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天使の反乱~地上編~  作者: ますっす
目覚めの章
9/12

作戦会議

SOEF七階、会議室。

部屋の真ん中には円卓があり、円卓の中心には球状のモニターが付いている。

卓の周りには人数分の椅子が用意されていた。

席順は母が部屋の一番奥。

その右隣に岩本さん、左隣に私、正面に三ヶ里が座った。

緊急事態ということで母は本部より戻ってきた。

今は、波崎との戦闘が終わってから一時間が過ぎたころである。

誰も怪我は負っていない。

強いて言えば、私が木の波に流されたときに軽く背中を打った程度である。


「申し訳ございません。私がついていながらこのような失態を演じてしまいました。」

「言葉での謝罪はいらないわ。問題の解決こそが唯一の謝罪、といつも言っているでしょう?」

「心得ております。ではさっそく、情報の共有と考察、対策についての会議を行います。」

「ええ、そうしましょう。ちなみに、ここに来るまでの時間で真理ボックスに記録された、戦闘の映像を見たわ。だから、戦闘内容について詳しい説明は不要よ。」


あの箱にそんな能力まであるとは。


「ではまず、高天原(たかまがはら)の目的についてだ。」

「人類進化研究会は想造力について研究をしているって言ってたな。」

「波崎の”成長”で進化をさせるってこと?」

「確かに、可能性がないわけではない。成長と進化は方向性が似ているからな。だが…」

「あいつ一人で進化させられる人数なんて、そう多くないだろ?」


岩本さんの言葉に三ヶ里が横入りして答える。

波崎一人で「人類」を進化させられるかというと、無理だ。

想造力はエネルギーを消費する。

進化なんて規格外のことをするのなら、どの程度のエネルギーが必要になるのか分からない。

それに、一日に何人の人間を進化させられるのかという話なのだ。

一日に100人を進化させたとして、一年で36500人にしかならない。

波崎のいう人類がどこまでを指す言葉なのかは知らないが、日本だけでも数十年はかかる。

波崎一人で行うには重労働が過ぎる気がする。

そもそも人類の進化の先なんて誰も知らないわけだし…

ん?そうなると波崎の言う進化はどこを目指しているんだ?

通常の進化でないとすると…

そして、一つの結論にたどり着く。


「もしかして、人間に想造力を持たせることを進化って言ってるんじゃない?」

「ああ、普通に考えればそうなるだろう。」

「まぁ、それが一番可能性として高いな。」

「軍への宣戦布告も想造力の存在を隠しているから、だものね。」


あれ?もしかして分かってなかった私だけ?


