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オズと私と4つのキスの魔法  作者: 夏田すいか
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謎の声

 詩衣が叩いた衝撃で目の前で王様の体が大きく揺らいだかと思うと――そのまま前方に首だけがポトリと落ちたのだ!

 大理石の床にごろごろと頭だけが転がる。


「きゃあああ! お、王様の首がとれた!? 私、そんなに強くビンタした? 私、そんなに馬鹿力!? て、てか、これって私殺人犯!!?」


 王様を殺してしまったと思った詩衣は慌てた。

 あわあわと床に転がったままの王様の首の周囲を無駄に行ったり来たりする。


「こ、これはもうおとなしく自首するしかない!? 王様を殺すなんて私どれだけの重罪人なの! やっぱり王様の首を取ったから、私の首も首ちょんぱにされるのかしら……?」

「……これは!?」


 詩衣がそう取り乱している最中も胴体から切り離され無惨な姿になった王様の首を冷静に観察していた白銀が声をあげた。


「ど、どうしたの!? 白銀。何かこの犯罪を隠す密室トリックでも思いついたの? いや! だめよ! 詩衣! 罪から逃げずにちゃんと償わなきゃ! でも、首ちょんぱは!?」

「落ち着け。バカ女。これを見ろ!」

「えっ? って、きゃあああああああ!」


 詩衣がルルに空中から地面に叩き落とされそうになった時に匹敵する叫び声をあげる。

 白銀があろうことか詩衣に向かって王様の生首を投げつけてきたのだ。

 咄嗟に受け取ってしまった詩衣は王様の首を両手に抱えて完璧にパニックに陥った。


「きゃあ! きゃあ! し、白銀! な、なんてものを投げてく……ご、ご、ごめんなさい! 勝手に吹っ飛ばしといてなんてものなんて言ってごめんなさ~い! 許して下さい~!」

「よく見ろ。バカ女。それは人の生首じゃない。そいつはただの作り物だ」


 手に持ったままの生首相手に泣きながら謝る女子中学生というホラーともコメディともとれるシュールな光景を繰り広げていた詩衣に白銀が呆れたように言った。


「ふえっ? ……ほ、本当だ。これ……人形だ……!?」


 白銀の言葉に我に返った詩衣が恐る恐る首を観察して驚愕する。


「ちゃんと見ると血が一切流れていないわ! 触り心地もつるつるして人の肌のものじゃない!」

「目もドロシーさんがエメラルドの都の方々の目を作り物のようだと言っていましたが、この方のは正真正銘の作り物です! ただのガラス玉ですよ!」

「……に、においもしないよ! ね? ト、トト?」

「わん! わん!」


 白銀の意見に改めて首を見た詩衣達全員が同意した。

 その王様の首は、全体はつるつるとした陶器、目はガラス玉でできた人形だった。

 どうりでいくら笑っていても瞳から感情の機微を全く感じることのできないわけである。


「こ、こんにちは」


 生身の人間の生首ではないと理解した詩衣は王様の首を持ち直すとおずおずと声をかけた。


「…………」


 もちろん首からは何の応答もない。


「何をやっているんだ? バカ女。ショックのあまりとうとう気でも触れたか?」

「うるさい! あんたや麦やガラスの村の人達みたいに物でも生きているのかと思ったのよ! でも、返事がないってことはそういうわけでもなさそうね。これだけ触っても全然反応しないわ。さっきまでまるで生身のようにあんなに生き生きと話していたのに……やっぱり私がビンタで首を落としたせい!?」

「ドロシーさんのせいではないと思いますよ」


 また罪悪感に苛まれ始めた詩衣の手から首を受け取った麦が言った。


「この首からは、生気が全く感じられません。さっきまで動いていたのは自分の力ではないと思いますよ。第一、王が人形だなんて話聞いたことがありません。身を守るための影武者にしても様子がおかしいような……わわわっ!」


