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女貴族に買われた少年が厳しく可愛がられて、養われます。  作者: beru


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第五十六話 ご主人様が中々帰って来ない

「うう、寒い……」

 ポールは、手を時折、手を擦りながら、屋敷の庭に積もっていた雪をシャベルですくって雪かきをしていく。

 昨日は大雪が降ったので、セシリアの広い庭も一面銀世界になってしまい、まだ小雪がチラつく中、使用人たちが総出で雪かきをしていた。

「んしょっと……この位で良いかな……また積もらないと良いけど」

 ようやく、門から玄関までの雪を一通り脇に退かし、馬車が通れるくらいまでにはなったので、使用人たちもシャベルを片付け、屋敷へと戻る。

 しかし、雪はまだ降りそうな気配があったので、また明日も雪かきしないといけないと考えると、ポールもうんざりした気分になっていた。


「皆さん、雪かきお疲れ様。温かいスープを作ったから、どうぞ」

 調理担当のシェフが雪かきをした使用人達の為に、スープを大きな鍋いっぱいに作り、手洗いをした後、ポールも器を手に取って、スープを頂く。

「うう〜〜……暖かいなあ」

 炊き出しのスープを飲みながら、薪ストーブの前に使用人達が群がり、暖を取る。

 雪かきは実家に居た頃も散々、やらされていたが、セシリアの屋敷の庭園は広大であり、今日は特に冷え込みが厳しかったので、雪かきもかなりの重労働でポールも疲れていた。

「皆、雪かきお疲れ様。また夜になると降るという話だから、明日もしてもらう事になるかもしれないけど、今日はゆっくり休んでちょうだい」

 エントランスに降りて来たセシリアが、使用人たちにそう告げた後、暖炉の近くで座ってスープを飲んでたポールの前に向かう。

「雪かき、随分と頑張ってたわね」

「いっぱい積もっていて大変でした」

「そう。男手が足りないから、ポールにはこの時期はまだ頑張ってもらうわよ」

「は、はい」

 ポールの頭を撫でながらセシリアが彼を激励し、ポールも顔を真っ赤にして、頷く。

 彼女の労いが、とても嬉しく、疲労も吹っ飛んでしまったが、すぐに他の使用人達の所に行き、同じ様にセシリアは一人ひとり労いの言葉をかけていった。

「大変だったわね。しもやけは大丈夫?」

(セシリア様、やっぱり優しいなあ……)

 スープを飲みながら、ぼんやりと使用人たちと話しているセシリアは眺め、ポールはそんなことを考える。

 しかし、自分以外の使用人にも優しくしているセシリアを見て、何処か寂しい気分になり、ポツンと縮こまりながら、ポールは


 トントン。

「はい」

「えへへ、セシリア様ー」

「ポール。どうしたの、こんな夜中に?」

 夜になり、ポールはまたセシリアの部屋に行き、そろそろ床に就こうとしていた、彼女の元へ向かう。

「雪、また強くなってきましたね」

「そうね。今年は特に雪が多くてまいったわ。って、こら……あんまりくっつかないの」

「へへ」

 髪を下ろして、ベッドに座っていたセシリアの横に座り、ポールはセシリアの腕に絡み付く。

 毎度のことで、セシリアも呆れてしまったが、彼に懐かれて悪い気分はしなかったので、そのまましばらく好きにさせることにした。

「この部屋は暖かいです」

「暖炉があるからね。貴方の寝室にはないから、寒いでしょう」

「はい。だから、セシリア様と一緒に寝たいです」

「んもう……悪いけど、明日はちょっと出かける用事があるから、駄目よ」

「大雪が降るのにですか?」

「商談があるのよ。だから、馬車が通れるように朝早くから雪かきを頼んでいるのよ」

「はーい」

 セシリアが明日はいないのかと思うと、ポールは寂しく思えてしまい、彼女にしがみつく。

 赤ちゃんみたいな甘えっぷりに、セシリアも呆れていたが、

「もう寝なさい。明日も朝から働いてもらうんだから」

「セシリア様ともう少しこうしていたいですー」

「気持ちは嬉しいけど、明日の仕事に差し支えるでしょう。最近のポールは、ちょっと甘えが過ぎるわねえ……」

「僕がこうしたいんですう……ねえ、今夜は一緒じゃ駄目ですか?」

「駄目」

「命令が聞けないの?」

「ううう……」

 セシリアになおもしがみつき、ポールは我侭を通したいがために、ダダを捏ねる。

 あまりに幼稚な我侭っぷりに、セシリアも天を仰いだが、あまり甘やかしても良くないと思い、

「あんまり、言うことを聞かないと、人を呼ぶわよ」

「むうう……セシリア様の意地悪」

「それが主人に対する態度? 二人きりだから、まだ大目に見るけど、人前でやったら、即解雇にするわよ」

「二人きりだから、良いんです」

「あ、こら」

 これ以上、駄々を捏ねても時間の無駄と悟ったポールは、セシリアから離れて、頬を膨らませながら、部屋を出る。

 まるで、駄々っ子としか言いようがない使用人の態度に、呆れて溜息を付きながらも、一先ず大人しく出て行ってくれたことに安堵し、セシリアも床に就いたのであった。


「んしょっと……うう、雪がまたこんなに……」

 翌朝、いつもより早く起床したポールは、何人かの使用人と共にまた雪かきを始める。

 冷たい風と小雪が吹きつける中、ポールも辛そうに雪かきをし、庭の隅にどんどん雪が高く積み上がっていったのであった。

「雪、凄いですね……どうするんですか、これ?」

「溶けるのを待つしかないわね。こんなにあると、溶けるのがいつになる事やら」

 一緒に雪かきをしていた、女性の使用人にポールがそう聞くと、自分の背丈よりも高く積みあがっていた雪を見上げて溜息をつく。

 少し前だったら、雪が降って嬉しく、雪遊びを良く外でしていたが、こんなに雪かきが辛いとは思わず、まだ降り続いている雪を見て、うんざりしていた。


「もう出るわよ。雪かきご苦労様」

 昼近くになり、セシリアは屋敷の玄関の前に止まっていた馬車にアンジュと共に乗り込み、商談の為、町へと出かける。

 セシリアもコートを着込んで厚着をしており、凍結していた地面を歩きにくそうにしていたので、ポールが手助けをしたかったが、アンジュがエスコートして、女の主を馬車へと乗せていった。

「いってらっしゃいませ」

 使用人たちの見送りの中、馬車は使用人たちの雪かきで開かれていた道をゆっくりと走り出す。

 雪はもう止んでおり、晴れ間も見えてきていたが、ポールは心配そうにセシリアを見送っており、無事に帰ってこれるか心配したまま、屋敷に戻っていったのであった。


「セシリア様、まだかな……」

 真夜中になり、まだ帰らぬ主人を心配して、ポールは窓をぼんやりと眺める。

 今日は遅くなると聞いたが、雪道の中なので、ちゃんと無事に着いているのかと心配してしまい、ポールも胸が締め付けられそうになっていた。

「あの、セシリア様はいつ帰ってこられるでしょうか?」

「そんなに遠くには行ってないから、すぐに帰って来るでしょう。でも、また雪が降りそうだし、心配ね」

「そうですか……」

 近くにいた年配のメイドにセシリアがいつ帰ってくるか聞くが、ハッキリした回答は得られず、ポールも肩を落とす。

 今日中に帰って来るのを期待したが、結局セシリアは明日の朝になっても帰って来なかった。

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