「恐らく高天原は、一般人に想造力を発現させることができる方法を持っている。」

「でも待って。その方法って何?想造力を使わずにそんなことができるの?」

「それは俺も思った。波崎の言い方から総合的に判断しただけだからな。正直、そんな方法があるとは信じられないし、不可能だと思う。」

「…可能なのよ。」


私だけじゃない。三ヶ里も、岩本さんまでもが驚いていた。

母には想造力を発現させる方法に心当たりがあるのか。

気になったがすぐに岩本さんが次の話題に変えてしまった。


「では、次に高天原の対策についてだ。」

「これについて、私から話があるわ。」


母がどこか悲しそうな眼をして言った。

悲しいというより、残念そうな眼かもしれない。


「波崎との戦闘映像を見て、今の日本軍の戦力で、正面衝突で勝てるか不安があるのよ。勝てる可能性は五分五分といったところね。」

「え?本当に?」


波崎は確かに余裕がありそうではあったが、相手にならないほど強いとは思わなかった。

天菜でも時間稼ぎ程度は可能であると思う。


「波崎は攻撃をしてなかったわ。最後のあれも目くらましにする程度。」


言われてみれば、波崎から攻撃をしてくることはなかった。

最後の”急成長”も逃げるための足止めをしたに過ぎない。

だが、木での攻撃手段がそれほど脅威になるとは思えない。


「それでも、あの木の波は岩本の”壁”を易々と壊したわ。これが何を意味するか分かる?」

「軍の中でも上位に匹敵するほどの実力者ってことか?」

「私の”壁”を物理攻撃で壊せるのは、軍の中でも片手で数えられるほどしかいない。」


私は壊せる可能性があるだけで、実際に壊すことはできない。

そんなことをしたら足の方が先に砕け散ってしまう。


「物理系統の想造力じゃない人は”壁”を壊せないから、壁の内側にまで影響を及ぼすことができる人を探しても、両手で数えられるぐらいしかいないわ。」


岩本さんってめっちゃ凄い人だったんだ。

いや、すごい人なのは知ってたけど、想像の上をいっていた。

日本軍でトップクラスの実力者なのだそうだ。

ちなみに、母も。

なんなら、日本軍で最強らしい。

娘の前で見栄を張っていなければだが。


「そんな岩本の”壁”を壊せるとなると、軍団長レベルが本気で相手をしないといけないのよ。相手の人数は不明だけど、波崎以上の実力者がいるのだとしたら、軍団長が複数人で対処する必要が出てくるわ。」


それは確かに不安になる。

こちら側の最高戦力をぶつけて万が一負けてしまった場合、軍全体が滅ぼされることもありうるわけなのだから。

想造力は一騎当千の力であり、数をぶつけてもあまり意味をなさない。

同じ想造力を持っていても、相手よりもイメージが弱ければ、何もできなくなることもある。

特に相手に何かを施す想造力は抵抗されやすい。

私の思考の”加速”も相手のイメージが強ければ無効化されてしまう。

まぁ、詳しくはおいおい話すことにしよう。


「だから、相手方の情報が欲しいのよ。」

「でもどうやって…」

「相手はこちら側の答えを聞くためにもう一度接触してくるはずよ。その時にできるだけ必要な情報を集める。その後、アジトの特定ね。」

「戦いになったらどうするんだ?」

「真理さんがいるなら心配ない。」

「ええ、軍団長の実力を魅せて差し上げましょう。出来れば平和的にお話がしたいのだけれど。」


母が自信たっぷりに言う。

母の戦闘を見たことはないし、想像もつかない。

母の想造力は”空間”であるらしいが、SOEF本部や、『真理ボックス』など便利アイテムのイメージが強すぎて対人での立ち回りが思い浮かばないのだ。


「軍にも報告はするの?」

「ああ。報告はするが、対応はSOEFに任させてもらう。」

「さて、高天原の話はこのぐらいにして、南部の想造者の話をしましょうか。」


忘れていた。

まだ問題はあるんだった。

立ち上がり、自分の考えを説明する。


「南部で反応があった想造者は、坂元リリス、…の飼い犬のエルだと考えます。」


そう。

飼い犬のエル。

私も、は?って思う。

だって犬じゃん。

でも、状況的にその可能性が最も高い。

初見で見逃してしまうのも無理はないというものである。


「根拠としては、まず坂元リリスの近くで『真理ボックス』に反応があったこと。そして、付近にいた三名は全員、想造力に対する抵抗力がなかったこと。さらに、エルという犬が異常な身体能力を持っていたことが挙げられます。」


あの時は焦っていて気付かなかったが、訓練もされていない飼い犬が170㎝近く垂直に飛び、しかも木の枝に着地など、できるはずがない。


「過去に犬に想造力が発現した前例はないけれど、たしか類人猿で確認されたことがあるわ。」

「そんなことがあるんだな。」

「だが、犬となると想造力の使い方を教えるのが大変だな。飼い主への説明も大変だ。」


犬を保護するとなっても、飼い主がいるのなら難しい。

自分の可愛い飼い犬を保護という名目で奪い去られるのだから。

それに、しつけが何より難しい。

母や岩本さんは想造力について教えるのは慣れているが、犬のしつけには慣れていない。

野生の勘で本能的に想造力を制御できる、と考えるのは楽観的過ぎるだろう。


「やっぱり、リリスにも説明するしかないのかな。」

「そういえば、リリスちゃんって天菜と同じ学校の生徒だったかしら。」

「うん。初めて喋ったけど。」

「学校が始まったら、家に招待してもらえるようにお友達になりなさい。」


んな無茶な。

一年積み重ねてきた「鹿島天菜」という陰キャラをなめている。


「よし、高天原の現状の対策としては、相手の接触を待ち、情報を引き出すこととする。また、南部での想造者は天菜に一任する。いいな!」

「「はい!!」」


リリスとエルについては私に押し付けられたようだ。

だが、見逃したのは私のせいなので文句も言えない。

その後、岩本さんと母は軍への報告資料を作るために二階に行き、私と三ヶ里は帰ることとなった。

短いですがここまで。

今週は水曜日にもう一話投稿予定なのでそちらもお楽しみに。

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