 麦が驚きの声をあげる。

 突如、今まで沈黙を貫いていた王様の首ががたがたと激しく暴れ始めたのだ。

 麦が思わず床にこぼれ落としても、首は関係なく大理石の上を動き回る。


「ひいっ! や、やめてよ! 私ホラー苦手なのに!」

「う、うう~っ! ぼ、ぼ、僕もだめ!」


 詩衣と太陽がなるべく接さないように必死につま先立ちしている間にも首は目をギョロっと見開いたまま四人と一匹の間を練り歩いていく。

 一通り巡回したと思うと首は急にガコッ! と人間ではとても不可能な程大きな口を開く。


「アハ! 見ツケタ! 見ツケタ! 『アイツラ』ノ魔力! コイツカラモ! コイツカラモ! コイツカラモ感ジル!」


 あごをガコガコと激しく鳴らしながら首が言う。

 その声は黒板を引っ掻いた時に出るような不快なノイズ音へと変わっていて、聞いているだけで詩衣の背筋にはびっしりと鳥肌が立った。


「な、何のよ! いきなり動き出したかと思えばわけのわからないことを話し始めて! いったい何がしたいって言うの……ひいぃっ!」


 詩衣が今日何度目かわからない悲鳴をあげる。

 首の胴体と接続していた部分から急にドバドバとまるで血のように黒い液体が流れ始めたのだ。

 その液体は流れでながらぐねぐねと形を変えていくと、首に複数の手足を持つ新しい体を与える。


「お、王様が立ったーー! じゃない! な、何なの! あれ!? いっぱい手足があってまるでクモみたい! 私クモだめなのに!」

「ぼ、僕も嫌い!」

「人のこと言えないけど、太陽は何ならだめじゃないの!?」


 詩衣と太陽がそんな会話を繰り広げている間にもどんどんと手足の数を増やしていき、

体を肥大化させていた首は、ついにはのっそりとその巨体を動かし始めた。


「アハ! 誰カナ? 誰カナ? 『アタリ』ハ誰カナ?」


 まったく安定感なく頭部を左右にカクンカクンと振りながら、詩衣達に近づいてくる。


「い、いやぁ! 何でこっちに来るの!? やめて! 来ないでよ! ……あれ? と、扉が開かない!?」


 詩衣は迫りくる首から逃げるために謁見の間から出ようと先ほど入ってきた扉に手をかけたが、いくら押せども引けどもびくともしない。


「どけっ! バカ女。……くそっ! 何か結界でも張っているのか? 俺の斧でも歯が立たない!」


 白銀が扉に斧を振り上げてみたが、見えない壁のようなものに阻まれ、扉は開くどころか傷一つつかない。


「ど、どうしよう! あんな気持ち悪いのが迫ってきているのに逃げられないなんて!」

「こんな時は頭をすっからかんに!」

「そんなこと言っている場合じゃないでしょ!」

「アハ! アタリハ誰カナ……!」


 詩衣と麦がそんな場違いな会話をしている間にも黒い手足は高い天井に着く程長く伸びると、今度は一本一本がまるでヘビのような姿へと変わる。


「シャアアアーー!」


 ヘビ達は大口を開けたまま詩衣達に向かって一斉に襲いかかってきた。


「きゃあ!」


 詩衣は絶体絶命の危機に瞳をぎゅっと閉じる。


《……だめ……。そこにいてはだめ……》


 その時、突然女性の声が聞こえてきた。


「誰!?」


 辺りを見渡しても、詩衣の目には目前まで迫る黒いヘビの姿以外何も確認できない。

 どうやらこの不思議な声は詩衣の脳裏に直接響いているようだ。


《こっちに来て……》

「こっちってどっち!? てか、今この場から逃げられるならどこだって喜んで行きたいくらいなのに出口が……って! えっ!? きゃあ!」


 黒いヘビが鼻すれすれを横切る中、詩衣は突然の浮遊感を感じた。

 なぜか足元の床に唐突に空いた真ん丸い穴の中に吸い込まれていったのだ。


「きゃああああああぁーーーー!」


 悲鳴の余韻だけ残して詩衣達の姿が完全に見えなくなると、まるで最初から存在しなかったように穴も姿を消す。




【ちっ! 逃がしたか!】


 四人と一匹の姿が消えた部屋に唯一残された王様の首がカタカタと動いたかと思うと――ノイズ音とも先ほど詩衣が聞いた声とも違う女性の苦々しげな声が聞こえてきた。


【『魔女の掟』の規定外のエメラルドの都だからってまさか干渉してくるなんて思わなかったわ。……でも、これで確実ね。あの子達の中に『彼』がいるわ。今度は逃がさないのだから】


 そう言うと首はまたぽとりと地面に落ちると動かない、ただの人形へと戻っていった……。

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