第三十話 貴族の令嬢様と二人きりのドライブで
「ふふ、ポール、何処か行きたい所、ある? 好きな場所に連れてってあげるわよー」
「こ、困ります! すぐ降ろしてください」
強引にフローラに車に乗せられ、農道を走っていくが、ポールは困った顔をして、フローラに降ろすよう懇願するも、
「ダーメ。今日はお姉さんとドライブよ」
「ですが……」
誘ってくれたのは嬉しいが、やり方が強引過ぎるため、ポールも珍しく怒りを露にしていたが、そんな彼の心境など意に介さず、フローラは車を走らせていった。
「良いでしょう、この車? 最新のガソリンで動く自動車なのよ。パワーが違うわ」
「は、はあ……」
と、上機嫌でハンドルを回して、フローラはスピードを上げて、ドライブを楽しむ。
センスがあるのか、女性でありながら、軽々と運転をこなしていき、助手席に乗ってるポールも感心していた。
「あなたもいずれ、運転したい?」
「それは……はい」
「そう。私の所に来れば、自動車の一台、二台買ってあげるわよ」
「そ、そういう話ではなくてですね……」
自動車は高価なので、庶民に買える様な、代物ではなかったが、フローラの家は貴族で、しかも地方でも有数の資産家だったので、今、運転してるような高級車も軽々、買えてしまう程であり、ポールに買い与えるくらいはわけなかったのであった。
「きゃんっ!」
ドスンっ!
と、調子に乗ってアクセルを吹かしていると、急にエンストを起こして停止する。
「あん、もうまた……今日は調子悪いわね。でも、まあ良いわ。ちょっと休憩しましょう。何か、飲むポール?」
「いえ……」
すぐにアクセルを踏むと、エンジンに異常はなさそうだったので、ここで一休みする事にする。
ポールは逃げようとしたが、ここは人気のない林道な上に、何処なのかもよくわからなかったので、怖くて逃げる勇気も出なかった。
「そんなに怯えなくても、ちゃんとあいつの屋敷に帰すわよ。そこまで、私の事、信用出来ない?」
「そんな事は……」
「ふふ、ねえ、セシリアの事、どう思ってる? 本音を聞かせて」
水筒に入っていた、紅茶を飲みながら、改めてポールにフローラが訊ねると、
「とても美しくて素敵な方ですよ。やさしくて、気高くて……僕にもずっと良くしてくれて、嫌な事は一つもありません」
と、本心を素直に語る。
本当に最初の頃は、怖い女性ではないかと感じた事もあったが、自分に凄く優しくしてくれるし、甘えさせてもくれるセシリアは、ポールにとっては女神にも等しく、今までの人生で一番の幸せを感じている程であった。
「ふーーん、セシリアがねー。信じられない。あの高飛車な女が」
「た、高飛車なんて事は……」
それこそ、フローラがそれを言うかと思っていたポールであったが、確かに人によってはそう写るかもしれないが、ポールはそんな貴族の令嬢らしい、セシリアの態度も彼女の魅力に感じてしまい、愛おしさすら感じていた。
貴族の事は好きではなかったポールだが、セシリアとフローラに会ってから、その印象はガラリと変わり、とても優しくて人間味のある尊敬すべき存在だと思うようになっていたが、当然ながら、貴族にも色々おり、セシリアとフローラは例外的な存在であったのだ。
「むうう……じゃあ、私の所に来るのは嫌なの?」
「あの、嫌って訳ではなくて、僕はセシリア様にお仕えしたいんです。ですから、気持ちは嬉しいのですが……んっ!」
「んっ、んんっ!」
と、申し訳なさそうに、フローラに断りを入れると、フローラが不意にポールに口付けを交わして、その場に押し倒す。
「んっ、んんーーーっ!」
「ちゅっ、んふう……んっ、んんっ! はあ……ふふ、どう?」
「ど、どうって言われても……」
しつこい位に、フローラが彼の唇に吸い付き、艶やかな目線で、呆然としていた彼を見下ろすと、
「あいつとはもうしてるのよね?」
「え、えっと……」
「正直に答えなさい。でないと、帰さないわよ」
「し、しました!」
と、鋭い眼光で見下ろされながら、フローラに詰め寄られると、ポールも思わず正直に答える。
正確にはキスではなく、セシリアと肉体関係を結んだのかという問いであったが、ポールは勘違いして答え、フローラも溜息を付きながら、
「あの女も変な趣味があるのね。どうりで、結婚しないわけだわ。ふふん、だったら、私とも出来るわよね?」
「え?」
そうフローラがポールに言うと、彼女の言葉の真意がよく理解できず、ポールもキョトンと首を傾げる。
だが、ポールのあどけない瞳を見て、フローラも気持ちが昂ぶってしまい、
「くす、ここなら誰も来ないし、お姉さんとも大人の体験してみる?」
「え……」
ヒヒーーンっ!
「っ! ちっ……まあ、良いわ。今日のところは、この辺にしておこうかしら」
フローラが服を脱ごうとすると、後方から農夫が馬車に乗ってやってきたので、フローラも舌打ちして、起き上がり、
「しょうがないわ。次行きましょう」
「え、あの……」
事態をよく飲み込めないポールを他所に、フローラは再び車を運転し始める。
今は失敗したが、まだ二人きりになれる機会はあるので、誰にも邪魔されない場所を求めて、車を走らせていったのであった。




