第六十四話 幼い使用人がセシリアにおねだりしたもの
「じゃあ、出かけるわよ。留守はお願いね」
翌日、セシリアは商談の為、アンジュと共に車で街へと出かける。
最近は馬車ではなくより速く移動できる自動車を使うようになり、以前より遠くへ出かけることも出来るようになって、不在がちの日が多くなっていた。
「セシリア様、またお出かけかー……」
ポールがセシリアを使用人たちと見送った後、つまらなさそうに、溜息を付きながら窓を拭いていく。
セシリアが屋敷にいないだけで、ポッカリと穴が開いた気分になってしまい、今すぐセシリアを追いかけたい気分に駆られていた。
「そうだ、夜中にセシリア様のお部屋に……」
セシリアの部屋には近づくなと、アンジュに厳命されていたが、そんな事は守る気など全くなく、仮に他の使用人に見つかっても、セシリアが怒らないだろうと考えていた為、
「失礼します……」
真夜中になり、皆が寝静まったころ、こっそりとポールがセシリアの部屋に入る。
もう真っ暗になっていた為、月明かりと星の光を頼りに、彼女のベッドへ飛び込み、セシリアの残り香を堪能する。
「へへ、セシリア様~~……」
セシリアの毛布にくるまって、愛しい主の温もりを感じるポール。
使用人としてあるまじき行為だが、罪悪感など全くなく、セシリアのベッドにずっといたいくらい、心地よい気分になっていった。
「セシリア様、明日には帰ってくるんだっけ……」
帰ったら、また夜中にセシリアの部屋に忍び込んでそれで……。
「また一緒に寝てくれるよね?」
セシリアと一緒に寝て、彼女に抱きつかれる姿を想像する。
彼女の肌を想像して、自身が身を預ける姿を思い込んでいく内に、ポールも突然、胸が熱くなってきた。
「セシリア様……」
(あれ、何か急に体が熱くなってきて……)
セシリアのシースルーの下着姿を思い出すと、自然にポールも息が荒くなってくる。
彼女のスラっとしたスタイルと豊満な胸、くびれのあるウェスト。
見慣れたはずであったが、セシリアの体を思い出しただけで、ポールはいつになく興奮してしまい、体を彼女の毛布やシーツにこすりつけていった。
「セシリア様、セシリア様……」
目を潤ませながら、セシリアの羽毛布団の匂いを嗅いで、主のベッドの中で彼女の名を呼びながら呻いていく。
彼自身は、この時に気付いていなかったが、ポールがようやくセシリアを女性として、性的な目で見るようになった瞬間でもあった。
翌日――
「おかえりなさいませ、セシリア様」
「ただいま。何か変わったことはなかった?」
昼前になり、商談から帰ってきたセシリアを使用人総出で出迎え、少し疲れた顔をして、セシリアも自室へと戻る。
(セシリア様、今日も綺麗だな……)
いつもと変わらぬ美貌に、ポールも頬を赤くしながらボーっと眺める。
セシリアの事は見た瞬間から、美人だと思っていたし、ずっと彼女以上に美しい人はいないとポールも思っていたが、今まで抱いていた感情とは少し違い、セシリアを見るだけで、胸が高鳴ってきてしまい、頭から離れなくなっていた。
「何だろう、この気持ち……」
ポールも何処か自分の体がおかしくなってしまったのかと思い、不安に駆られる。
とにかく、セシリアの傍に一刻も早く行きたい――そんな気持ちが抑えきれなくなってしまっていたのであった。
トントン。
「どうぞ」
「失礼します」
夜中になり、ポールがこっそりとセシリアの部屋に行くと、彼女は既に寝巻に着替えて、床に就く準備をしていた。
「どうしたの、こんな時間に? きゃっ!」
「セシリア様~~……」
セシリアの顔を見るや、ポールは彼女に抱き付き、胸に顔を埋める。
「ちょっ、止めなさい。いくら何でも、主人に対して無礼よ」
「だって、セシリア様に会えなくて寂しかったんだもん……抱っこしてー」
「寂しかったって、一日いなかっただけじゃない。んもう、本当に子供なんだから」
相変わらず、子供みたいなことを言うポールに半ば諦めの顔をしながら、彼の頭を撫でて、ベッドに座り彼を膝の上に乗せる。
