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心からネコを信じなさい〜眠る前の優しい物語〜  作者: 地野千塩


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汝の隣人を愛せよ

 鹿島愛歌は、子供の頃から本の虫だった。本屋や図書館に行けば一日中潰せる。部屋も本が溢れ、電子書籍も千冊以上ダウンロードしている。漫画も好きで、ライトノベルなども何でも読む。愛歌は、大学生になったばかりだが、バイト代は本にほとんど費やしていた。あとは趣味で描いているイラストの画材代ぐらいだろうか。


 そんな愛歌だが、悩みがあった。それは、自己肯定感が持てない事だった。


 愛歌は、あまり男性に縁がなく、どうしようかと悩んでいる時、心理カウンセラーが書いた本に惹かれた。そこでは「自分を愛すれば全てうまくいく」、「自己肯定感持てば異性にモテる」とあり、信じてしまった。自分がモテないのは、このせいだと結論づけた。実際、自分に自信がなく、いつも人の目を気にしていたから。


 ただ、いくら本に書いてあることを実践してもうまくいかなかった。


「っていうか、私って普通に自分の事愛してるわな」


 近所に散歩中、キリスト看板と目があった。キリスト看板とは、聖書のメッセージが書かれているものだ。白と黒のデザインで、薄気味悪い……。よく田舎にあるそうで、一部のクリスチャンが布教目的に民家の家などに貼っているそうだが、単に怖いだけだ。


 しかし、このキリスト看板は、今の愛歌に心に刺さる。近所の民家に貼ってあるキリスト看板だったが「正しい人はいない」とある。


 どういう事?


 全く意味がわからないが、こんなハッキリと言われると、普通に自分の事を愛しているんじゃないかと気づく。


 普通に学校のヤンキーとかを馬鹿にしてるし、普通に車椅子で困ってる人とかを無視してるし、普通に親に反抗的な態度をとっていたりする。


 これって普通に自己愛だ。あんなに自分を愛そうと必死になっていた愛歌だが、キリスト看板を見ていたら、なんだか心が痛くなってきた。そもそも自分を愛したり、自己肯定感を持とうと思った動機も「モテたいから」だ。どっからどう見ても自分を愛してるじゃないか。人目を気にして自信がない原因も自己愛だったんじゃないかと気づいて、とっても恥ずかしくなってきた。


「帰ろう……」


 これ以上、キリスト看板を見ていたら、鬱になろそうな気がして、自宅の部屋に帰る。本が山とある部屋だが、今はなんだか虚しい。


「あ、聖書」


 キリスト看板で思い出したが、自分の部屋の本棚にも聖書があった事を思い出す。確か高校の時の担任の先生がクリスチャンで、愛歌が本の虫だというと一冊プレゼントしてくれたものだった。


 当時の愛歌は、一読して終わった。歴史的なところは面白かったが、何となくぴんとこなかった。そのまま本棚の奥の方に埋まっているはずだが。


 今はなんだか聖書に答えがあるような気がする。愛歌は、本棚の奥から聖書を引っ張ろ出し、開く。


 ちょうど、イエス・キリストが敵を愛しなさいと説いているページだった。その前後も読んでみたが、自分を愛そうとか、自己肯定感を持とうなんて一行も書いていない。それどころか、敵を愛せとある。


 厳しい教えだ。


 それでも自分を愛する事や自己肯定感をもつ事に限界を感じていた愛歌は、ここに答えがあるんじゃないかという予感がしていた。


 それに本の虫が、世界一のベストセラーを一読しかしていないのも、ちょっと恥ずかしい。明治大正時期ぐらいの作家も聖書を読んでいた事。翻訳小説は聖書の引用もよくあった事も思い出す。


「よし、読むぞ!」


 愛歌は、希望を感じながら聖書のページをめくっていたが、さすがにカタカナ語の嵐のところは眠くなってきた。


 まあ、今日はゆっくり眠ろう。


 今日は、とりあえずお休みなさい。


 愛歌はベッドに潜り込んで、目を閉じた。

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