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心からネコを信じなさい〜眠る前の優しい物語〜  作者: 地野千塩


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マナ

 多く苦労した人は、他人の苦労がわかるから優しくなる。


 なんて誰が言ったんだろう。


 ここは、とあるプロテスタントの教会だった。月に一度、企業から食品ロスになりそうな食品を分けてもらい、地域の家庭に配る活動をやっていた。


 礼拝堂の前にある庭に机を並べ、乾パン、砂糖、水、くクッキーなどを配っていく。


 私はここの教会員で、この活動も協力的だったが、最近ウンザリしていた。


 子供が可愛くない。嘘をついて余計に貰おうとする子やなぜか私達に暴言を吐く子もいる。


 この活動をしている牧師に聞くと、ネグレクトや虐待などで、大変な環境にいる子供も多いと聞くが、可愛くない。苦労が人を優しく成長させることはレアケースだと思う。


 本来なら一人一個のはずのクッキー缶を何回も並んでゲットしている子供がいた。最初は多めに見ていたが、これは問題だ。どうしようかと思っている時、牧師が子供に何か話し始めた。


 牧師といっても三十歳ぐらいの女牧師だ。どこか学校の先生のような厳しさがあり、子供も声をかけられた時点で硬直していた。まだ七歳ぐらいの男の子だった。


 ちなみに牧師といっても黒いガウンなどコスプレっぽい服は着ていない。普通にパンツスーツ姿で余計に学校の先生っぽい。


「雄太くん。マナの話って知ってる? 旧約聖書の話なんだけどね」

「マナ? 知らない」

「エジプトで奴隷になり困っていたイスラエルの民に、神様が天から降らせた食べ物なの。不思議な食べ物で、牧師の私もイマイチ正体がわからないんだけど」

「へー。興味なし」

「マナは本当に不思議な食べ物で、多くとっても少なくとっても、不足する事はなかった」

「ふうん」


 子供が本当に興味が無さそうで、あくびを噛み殺していた。


「でも、明日の分まで多くとった人がいた。その人はどうなったと思う?」


 ここで牧師の目が据わる。子供も何か感じ取り、クッキー缶を抱きしめていた。


「腐ったのよ。つまり、神様は明日の食べ物は心配するなって事と仲間とご飯を分け合う事を教えてる」

「べ、別にこのクッキーはマナじゃないやん」

「教会にある食べ物は全部マナです」


 断言する牧師には、静かな怒りが滲んでいたが、子供は無視して帰ってしまった。


 しかし、数日後。あの子供が教会にやってきた。


 私と牧師は、祈祷会の後、礼拝室の奥にテーブルを出し、食事の準備をしていた。海外から宣教師夫婦が来るので、そのおもてなし。大鍋にパエリアを作り、テーブルの上に置く。みんなで分け合って食べられる形式にした。


「おかしいよ。クッキーの中身が腐ってる……」


 子供はあの多く取った分のクッキー缶を見せてきた。本当にカビが生えて腐っていた。


「言ったでしょ。これはマナだったのよ」

「う、そうだったの……?」


 牧師はなぜかここでは怒らなかった。正直に謝りにきたからだろうか。


 この子供も親に放置され、ろくに教育を受けていない。あのマナの話をしたのも牧師なりの優しさだったのかもしれない。このまま何でも許されたまま育ったら、ろくな大人にならないだろう。


 それにしても本当に腐ってしまうなんて、不思議な事もあるものだ。まあ、かなり賞味期限が近いものをいつも分けて貰っているが。


 結局、この子供も交えてみんなでパエリアを食べた。海鮮もどっさり入り、ちょっとの量でもお腹いっぱいになってしまった。


 あの子供は、私達に初めて笑顔を見せながらパエリアを食べていた。


 やっぱり食べ物は、独り占めするより誰かと一緒に分け合った方が嬉しい。そんな事を思いながら、美味しいパエリアを楽しんだ。


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