積極的に覚える技術でもないでしょう」
この世界では技術を軽視しがちな武術同様に、魔術に関してもとにかくより上のクラスの魔術を使えることが求められている。
使用出来るクラスの範囲内で、まだ覚えていない魔術を修得することも同様だ。
それらに比べたら、魔力のコントロールなどわざわざ積極的に訓練する者は少ない。
影治のように一から魔術を開発するのではなく、ただ詠唱と効果だけを学んで魔術を使用するだけなら、精細な魔力のコントロールはあまり必要ないのだ。
だがリュシェルが言うように、影治のような膨大な魔力量を持つ者がこの技術を身に着ける利点は大きい。
この世界の魔術師は、魔力量……つまり最大MPの異なる二人の魔術師が空になるまで魔術を使っても、満タンに回復するまでの時間は余り変わらない。
種族や本人の特性によって多少は変わるのだが、フル回復するまでの時間はそこまで大きな違いはないとされている。
割合で魔力が回復するというなら、最大値が多い者の方が回復する魔力の量が増えるということだ。
これが影治が日ごろ魔術を使いまくっているのに、全く魔力が枯渇しない理由のひとつだった。
魔力は睡眠時に大きく回復するが、日常生活の中でも微量に回復している。
今回の新たな技術は、そこへ更に回復量にプラスボーナスを加えることに繋がった。
「ふうん……。でも少しでも魔術を多く使えるようになるなら、練習しておきたいわね。なんせ、生まれ持った魔力量ってのはそうそう伸びないものだしね」
「そうなのです。ですからこそ! エイジ様のあの膨大な魔力量は途轍もなくヤバイんですよ!」
ピュアストールの街を出発してからは、このように影治、リュシェル、シリア、時折カレンやアトリエルをも交えた魔術談議が頻繁に行われている。
なんだかんだで影治も魔術にはかなり嵌っているので、積極的に話に加わっていた。
そうした話の流れで、影治の魔力量の話から今度は魔術の属性について話が移っていく。
特に新しく同行者に加わったリュシェルは、200年以上の時を生きる優秀な魔術師だ。
彼はなんと一番得意とする植物魔術ではクラスⅧまで修得しており、他にも水魔術をクラスⅦ、土魔術もクラスⅥまで使いこなすという。
他にも風魔術をクラスⅤまで修得しているが、影治が一番興味を覚えたのはクラスⅣと他の魔術に比べて熟練度が低いが、これまで使い手と遭遇したことがなかった錬金魔術についてだった。
「錬金魔術ってのは具体的にどんなことが出来んだ?」
「私が聞いた話では、ポーションを調合したりするのよね?」
「ええ、そうですね。他にも錬金魔術は基本的に、素材を調べたり加工したりといったものが多いです。戦闘で役立つ魔術ではないですが、有用な割に使用者が少ないことから、魔術師ギルドでは重宝されがちですね」
「シドニア騎士団でも、先生が作ったポーションを仕入れていました。最近は特に影治の影響で訓練に身が入り、ケガをする者が増えていたので、助かっておりました」
「私が作れるポーションは下級までですけどね」
「それでも十分だと思いますわ」
街や村で暮らしている一般庶民が、ポーションを使用する機会はほとんどない。
しかし戦闘に関わる職の者は1度は使用したことがあるものだ。
全体的な数の割合で言えば、治癒魔術を使える者は少ない。
そうなると、ケガを治すには自然回復を待つか、ポーションを使用するかのどちらかになる。
「植物魔術にも興味はあるが、錬金魔術について今度教えてくれ。今は新しく覚えた雷魔術を集中的に練習してるから、それがある程度形になってからになるだろうが」
「ええ、勿論構いません。エイジ様でしたら、それほど時間を掛けずに修得出来ることでしょう」
基本的に魔術をわざわざ無償で人に教える者はほとんどいない。
しかも錬金魔術という、希少で有用な魔術となると猶更だ。
その辺の事情は影治もこの世界で暮らしてきて理解している。
なのでお礼の意味も兼ねて、これまで披露することのなかった魔術を公開することを決める。




