無駄話その1 ラーメンを食いに行こう
SOEF本部ビル一階。
外はもう暗くなってしまっていた。
波崎との戦闘後、すぐにSOEFに戻り会議をしていたのだ。
時間は22:00ぐらいだろうか。
人通りも少なくなっていた。
人通りの少ない道を三ヶ里と並んで歩く。
そういえば、ずっと疑問だったことがある。
「ねぇ、三ヶ里。あんたどこに住んでんの?」
そう。三ヶ里は初めて会った時からお金がないと言っていた。
今はSOEFから多少、給料が出ているが、まだ給料日ではないのでお金は貰っていない。
「ん?前から住んでたアパートだけど?」
「家賃はちゃんと払ってるんでしょうね。」
「失礼な。毎月、菓子折り持って謝ってるよ。」
払ってねぇじゃねぇか!!!
危ない。
深夜なのに元気のいいツッコミをしてしまうところだった。
「あんた、仮にも公務員なんだからしっかりしなさいよ。」
「はいはい。」
16歳に諭される21歳。
情けないこと、この上ない。
「じゃあ、私、家こっちだから。また明日。」
「あっおい、ちょっと待てよ。」
なんだよ。こちとら眠いんだよ。はよ寝かせろ。
疲れと睡魔で心の声が荒くなってしまっている。
「飯食ってないだろ。想造力は思ってるよりもエネルギーを消費するからな。ちゃんと食わないと死んじゃうかもだぜ?」
「はいはい、帰ったらラーメンでも食べますよ。」
「絶対インスタントだろ。」
「だったら何よ。」
「いや、それでもいいんだけどさ。せっかくだから、一緒に飯食いにいかねぇかってさ。」
あー、そういうことか。
三ヶ里は一応同僚だし、一度ぐらい一緒にご飯を食べてもいいかもしれない。
いや、焼肉はしたけど。
酷く非常識であった。
「なるほどね。あまり遅くならないならいいよ。」
「あっそう?じゃあ近くのラーメン屋行こうぜ。」
結局、ラーメンなのかよ!!
危ない。
今日は元気がいいな。
他人事のように分析する。
それより、こんな時間にやってるラーメン屋なんて知らないぞ。
怪しい。
本当に近くなんだろうな。
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ラーメン『熊山』
SOEFから北東に少し行ったところにあるラーメン屋だ。
客層が男、というかおじさんばかりなので、入るのは抵抗があった。
母とも来たことがないので、初めての来店である。
店舗を見かけたことはあった。
開店しているところを見たことがなかったので潰れたのだと思っていた。
「らっしゃぁい!」
大将が元気よく挨拶をしてくれた。
どうやら、券売機で発券をして注文をするようだ。
三ヶ里が慣れた様子で券売機に向かう。
ボタンをポチッとすると券が出てきていた。
私の番だ。
とりあえず、千円札投入。
えっと、何を買おうか。
塩、みそ、醬油、とんこつ、カラメル、プリン、季節の甘味…
ん???
なんだこのメニュー。
本当にラーメンのメニューなのか?
「おい、どうした?早く決めろよ。」
三ヶ里が急かしてくる。
いや、本当は悩むまでもない。
いつもはみそ一択なのだ。
たまに醬油に浮気する程度。
だが!!!!!!
なんで「甘味」がラーメンの味として存在しているんだ!!?
なんだこの店は。
「おい、選べないなら、俺が決めるぞ。」
「へ?」
ーーポチッーー
ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!!!!!!!!!!
なんてことをしてくれるんだ!!?
この男は。
いったい、何味の券を買わされたのか…
『パフェラーメン(¥980)』
パフェぇ…
これほどラーメンと相性の悪いものもないだろう。
「ちょっと、何してくれてんのよ…」
「いいだろ、きっと気に入るって。」
怒りを通り越して呆れてしまう。
気に入るわけがない。
きっと、店主も売れると思っていない、ネタに振り切ったラーメンなのだ。
味は最悪なものだろう。
しかも、¥980…
いや、今の私は給料もあるのだ。
この程度…
いや!やっぱり許せん!!
私は、そのうち日本一周の旅に出るのだ。
まだ誰にも言っていない。
そのために、できるだけ節約しようと決めていた。
ラーメンを食べに来た時点である程度の出費は覚悟していたが、このような形での出費になるとは思っていなかった。
食べてもみそラーメン(¥800)にしようと思っていたのに。
「パフェラーメン一つと、とんこつラーメン一つ、お待ち!!!」
私が過ぎたことに対して脳内で文句を言いまくっている間にラーメンが運ばれてきた。
どんぶり型の器にスープが注がれており、そこにラーメンが入っている。
そして山盛りの野菜が…
野菜が…
ない。
代わりと言っては何ですが…って感じでパフェが乗っている。
パフェが乗っているというと、分かりにくいか。
普通のパフェの容器にパフェが入っている。
そのパフェが逆さまにラーメンに突き刺さっている。
中々にインパクトの強い見た目をしている。
ラーメンの汁とパフェとの境界ではアイスクリームが溶け出している。
どんな嫌がらせを受けているのだろうか。
この状況を生み出した張本人である三ヶ里はのうのうと、とんこつラーメンという普通のラーメンを食っている。
こいつを許すことはできない。
今度締められるだけ締め上げてやろう。
さて…
こんなネタラーメンだが、食べないわけにはいかない。
食料は残してはいけないと言われて育ったのもあるが、何よりも¥980が無駄になるのが許せないのだ。
レンゲでクリームの混ざったラーメンのスープをすくう。
そして一口…
「はぁ!?」
「どうした?」
三ヶ里がにやけている。
いやそれよりも。
合ってる!!!
