白昼夢
私の住む町は、田舎。山とかは無いが、田んぼや野菜畑が多くある土地だった。細い道は、古い家賀たち並んでいるが、大半が空き家らしい。高齢化や過疎化が進んでいる。田舎に住むと、日本の未来に暗くなるものだ。
かくいう私も在宅仕事をしながら、家で両親の面倒をしていた。近所も老人の家ばかりだし、最近はヤンキーもめっきり見なくなった。
そんな私だが、飼い犬と一緒に近所を散歩するのが好きだった。というかそれぐらいしか息抜きがない。他にろくな趣味もないし、両親の面倒を見ているうちは、旅行やライブに行く気にもなれない。毎日が退屈で、地味に不満があったりする。この田舎町も、都市開発されないかとか、飼い犬がネットでバズってくれないかなと思ったり。
しかし、今はちょうど、春。よく晴れた空の下歩く。気持ちのいい散歩コースだ。
「あれ?」
しかし、何か違和感があった。
違和感に正体はキリスト看板だ。いつもは、黒と白のホラー風の看板で、聖書のありがたい言葉が書かれている。命令口調でどうも偉そうなので、布教には成功していないだろう。古い民家の壁に張り付いたキリスト看板は、なんとも言えない哀愁を誘う。田舎の風景に意外とマッチしていたものだが、今日は、なんか変だ。
「神は愛です☆ 聖書」
そう書いてあった。
妙に軽いノリ。色もピンク色の白抜き文字で、なんかチャラい。ユルフワお花畑風の看板になっている。
「キャン、キャン!」
飼い犬のジョンも違和感を覚えて吠えている。どういう事?
他にも「人類みな救われる☆」とか「世界平和♪」とか、キリスト看板らしくない文言が書かれたものが貼ってある。
キリスト看板の特に思い入れもない私だったが、これには違和感が拭えない。
いつものホラーティストはどうした? 命令口調が個性じゃないのか? そんなユルフワお花畑風で本当に満足なん? いくら人々から怖がられても、己を貫き通して欲しい!
思わず熱く説教してしまっていた。どうやら毎日見ている内に、キリスト看板にも愛着のようなものが芽生えていたようだ。こんなユルフワお花畑風のものは、キリスト看板ではない! まるで、芋娘がギャルになってしまったような違和感がある。お願い、元に戻って!
そう叫んでしまった瞬間だった。急に目の前にモヤがかかった。しばらく何も見えなかったが、すぐに現実に戻った。あのキリスト看板もいつものホラー風のものに戻っていた。
どうやら白昼夢を見ていたらしい。
「ジョン、夢だったみたい」
ホッとし、思わず飼い犬に呟いてしまう。ジョンも可愛い芝犬のままでいい。この町も田舎でいいし、私もこの生活が似合っている。もちろん、キリスト看板も、ホラー風でいい。
あの幻は、そんな事を気づかせてくれたのかもしれない。いつに間にか日常に不満も持っていたのかもしれないが、今のままで十分だ。
「まあ、死後さばきにあうとか、怖すぎると思うけどね」
そうは言うが、ユルフワお花畑風のものを思い出すと、やっぱりこのままで良いと思う。




