野良猫を認めよ
わたしは、野良猫よ。
闇のように真っ黒なボディだからね。人によっては「気持ち悪い」と言うものもいる。だからちょっと人が苦手。野良生活は大変だけど、家猫になるつもりはなかった。
「お前は、真っ黒だなぁ」
この町の教会に行くと、牧師はわたしを庭に出迎えた。別に餌はくれない。安易に野良に餌付けした結果、どうなったのかよく知っているのだろう。
もう七十近い初老の牧師だった。教会も小さく、過疎化しているようだった。わたしが庭にくると、よく教会について愚痴る。
「土曜日礼拝じゃないと許さないって教会から出て行った伊月さん、元気かなぁ」
ああ、それきっと陰謀論に染まっている人よ。なぜか安息日の曜日問題と陰謀論って相性いいからね。教会通ってても、ネットの陰謀論のが楽しいのか結局来なくなる事が多いらしい……。なんて言えないけどね。
牧師は小さな肩を丸め、下を向いていた。教会から居なくなった人が心配らしい。
「そんな人はSNSで教会の悪口言いまくってるから、心配するだけ無駄だと思うけど?」と思うが、この人は 根っからのお人良しらしい。
教会から離れたもの一人一人を心配し、祈っている。
何だか居た堪れなくなり「にゃー」と鳴いてしまった。
わたしは野良猫だが、こんなに心配してくれる人はいない。教会飛び出した人を「野良クリスチャン」なんていうけど、一緒にされたくないんだけど。
「そうか、君は僕の気持ちをわかってくるかね」
「にゃー」
そして牧師は、私のモフモフボディを撫でた。
こんな心配されているなんて、野良クリスチャン達は夢にも思ってないだろう。相変わらずSNSで「日曜礼拝は納得いかない」と文句を言っているのが想像つくが、この件は神様に祈るしかないのかも。毎日のように牧師に会っていると、人への苦手意識も減ってきた。
そんなある日、牧師はこんな事を言った。
「お前もうちの子になるか? 責任もって飼う」
まるでプロポーズの言葉みたい。それぐらい真剣に見えた。
「お前がいたら、うちの教会の野良ちゃんたちも戻ってくる気がするよ。伊月さんは猫好きだったし、猫ホイホイだ」
「にゃ?」
それはどうだろう。かなり難しいと思うが、家猫になる話は魅力的だった。
自分で餌を探すの大変なのよね。冬は特に凍死しかけるし。冬になる前に、安全なところへ行かなくちゃ。
結局、わたしはここの家猫になった。温かい部屋で猫まんまを食べられるのは、何よりも幸せだった。