合いすぎている!!!
通常より薄味のスープ。
スープは魚介だろうか?
スープだけでは味が薄すぎて物足りないだろう。
だが、その薄まった分を補うかのように入り込むパフェのクリームの甘味。
予想に反して美味い。
まじで何でなんだろう。
ちょっと、麺も食べてみよう。
逆さまのパフェの容器が倒れないように慎重に。
溶けだしたクリームのため池に麵を絡める。
ーーズルルゥーー
思いっきり麵をすする。
美味い。
甘い。
うまあまい。
でも、しつこい甘さじゃない。
ラーメンの脂っこさが少なく、代わりにクリームの濃さがよく絡み、どんどんと口に運びたくなってしまう。
美味い。
甘い。
うまあまい。
気がつけば、麺が半分程度減っていた。
このまま麵を食らいつくしてしまうのもいいだろう。
だが、違う。
そうではないのだ。
ここで、パフェの中身を掻き出す。
そうすることで、真にパフェとラーメンが一体となり、パフェラーメンがパーフェクトラーメンと化すのだ。
パフェの中身とラーメンを混ぜる。
今までは茶色ぽかったスープも白く、薄灰色となった。
さて、お味は…
うおおぉぉぉぉぉお!!!!
最っ高だ。
絶妙なバランスを保ってきたスープとクリームの均衡が崩れ、クリームが強くなってしまった。
だが、それでいい。それでいいのだ。
パフェの中身は何もクリームだけではない。
チョコにイチゴだ。
この者達の登場により、苦味と酸味が追加された。
ただでさえ未体験の味なのに、さらに味が複雑化した。
あまりに複雑な味になると抵抗があるかもしれないが、ラーメンとは複雑な味の絡まりあいが魅力的な食べ物だ。
ラーメンとはそれ単品で完璧な食べ物。
そしてパフェもまた同じである。
パフェの語源がフランス語の「parfait」、意味「完璧な」であることから、パフェが完璧な食べ物であるということに反論はできない。
そんな単品で完璧、完成された料理同士が混ざり合うとどうなるのか。
答えは目の前に広がっている。
完璧を超えた、究極の食べ物が生み出されるのだ。
人生で初めて感じる複雑で究極の味が麺とともに口に運び込まれる。
なんという至福…
ああ、なぜ、なぜ今まで、この食べ物を知らずに生きてこられたのか。
自分の人生の全てがこのパフェのようにひっくり返された。
明日から何を食べて生きていけばいいのか。
そんなことも分からなくなるほど、この料理は極まっていた。
麵は全て食べた。
あとに残すはスープのみ。
全てを超越した、いや全てが凝縮したスープを一滴残さず飲み干す。
ああ、素晴らしき幸福感。
まるで背中に純白の天使の翼が生えたかのような。
ああ、熱い暑い。
脳がこの味を理解しようと働いているせいで、知恵熱が出てきた。
最後の仕上げにどんぶりの底に残るパフェのイチゴを…
ーーぱくっーー
一口。
「ごちそうさまでした。」
「お、おう。美味しかったのなら何よりだ。」
三ヶ里は一足先にとんこつラーメンを食べ終わっていた。
お待たせしてしまったらしい。
なんか、三ヶ里が私の顔を凝視している。
口元にクリームでもついているのだろうか?
一応、口元を紙で拭いておく。
「じゃあ、帰ろうか。」
「あ、いや、その、もう少し会話をしてから帰らないか?」
あまり遅くなると母に心配をかけそうだが、まぁ少しならば大丈夫だろう。
「で、何の話をするの?三ヶ里の今までして来た悪事暴露大会?」
「そ、そんなに悪事はやってねぇよ!」
「そんなに」って言ってしまっているじゃないか。
「なによ、会話しようって言ったのはあんたでしょ?ちゃんと会話を続けなさいよ。」
「ああ、そうだな。そんなに話すこともなかったな。すまん。じゃあ帰ろうか。」
会話をしようと言ったり、帰ろうと言ったり忙しい男だ。
まあいいだろう。
私たちはラーメン熊山を後にした。
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この時間帯にJKが一人というのは危険だろう。
だが、私の家まではそう遠くない。
それに、想造力を使えば大抵の変態は返り討ちにできる。
それに…
「おい、天菜。女子がこんな夜中に一人なのもなんだろう。家まで送ってくよ。」
「いや、”加速”していけば10秒ぐらいで着くから、大丈夫。じゃあ、また明日。」
そう言って、三ヶ里とはここで別れた。
いやしかし、あのラーメンは本当に美味しかった。
機会があればまた来たい。
今度はプリンラーメンを食べてみようか。
そういえば、三ヶ里にラーメン屋を出たときに
「お前、人前でラーメン食わない方がいいぞ。」
と言われたのだった。
なんでだろう?
まぁ、いいや。
人前で食べるのがだめなのなら、三ヶ里と来ればいいだろう。
そんなことを考えながら、帰宅したのだった。
宣言通り、10秒きっかりであった。
初めての食レポ回でした。
是非、お試しあれパフェラーメン。
食べたことないけど。