「えへへ、セシリア様ー……」
「はあ……何か変わったことなかった?」
「うんとね……昨夜、セシリア様のお部屋に入って、ベッドの中に入ったんです」
「あなた、また私の部屋に忍び込んだの?」
「だって、セシリア様が居なくて寂しかったんだもん」
と、彼女の胸に頬ずりしながら、幼子のような事を口にし、セシリアもあきれ顔で溜息を付く。
「私は別に構わないけど、他の使用人に見つかったら大事になるから、止めておきなさい。最悪、ポールをまたクビしないといけなくなるわ」
「セシリア様が良いって言うなら、僕、見つからないように入るから良い。セシリア様がいないと寂しいんだもん」
セシリアの寝巻にしがみつきながら、彼女の大きな胸に顔を埋めて恥ずかしげもなく我侭を口にする使用人。
もはや、二人きりの時には敬語すら使わなくなり、遠慮なく体に触れたりしてるが、こんな粗相にも慣れてしまったのか、セシリアももうこんなポールの馴れ馴れしさに慣れてしまっていた。
「それとね、ちょっとおかしい事あったの」
「おかしい事?」
「うん。ベッドの中に入ったら、急にセシリア様のこと思い出してドキドキして……こうやって、抱かれたいなって思うようになっちゃって……」
「ベッドの中でドキドキしたって?」
「セシリア様のこと考えただけで、ドキドキしたって言うか……すごく胸が熱くなって、おかしくなりそうだったんです。僕、病気なのかな?」
「…………」
ポールの告白を聞いて、セシリアも少し驚いた顔をする。
今の話を聞く限り、ポールは自分のベッドの中で自慰を行っており、本来であれば犯罪的な行為であったが、セシリアはそんな事もわからずにいたポールの頭を撫でながら、
「あなたも大人になったって事よ」
「大人に?」
「そう。もう少しすれば意味がわかると思うわ。とにかく、私の居ない間に部屋に入っても良いけど、使用人に見つからないようにね。あと物は盗らないこと」
「僕、セシリア様の物なんか盗らないもん」
「そんなことはわかっているけど、念のためよ。私の部屋の衣服や貴金属類なんかはアンジュが手入れしてるから、無くなればすぐにわかるわ。欲しい物あるなら、事前に私に言いなさい。あげられる物なら、あなたにあげるから」
「うーん……じゃあ、セシリア様の写真欲しい」
「私の?」
「うん。セシリア様が居ない時でもいつでもお顔が見たいし」
欲しい物はあげると言われて、真っ先にポールが思いついたのが、セシリアの写真であった。
「わかったわ。あまり、写真撮られるの好きじゃないから、あんまりないけど……えっと、写真はここにあったかしら」
ポールの要望に応えて、セシリアが机の引き出しの中にあったアルバムを探して写真を探す。
「どんな写真が良い?」
「セシリア様が一人で写ってるのなら、何でもいいよ」
「そう。じゃあ、ちょっと古い写真だけどこれなんかどう?」
そう言って、セシリアが差し出したのは、彼女がまだ十七歳の時の写真であった。
「十七、八の頃のだったかしらね、これは」
「うわああ、キレイですう……」
セピア色の写真に写っていたセシリアは、今の面影を残しつつも、とても凛とした表情の美少女であり、ポールも少女時代の彼女の美貌に見惚れてしまった。
「ありがとうございます。一生大切にするね」
「そう。じゃあ、今日はもう帰りなさい。お休み」
「うん。あ、あの……」
「何?」
写真を受け取った後、ポールがもじもじしながら、セシリアに対し、
「えっと……キスして欲しいなって……」
「あら。珍しい。ふふ、良いわよ。んっ……」
「――!」
ポールのおねだりに二つ返事で応じると、セシリアが彼と唇を重ねる。
「ん、ちゅっ……はい、これで良い?」
「ふえ? は、はい……」
頬にキスされると思ったポールがいきなり口づけをされたので面食らってしまい、目を回してしまうポール。
しかし、ポールもセシリアをようやく一人の女性としてみるようになり、セシリアもそんな彼の成長を微笑ましく見ていた。




