第220話 俺たちが行けばいい
『はい。正井です』
インターホンから声が聞こえる。
中年女性の声だ。
その声に
「村田です」
俺がそう答えると
『……ちょっと待ってね』
インターホンの向こうの声はそう言って。
玄関のドアを開けてくれた。
家に入ると。
リビングに通されて。
そこにソウジとよく似た中年男性がテーブル席に座っていた。
ソウジの親父さんだ
「やあマサヤくん久しぶりだね」
親父さんはその内心を顔に出さず、にこやかにそう言ってくれた。
向こうの世界での俺みたいに、1年の時間で息子が失踪した苦しみを整理して暴発しないようにしたのかもしれない。
「お久しぶりです」
そう言って俺が頭を下げると、隣のリスリーも頭を下げ
「そちらは?」
彼女と面識がない親父さんがそう訊いて来たので
「俺の嫁です」
そう言って紹介。
すると
「えっ」
さすがに驚いていた。
そして椅子を勧められたので座って、伝えなければならないことを伝える。
異世界が存在して、そこに俺とソウジはクラスごと魔法で拉致されたんだと。
そして俺はその首謀者を倒して、異世界の国の歪みを正して、魔法で帰って来たんだと。
「異世界……そんなものがあるのか。まあ、無いという証拠も無いんだしな」
俺の話を親父さんは真剣に聞いてくれて、信じてくれた。
そして俺は……
「他のクラスメイト達も、帰りたいと思ってるのはこの後数年以内にこっちに魔法で戻ってくると思います……ですが」
すごく言い辛かったけど。
「ソウジだけは帰って来れません」
真実を言った。
そんな俺の言葉に
「なんでよ!?」
ソウジのお母さんが悲鳴のような声をあげた。
「なんでウチの子だけ!? ウチの子が何をしたっていうのよ!?」
「落ち着け母さん」
半狂乱になってるソウジのお母さんを、ソウジの親父さんが抱き締めて落ち着かせて
「……理由を教えてくれないか?」
そう、穏やかに言ったんだ。
あのソウジの親父さんってだけあるよ。
すごく立派だ。
やっぱりソウジは俺の自慢の親友で。
俺よりずっと上の人間なんだな……
俺はそう思いながら
「……向こうへの転移直後に、この拉致の首謀者に正面から抗議して、1回焼き殺されたからです」
理由を口にした。
焼き殺されたという言葉にさすがのソウジの親父さんも呆然としていたが。
「死んだから帰れないってわけじゃ無いんだろう……? もしそうなら、1回なんて言い方はしないはずだし」
……冷静に、俺の話から事実を導き出した。
さすがだな……そう思わざるを得ない。
そして俺は、ソウジが復活した経緯を話した。
国王がそのために自害して、自分の寿命をソウジに与えたことも全部。
その話を聞き
「分かった」
ソウジの親父さんは頷いて。
「俺の息子はその神聖ノーザリア王国で生きてるんだな? ……だったらもう、それでいいよ」
「お父さん……!」
ソウジの親父さんとお母さんが俺の話を聞いて話し合っていた。
「母さん。子供ってものはいつかはどこかに行ってしまうものだ。……それが少し早くなっただけだと思おうじゃないか」
「でもそんな」
諦めようという親父さんに悲し気に言い返すソウジのお母さんに
親父さんは
「……それにだ。ひょっとしたらこっちから向こうに行く方法も見つかるかもしれない。可能性はゼロじゃ無いんだ」
「俺たちの子供がこっちの世界に戻ってくるのが危険だって言うなら、俺たちが向こうに行けばいいんじゃないか?」
「向こうに行けば魔法を使えるようになるし、スキルってものも手に入るんだぞ? 楽しくないか?」
そんな話を明るく語る。
……すごい人だと思ったし。
俺もこういう親になりたいと思った。




