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【おまけ】玉こんにゃくの煮っころがしとチョコレートブラウニー

 高2のクラス替え。

 そこで、俺は変わった女子と知り合った。


 そもそも俺は、女ってものが苦手だ。

 俺には4人も姉がいる。その姉たちのせいかもしれない。

 両親は男の子が欲しかったようで、俺が生まれたときはかなりの喜びようだったらしい。

 姉たちも俺のことは可愛がってくれたが、自分たちにはない男のシンボルが珍しかったみたいで、隙あらば触ろうとしてくるので参った。股を広げてしゃがんだりしようものなら、ササッと手を伸ばしてくるのだ。あれは本気でやめて欲しかった。切実に。お陰で俺は、いつ何時でも、どんな状況であろうと、股は開いてはいけないと学んだ。

 それから、両親は共働きで、とても忙しかった。子どもが5人もいるんだ、食費だってバカにならない。帰宅が遅い両親に代わって夕飯の準備をするのは祖母だった。母にあまりかまってもらえなかった俺は祖母に懐いていた。料理をする祖母のそばで、簡単な手伝いをしたり、料理する様子を見ていたり。

 しかし、俺が小4のときに祖母が倒れた。最初は家で養生していたので、まだ良かった。心配だけど毎日顔を見られたし、調子の良いときは一緒に料理もできた。俺は祖母があまり動けなくなった分、手伝いをがんばった。祖母に聞きながら料理を作ったり、風呂掃除をしたり、祖母の世話をしたり……。でも、そのうち祖母は入院するようになった。2年くらい入退院を繰り返していたけれど、だんだん祖母は弱っていって、入院している期間の方が長くなって、そして、とうとう亡くなってしまった。

 長い闘病生活で覚悟はしていたけれど、やっぱり身近な人が亡くなるというのは大きな衝撃だった。

 家族みんなが悲しんだ。気持ちが沈んで食欲がわかないこともあった。それでもやっぱり人は食べなければ生きていけない。俺は祖母ちゃん直伝の玉こんにゃくの煮っころがしを作った。他にも料理を作ったけれど、家族みんなが玉こんにゃくの煮っころがしを食べて、

「祖母ちゃんの味だね」

と言ってホッとした顔になったから、玉こんにゃくの煮っころがしは俺にとっても家族にとっても大事な料理になった。


 それなのに、学校で俺に近寄ってくる女子は「玉こんにゃくの煮っころがし」なんて俺のイメージに合わないからヤメテーとか言うんだ。

 とにかく、そういうことを言うヤツは、俺の見た目だけが大事らしい。また、そういう女子の方が多かった。

 面倒だからと無視してれば「ひどーい!」と責められ、愛想よくしてれば一番好きなのは誰なのかと争って、だんだん女子同士の嫌がらせに発展する。……なんなんだ。

 俺からしたら、祖母ちゃん直伝の料理をバカにするようなヤツは願い下げだ。


 ところが。高2のクラス替えで出会った変な女は違った。


 クラス替えして初めての弁当の時間。また一緒のクラスになった友人と俺の席で弁当を食べてたときだ。

「お前の弁当、相変わらずスゲエよな」

「そうか? 普通だろ」

 今流行りのキャラ弁とかじゃあるまいし、俺の弁当は普通だと思う。

「おふくろの味って感じだけど、それ全部お前の手作りなんだろ?」

「まあな。うちの姉ちゃんたち料理できねえし、母さんは仕事で忙しいからな」

 そんなわけで、うちの家族の弁当は全部俺が手作りだ。栄養のバランスを考えて、野菜を多めに入れるようにしている。

「えっ!? 川津くん、料理するの?」

 斜め後ろから聞こえてきた声は、清掃班が一緒になった木原だ。

 立ち上がって、俺の弁当を覗き込んでくる。

「玉こんにゃくの煮っころがしが美味しそう! 煮付け方教えてー」

 そういう木原の弁当も自作だそうで、人参のグラッセがツヤツヤ、ほうれん草のおひたしは海苔で巻いてあって、ひと手間かけてるのが分かる。

「……いいよ。そのほうれん草の海苔巻き、1つ味見させてくれるなら」

なんて言えば、料理の話が止まらない。友人は横で呆れてたけど、こんなに話が合うヤツは初めてだ。特に玉こんにゃくの煮っころがしを褒めてくれたってだけで、すげー良い奴だなって思った。

 聞けば木原には中学生の弟が2人いて、ソイツらの弁当も木原が作っているらしい。似たような境遇に親近感を覚えた。

 それからというもの、俺は木原と弁当を食べるようになった。

 おかずを交換して味見しあったり、作り方のコツを教え合ったり。たまに木原がデザートと称して手作りの菓子をくれたが、俺は菓子作りはせいぜいホットケーキくらいだったから、純粋にスゲエなぁって思った。見た目を気にしない、素朴だけど、どこか懐かしい味の木原の焼き菓子は、祖母ちゃんが作ってくれた蒸しパンを思い出させた。俺の胃袋は、そのとき確実に木原に掴まれたと思う。

 木原はよく自分のことを地味だって言うけど、よくよく見ればメガネをとった木原は愛嬌のある顔をしている。いつもは分厚いメガネに隠れてて、オタク女子って感じだけどさ。笑うと目が細くなって、気持ちよさそうに目を閉じたにゃんこみたいで、可愛いなって思うんだ。

 とにかく、1学期が終わる頃には、俺は木原とずっと一緒にいたいと思うようになった。

 呼び方も「紗枝ッチ」「川っちゃん」って気安くなって、絶対木原は俺に気があると思ってた。


「ところで、そろそろ夏休みだけど、川っちゃん的に気になる人はいないの?」

 もうすぐ夏休みって頃のことだ。

 気になるヤツは、いる。今、ここで、木原、お前だって言いたい。

 でも、木原は俺に気があるんだろうと思ってはいるけど、本当にそうなんだろうか? って不意に不安になった。だって、ちゃんとつき合ってるとか、そんなわけじゃないし……。

「ん~、いることは、いるけど……」

「けど……?」

「告白して気まずくなるより、このままの関係の方がいいかなぁって」

「……そうなんだ」

 せっかくの唯一の料理仲間が、俺の告白で気まずくなるとか、辛すぎる。

 今の関係が心地いいから、このままでもいいんじゃないかって気がするし。

「そっかぁ。……いつか、川っちゃんの気持ちが通じるように祈ってるね!」

 あぁ、ダメだ。コイツ、自分のことだとは微塵も思っちゃいない。

「う、うん。ありがと」

「私は応援してるから! 大丈夫だよ、川っちゃん!」

 本人に応援されるとか、どうなんだよ、それ……。

 考えてみれば、俺から好きだって女子に言ったことない。いつも女子から言われるばかりだったから。

 え? 何、俺、もしかして、コイツが初恋なのか?

 そう気がついたら、2人で弁当を食べる時間は楽しみではあるんだが、緊張して仕方なくなってきたのだった。



そんなわけで、川津くんは初恋なので、いろいろと不器用に勘違いしたり、意地を張ったり、紆余曲折。

でも最後には、紗枝さんに告白する運びとなるのでした。

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