第1話 「入学式」
太陽がまぶしく心地よい鳥の鳴き声が聞こえ、木々からは桜の葉が舞う日、彼女はいつもより早く目を覚ました
少女「んー…まぶしい」
彼女の名前は、相沢結愛、性格は内気で恥ずかしがり屋な女の子
今日から葉桜市の私立、桜花高校に通うことになった高校1年生である
彼女は性格上、1度も恋をした事がない
結愛は2階にある自分の部屋を出て1階のリビングに行くと母親が朝ごはんの準備をしていた
結愛「お母さん、おはよう」
母「おはよう結愛、今日はいつもより早起きなのね?」
結愛「うん、今日入学式だからなんか楽しみで早く起きちゃったの」
母「そうかい…私やお父さんも結愛の入学式、見に行けたらよかったんだけど…ごめんね結愛」
結愛「ううん、大丈夫だよ…お母さんやお父さんは仕事で忙しいんだし仕方がないよ、それに私もう高校生なんだし、平気だよ?」
そういって母親に笑顔を向ける結愛
母「そうかい…ならもう毎朝、起こさなくて良いわね…成長したわー結愛」
結愛「そっ…それとこれとは話が別だよ~っ」
結愛はそう言いながらその場に倒れ伏せる
その様子を見て母は、結愛に満面の笑顔で言った
母「そ~れ~にっ!もう高校生なんだから彼氏の1人くらい作りなさいよ?」
結愛「う~…私にそんなことできるのかな?」
母「出来るわよ~ただ好きな人に、告白すればいいだけじゃない?」
結愛「もー…それが一番大変なのに…」
そういって結愛は口を膨らませる
母「あらあら…こりゃ先が長そうね」
結愛をなだめながら、母親が料理の続きをしていると、ふと結愛が気づいた
結愛「ねぇ…そういえばお父さんと総士は?」
母「そういえば、そろそろ起こす時間だわ、結愛?悪いんだけど起こしに行ってくれない?」
結愛「うん、わかった」
そういって結愛は2階へ上って行き、結愛の部屋の向かいの部屋の前に立ちドアをノックする
結愛「総士?入るよ?」
相沢総士、今年中学2年生になる相沢結愛の弟である
総士「くー…かー…」
部屋へ入った結愛の目の前には、ぐっすりと眠る総士の姿があった
結愛「総士?朝だよ!起きなってば」
総士「んーわかった…あと少ししたら起きるから行っていいよ…」
結愛「(そういって今まで起きた事ないじゃん…もういいや)」
結愛は総士を起こすのを諦めて父親の部屋に向かった
結愛「お父さん?入るよ~?」
そういって父親の部屋に入る結愛
目の前には総士と同じく、ぐっすり寝ている父親の姿があった
結愛「お父さん?そろそろ起きないと遅刻……っ?」
父親の近くに寄り、起こそうとした時、父親の机の上に見覚えのある1冊の絵本が置いてあるのが見えた
結愛はその本を手に取る
結愛「(うわ~懐かしい…なんでこの絵本がこんな所にあるんだろう?)」
結愛はその本をパラパラと読んでいく
結愛「(恋は飴玉のように甘い、飴玉は恋の道しるべ…)」
結愛は懐かしく思い出に浸りながら読み続ける
結愛「(飴玉が様々な恋を教えてくれる、初恋や失恋のような様々な恋を…そして最後に飴玉は)…あれ?」
次をめくろうとしたら、最後のページだけが破られていて最後どうなったのか分からなかった
結愛「(最後だけなんで破けてるんだろう…なんでだっけ?…)」
結愛はそう思いながら絵本を閉じる
結愛「ってかお父さん早く起こさなきゃ!」
結愛は本を机の上に置き、また父親を起こし始めた
結愛「お父さん?朝だよ?起きてってば!仕事、遅刻するよ?」
父「んっ…おお、もうこんな時間か…急がないとな」
父親が起きたのを確認すると結愛はそのままリビングに戻っていった
母「結愛?ちゃんと2人とも起きた?」
結愛「うん、総士以外は…ね」
母「はぁ…あの子は私が後で起こしとくから、結愛もご飯食べてそろそろ用意しなさい?」
母は微笑みながら言った
結愛「はぁーい」
朝ごはんを食べた後、部屋に戻り制服に着替えていた時、ふとあの絵本の事を思い出した
結愛「(あの絵本どこで見つけたんだろう…お父さんに聞いてみようかな)」
結愛は学校へ行く準備をしてリビングにいる父に話しかけた
結愛「ねぇ?お父さんの机に小さい頃持ってた、私の絵本が置いてあったんだけど、あれどうしたの?」
父「ああ…結愛の絵本か?昨日、物置の片づけをしていたら見つけてな…なんか懐かしくなって持ってきたのさ」
結愛「でも…なんで最後だけ破けてるの?」
父「さぁ?お父さんが覚えてるのは、お前のお友達だった、ケンちゃんって子の引っ越しの日に、この本を無くしたって言ってた事くらいかな?」
結愛「そうなんだ…あの日に…」
父「それがどうかしたのか?」
結愛「ううん…なんでもない、それじゃ行ってくるね!」
母・父「はーい、行ってらっしゃい」
そうして結愛は学校へ向かった
桜花高校は小さい山の頂上に建っていて、家から桜花高校までは歩いて20分ほどの距離なので、ゆっくりと学校へ歩いていた
すると後ろから結愛の名前を呼ぶ声が聞こえた
渚「結愛っ~~!」
結愛「あっ、渚ちゃんおはよう」
