第二十八話 貴族の令嬢が挑戦したいこと
「これなんか良いかしらね……」
部屋の中でセシリアが、カタログを見ながら、良い自動車がないかを物色する。
フローラに影響された訳ではないが、そろそろ自分も自動車の一つでも買った方が、何かと便利ではないかと思って、アンジュに命令させて、カタログを取り寄せてみたが、イマイチ、どれが良いのかよくわからずに悩んでいた。
「セシリア様、紅茶を持ってまいりました」
「ご苦労。そこに置いておいて」
「はい」
ポールがいつもの様に、紅茶を持って部屋に入って来たので、ポールも慣れた手つきで、そそくさと紅茶を淹れていく。
「ねえ、ポール。あなた、自動車欲しい?」
「自動車ですか? うーん……」
いきなり、セシリアに言われて、ポールも少し考え込む。
欲しいとは思わなかったが、セシリアに言われて考えると、あれば便利そうだと思い、自分で運転して、色々な場所に言ってみたいと思うようになっていった。
しかし、運転の仕方はよくわからず、そもそも自動車など買うお金は無いので、自分で所有するのは夢のまた夢であり、セシリアにねだる訳にもいかないので、購入などとても出来はしなかった。
「私もそろそろ買おうかと思って。でも、どれが良いのかわからないし、お抱えの運転手も改めて雇わないといけないのよね。ポール、運転したい?」
「したいですけど、やり方わからないです」
「そうよねー。車の運転って免許が必要みたいなんだけど、それも十八歳以上じゃないと駄目みたいなのよ。ポールはまだ四年経たないと無理なのよね」
「そうなんですか……」
十八歳にならないと運転出来ないというのであれば、今のポールではどうしようもないので、自動車など持ちようがなかった。
「ごめんなさい、まだ早かったわね」
「いえ……でも、あると便利なんですよね」
「まあね。自動車があれば行動範囲も広がるし。でも、あれって電気やガソリンで動いていて、定期的にガソリンを入れないと動けないんだって。馬も同じだけど、途中でガソリンがなくなって、動けなくなったら不便よねえ」
とカタログを見ながら説明するが、ポールはよく理解出来ず、ハアっと頷くばかりであった。
が、取り敢えず、自動車も馬みたいに餌を与えないと動けないらしいとは理解したので、ポールも自動車も大変なんだと、ぼんやりと考えていた。
「くす、来なさい、ポール」
「はい」
セシリアに言われて、また膝の上に乗る。
「大きくなったら、自動車欲しい?」
「うーん、欲しいです」
「じゃあ、買ってあげようか?」
「本当ですか? えへへ、セシリア様を乗せて、色々な場所に行きたいです」
膝の上に乗って抱きしめられながら、セシリアにそう言うと、ポールも嬉しそうに彼女の胸に顔を埋める。
十八歳までまだ四年かかるが、それまでに自動車の運転の仕方を覚えて、セシリアを乗せて色々な場所に送迎する。
これぞ、使用人らしいお仕事だと想像しただけで、ワクワクしていたが、ふとフローラも自動車を運転していた事を思い出し、
「セシリア様は自動車、運転しないんですか?」
「ああ、フローラはいつの間にか免許取ったみたいね。新し物好きのあの子らしいけど、多分、叔父様が金を出して、買収したんじゃないかしら」
「はあ……」
と、意地悪な事をセシリアが言い、ポールもわかったようなわからないような顔をして、頷くが、フローラの運転は、彼が見た限りでは、運転が上手かった気がしたので、セシリアもやろうと思えば運転出来るのではと思った。
「そう、私に運転して欲しいのね」
「え? そ、そういう訳じゃ……」
「くす、いいのよ。そうね。女で運転するのはあまり聞いたことは無いけど、フローラが出来るなら、私も出来ない事はないかもね」
まだポールには出来もしない事を頼むより、自分で自動車を運転して、ポールをあちこち連れて行くのも悪くないと思い、彼の頭を撫でて、セシリアも免許を取る事を考え始める。
が、何処で免許を取れるか、彼女もよく知らなかったので、まずはそこから調べないといけなかった。
「でも、セシリア様に運転させるのは……」
「あなたがしないのって言ったんじゃない。まあ、良いわ。考えてあげる」
可愛い使用人を喜ばす事をしたいとセシリアも考え始め、彼女も自動車を購入し、自分で運転する事を決意する。
ポールも驚いていたが、セシリアの決意は固く、フローラに負けじと、ポールを車に乗せて、色々な場所に彼を連れていきたいと思う様になったのであった。




