第二十九話 貴族の令嬢はどうしても使用人とドライブしたい
「ふふ、今日はポールをこっそり連れ出して、二人でドライブを……むっ!?」
フローラが自動車を走らせて、いつもの様にセシリアの屋敷へと向かい、彼女の屋敷の門の近くにまで行くと、即座に異変に気づく。
「あれは……まさか」
セシリアの門から自動車が出て来たので、フローラもしばし驚きながら観察する。
遂にセシリアも自動車を買い、自分に並ばれてしまったので、歯軋りしながら、セシリアの買った自動車を見ていた。
「キイイ、あの女もポールの気を引こうと、見栄張ったのね。しかも、自分で運転している。運動、そんな得意じゃないくせに」
しかもお抱えの運転手ではなく、自分で運転しているのが見えたので、何時の間に免許を取ったのかと驚きながら見ていた。
「あ、ちょっと止ったわ。ふん、まだ慣れてないみたいね」
しかし、発進してすぐにエンストしてしまい、フローラも笑いながら、自動車から飛び出ていった。
「うーん、何かまだ難しいわね」
「ホホホ、あんたも貴族の令嬢の癖して、まともに車の運転も出来ないのかしら」
「は? 誰かと思えば、また暇人が……」
「誰が暇人よ!」
講習を受けて、四苦八苦しながらも免許を取ったセシリアであったが、中々、上手く行かずに悩んでいた所、フローラの顔を見て、うんざりしながら車を出る。
「実際そうじゃない。何の用?」
「あんたを冷やかしに」
「やっぱり、暇なんじゃない。金持ちの道楽娘を、いつまでやってる気? いい加減、叔母様もうんざりしてるんじゃないかしら」
「お母様は、むしろ喜んでいるわ。私が奔放に生きて、車の運転まで自分で出来る様になって、自立した女だと褒めているわよ」
「皮肉で言ってるんじゃないかしらねえ、それ」
「何ですってっ!?」
と、呆れた顔をしながら、嫌味を言うセシリアにフローラも食って掛かるが、もはや、こんなやり取りも恒例になってしまい、セシリアもうんざりしながらも、何かと彼女と会うのに慣れてしまっていた。
「ふん、それよりポールは?」
「知らないわ」
「知らない訳ないでしょ。早く出して。これから、ドライブに行くから」
「ふざけないで。今、仕事中なんだから、会わせる訳ないでしょう」
と、断固として跳ねつけると、フローラは頬を膨らませ、
「客人の接待も大事な仕事でしょう。私はポールを希望するわ」
「お生憎様。高貴なご令嬢のフローラ様の接待は、荷が重過ぎるので、遠慮させて頂きますわ。わかったら、さっさと帰って」
「嫌味ばかりね、あんた。おーーーい、ポーールっ!! 早く降りてきてえっ!」
「こ、こらっ!」
さっさと帰れと手を払って言うと、フローラが屋敷に向かって、耳が劈くばかりの大声で彼の名前を呼ぶ。
「うう……どうしよう?」
フローラの声を聞いて、屋敷の外に出ようかどうか悩むポール。
出れば、確実にセシリアの機嫌を損なうが、かと言って、彼女が自分に会いに来てくれたのに、邪険に扱うのも気が引ける上、出て来ないと、騒ぎが大きくなるのは目に見えていたからであった。
「し、仕方ない」
意を決して、ポールは屋敷を出て、フローラと対面する事にする。
セシリアを怒らせてしまうが、自分が帰るように直接言わないと、諦めてくれないと思い、外に出る事にしたのであった。
「ポーールーーーっ!!」
「いい加減になさい! ああ、もうこの馬鹿、摘み出してっ!」
「せ、セシリア様……」
「なっ! ポール! 何やってるのよ、あんたっ!」
堪らず、門の外にいる二人の下に駆けつけたポールを見て、フローラはパアっと顔を明るくし、
「やーーん、ポール、来てくれたんだ。超嬉しいわ」
フローラがポールに抱きつこうとしたが、即、セシリアがポールの前に立ちはだかって止めに入り、
「させる訳ないでしょ! ポール、どうして来たのよ? 私が呼ばない限り、出て来るなと言ってるでしょう?」
「す、すみませんっ! でも……あの、フローラ様。何の御用でしょうか?」
「ドライブに行きましょう」
「…………」
何の用か問うと、あまりにもストレートに誘ってきたので、ポールもしばらく言葉を失う。
奔放な性格だとは思っていたが、まさかここまで自分に執着しているとは思わず、ポールも困り果てていた。
「申し訳ありませんが、今、仕事中なので、また今度……」
「今度っていつ?」
「えっ!? えっと……」
「百年経ったら、考えてやるわ。それまで頑張って生きる事ね」
「馬鹿言ってるんじゃないわよ。あんた、使用人に休日も与えない気? ウチは週に一日、交代で休みを取らせてるわよ」
「そんな事はあんたには関係ないの。ポールにはちゃんと休みを取らせてるから、心配無用。でも、外泊に主の許可が必要なのは当然じゃなくて」
フローラには渡さんと頑なな態度を取るが、フローラはそんな彼女を見て、ニヤっと笑いながら、
「そう。じゃあ、しょうがないわ」
「ん? わかれば宜しいわ」
ようやく引き下がったのか、フローラが近くに止めてあった自動車に戻り、エンジンをかける。
そして、二人の下へ走り出し、
「しょうがないわね。んじゃ、こうするしかないわ。ポール、来なさい」
「えっ!? うわあっ!」
不意にフローラが手を出して、強引にポールを助手席に乗せていく。
そして、一気にアクセルを吹かして発進し、
「なあっ!? あ、あんた待ちなさい!」
「バーーイ♪ 悔しかったら、あんたも自分で車運転して追いかけてみなさい」
「ま、待ちなさいっ! ポールっ!」
「せ、セシリア様ー……」
まさか、こんな実力行使を使ってくるとは思わず、油断していたセシリアであったが、走っても車の速度には敵わず、どんどん引き離されていく。
ポールも、車から飛び出す事は出来ず、困惑しながら、助手席に乗っていたが、
「ふふん、ドライブ楽しみましょうねえ」
「ふ、フローラ様……」
泣きそうな顔をして、車を走らせるフローラを眺めるポール。
もうセシリアの姿も見えず、フローラに車で浚われてしまったポールは、成すすべなくドライブをさせられていったのであった。