片岡 渚、結愛とは中学からの友達で自分の悩みを打ち明けれる数少ない親友である
いつも元気な女の子で、笑顔を絶やさないムードメーカー的な存在の女の子である
渚「おはよう~!今日の結愛は一段と可愛い~!」
そう言いながらいきなり首から下げているカメラを使ってシャッターを連打している渚
彼女は中学の頃から新聞部であった事もあり、こうやって写真を撮ることが癖になっている…特に最近は、可愛い女の子の写真がブームらしい
結愛「もう、やめてよ~恥ずかしいよ…」
そう言って顔が赤くなる結愛
渚「ほれほれ~良いではないか~良いではないか~!」
一向に止めない渚の頭にカバンが振り下ろされる
渚「うっ…」
茜「渚、そろそろやめてあげないと結愛が可哀そうでしょう…!?」
藤堂 茜、彼女も結愛とは中学からの友達で数少ない親友の1人である
性格は真面目で規則に厳しい人だが、時々優しい一面も見せる
中学校の頃には風紀委員を務めていた
渚「だからってカバン思いっきりぶつけないでよ茜~…痛いよ~結愛~」
そういって結愛に抱き着く渚
茜「自業自得よ…それよりそろそろ急がないと入学式、遅刻するわよ」
結愛「そうだね、急ごう?渚ちゃん」
渚「あ~まってよ~2人とも~!」
3人で急いで学校に向うとそこは、かなりの人数で埋め尽くされていた
結愛・渚・茜「うわー…」
渚「この中に…入るの…?」
茜「体育館まで行く為にはこの道しかないはずだから、覚悟するしかないわね…」
そういって3人は人ごみの中へ入って行った
ー数分後ー
結愛「ふうっ…やっと出られたよ…あれ?」
結愛が周りを見渡すと茜と渚の姿がなく、そして人ごみに流されて3階まで来てしまっていた
結愛「この人ごみの中じゃ仕方ないよね…屋上から体育館への道、確かめようかな?」
結愛は別の道を探すために屋上への階段を上がって行った
ー屋上ー
結愛「わぁー、綺麗!」
高いところから見える葉桜市は普段よりとても美しく見えた
結愛「あっ!それより体育館探さないと…」
結愛はそういって貯水タンクのある、もう一段高い所に登っていく
結愛「んーどこかな~体育館」
結愛が体育館を探していると下から青年に声をかけられた
青年「お~い、そこの少女?何してんの?」
結愛「えっ?…きゃっ!」
バランスを崩した結愛は青年のほうへ倒れるように落ちて行った
結愛はとっさに目をつぶる
青年「大丈夫?」
結愛が目を開けると茶髪の青年が結愛を抱きかかえていた
結愛「(わぁ…凄い…女の子みたい…)」
その青年は、きれいな顔立ちをしていて、結愛はその青年の顔に見とれてしまっていた
青年「………なに?」
結愛「あっ…あの…いえ…ありがとうございました…///」
青年が結愛を地面に降ろす
青年「どういたしまして…ところで、なんであんな所に登ってたの?」
結愛「あ…その…道に迷ったので、高い所から体育館に行く道が見つかるかなって思って…その」
青年「ったく…怪我したらどうするんだよ…」
結愛「その…あの…ごめんなさい…うっ…ひっく…」
結愛は突然、泣き出してしまった
青年「あっ…いや…ごめん…いきなり声かけた俺も悪かったから……その…そんな泣くなよ…」
しばらくして結愛は泣き止んだ
結愛「さっきは、ごめんなさい…」
青年「いや俺も言い過ぎた…ごめん」
青年が謝ると青年は本題の話に戻った
青年「そういえば体育館だよな?こっち来いよ?お詫びに俺だけが知ってる近道、案内してやるから」
結愛「えっ?あっちょっと…」
青年は、結愛の手を引いて体育館へと行く裏道を歩いていく
結愛「(わっ///男の人と手を繋いでる…///恥ずかしいよ…///)」
結愛が顔を真っ赤にしていると、青年が突然振り返り結愛に声をかける
青年「ねぇ?ほら、周り見てごらん?」
結愛が言われた通り周りを見てみる
結愛「わぁ~!綺麗!こんな道があったんですね…?」
そこは桜が舞う、綺麗な森の抜け道であった
青年「まぁ…俺も去年、偶然見つけたんだけどね…体育館まで遠いから、ここには世話になってるんだ」
そう言って青年と結愛はさらに道を進んでいくと目の前に体育館が見えた
蓮「はい、着いたよ」
結愛「あの…ありがとうございました…えっと…」
青年「俺は蓮、君は?」
結愛「あっ…私、相沢 結愛…って言います…あの…先輩のおかげで助かりました…その…本当にありがとうございました」
蓮「どういたしまして、そうだ、これあげる」
そういって彼は薄紫色の飴玉を結愛に渡した
結愛「えっ…?これは?」
蓮「藤の花を使って作った飴玉、藤の花言葉は、歓迎って意味があるんだ」
そういって満面の笑みを浮かべた蓮を見て、結愛の顔が赤くなる
結愛「あ…ありがとうございます///」
結愛「(やばい…どきどきしてる…)」
蓮「それじゃあね、結愛ちゃん」
彼は、彼女の頭を優しく撫でるとそのまま体育館の中へ入って行った
こうして私は彼と出会った、彼からもらった飴玉はとても甘くどこか懐かしい味で、その味は後に、私の中の欠けた大切な何かを少しだけ埋めていくのであった