起死回生の小さな小さな一手
「できたぞ」
そう白銀が作り上げたのは、大枝から葉や小枝を払い、木の掛け釘で止め合わせ作った荷車だ。
太い幹を短く切って車輪にしている。
「すごいです! さすが紺さん! ありがとうございます!」
「だから、俺は白銀だつーの!」
「ん~ん……」
そう麦が白銀の労をねぎらっている(?)と、花の花粉の効果が切れ始めた詩衣がごそごそと動ぎ始めた。
「ドロシーさん!」
「バカ女!」
「あれぇ? 麦? 白銀? 私何で寝て……って! きゃあ! ネズミ!」
寝惚け眼な瞳を緩慢な動きで擦っていた詩衣は、自分を取り囲むたくさんのネズミ達に驚き、一気に立ち上がった。
「急に立ち上がって大丈夫ですか? ドロシーさん。無理しないで下さい」
「そ、そんなこと言っている場合じゃないわ! な、な、何なのよ! この状況は!?」
詩衣は目の前に広がる光景に声を張り上げる。
それはそうだろう。
詩衣を取り囲むネズミの数は一匹や二匹じゃない。
百や千でもきかない程の無数のネズミ達が詩衣の周囲に黒い塊を作っていたのだ。
もし無類のネズミ好きの人が詩衣の立場になったとしても、さすがにこの状況は遠慮被りたいはずだ。
「おはようございます」
もちろんネズミ好きどころか、むしろ苦手である詩衣が顔面を蒼白にしていると、ネズミ達の黒い大群の中からぴょんと一匹飛び出す者の姿があった。
「私はこの者達の長の女王ネズミですわ。以後お見知りおきを」
それはキラキラと光るあの冠を被った女王ネズミだ。
そう。この場にいるたくさんのネズミ達はこの女王ネズミの呼びかけに応じて集まってきたのである。
どんな方法を使ったのか、一度近くの草むらに消えた後、背後にこの数え切れないネズミ達をつれて現れた姿をもし詩衣が見ていた日には、せっかく覚めた目も、また閉じてしまったのではないだろうかと思えるくらい凄まじい光景だった。
「こ、こちらこそよろしくお願いします……」
その女王ネズミのあまりに礼儀正しい挨拶に礼儀を重んじる日本人の性を反応させた詩衣は、わけもわからないまま条件反射で挨拶をし返す。
「このネズミさん達には土星さんの救出を手伝ってもらうのですよ」
「土星じゃなくて太陽……って! 太陽! 太陽はどうしたの? 何でトトはいるのに太陽だけいないのよ! 救出って……まさか……!」
麦の言葉で自分が眠りにつく直前までの出来事を思い出した詩衣は、ハッと口を押さえた。
「……太陽さんはまだあの花畑の中です」
「助けに行かなきゃ……」
「待て! お前が一人で行ってもどうにもならないだろう。そのなまっちょろい腕であいつの巨体をどうやって運ぶ気だ」
ふらりとあの死の花畑の方向へ歩き出そうとした詩衣を白銀が止める。
「はなして! だって、私がいけないの! 私が勝手なことをしたから! だから、太陽がそんな目に! 私が太陽を助けなきゃ……!」
「大丈夫ですよ。ドロシーさん。さっきも申し上げた通り、海王星さんを助けるそのために、このネズミさん達には集まって来てもらったのですから。みなさん。ひもはお持ちいただけたんですよね?」
「だから、太陽だつーの。あいつ本当に今日は絶好調だな……」と白銀がそう疲れた顔で突っ込むのも気にせず、麦がネズミ達に声をかける。
「「「「「「はい! この通り!」」」」」」
ネズミ達は一斉にそれぞれが持ってきたひもを見せつけるように両手を挙げた。
青いの黄色いの赤いの紫の緑なの……他にもたくさんの色のひもが太さも長さもまちまちに各自の手には握られている。
「ありがとうございます。それじゃあ、次にあなた達の体の……そうですね、腰の辺りにそのひもの片側を結びつけて下さい。ほどけない程度にきつく、食い込まない程度にゆるくお願いします。荷車へもう片方を結ぶ作業はあなた達では届かないでしょうから、私と白銀さんでやります。なので、自分の腰にひもを結びつけたらあなた達はその場でおとなしく待機して下さい」
女王ネズミの教育が行き届いているのか、このネズミ達は大変従順な質のようだ。
特に文句も疑問も挟まずに黙々と作業をこなしていく。
「麦。あなた何をするつもりなの?」
代わりに疑問を口にしたのはきょとんとその光景を見守っていた詩衣だ。
白銀はもう麦が何をやろうとしているのかを察したのか、何も言わずにネズミ達と荷車の持ち手の部分を結びつける作業を淡々と行っている。
「この荷車に火星さんを乗せ、ネズミさん達に引っ張ってもらって運ぶのですよ。幸い私と朱色さんで地球さんを荷車に乗せるまでの作業はできますからね。後はネズミさん達に引っ張っていただければ簡単です」
なんと! 麦はあの大きな太陽をこの小さな小さなネズミ達の力で運ぼうというのだ! 確かに一匹の力はたかが知れていても、これだけの数が集まれば可能かもしれない。
「…………
麦が考え出したこの前代未聞の作戦に、詩衣は名前の言い間違いを訂正するのも忘れてぽかんと呆けた。
「ほらっ! まぬけな面をさらしている暇があったらこの腐る程あるネズミ達につけたひもを荷車へと結んでいけ! 日が暮れちまうぞ!」
「わ、わかったわ!」
白銀に促され詩衣もひもを結ぶ作業へと慌てて加わる。
「待っていてね! 太陽! 絶対に助けるから!」
そう太陽を救出することを誓う詩衣には苦手なはずのネズミも気にならな……
「きゃあ! お願いだから、動かないで! いい子にしてて!」
くはなかったが、それでも詩衣は悲鳴をあげつつもひもを荷車へと結び続けた。




