全知全能と同担拒否
ここは野中翔太が通っている教会。礼拝の後、同じクリスチャンと交流を持っていた。特にアラフォーOLの湯川勝子と話す。
教会といっても、質素すぎる場所だ。翔太は中学生だが、教室に近い。教壇、教卓や椅子があるところは特に。ピアノがあるのは、ちょっと音楽の教室っぽいかもしれない。プロテスタントの教会はだいたいこんな感じで地味だった。
「祈ったら、私の年収もアップしてぇー」
「へぇ」
翔太は勝子の話を聞きながら、モヤモヤとしてきた。自慢ばっかり。祈ったら金持ちになったとか、ご利益宗教っぽいじゃん……。
そんな翔太だが、いつも祈って結果が出てるわけでもない。というか、むしろ酷い状況になった時もある。根底には、執着心みたいなものがあったせいかもしれないが。牧師によれば敬虔な人こそ試練があると言っていたが、勝子が楽しそうに話しているのを見たら、思わず嫉妬の感情も生まれてきた……。
別に勝子が悪いわけじゃないが、イライラ。今、翔太の家庭は祖父の介護の問題もあり、大変だった。その事についても祈っていたが、今のところ解決の手がかりは見つからず、焦ってもいた。だから余計に勝子にモヤモヤしてしまうのかもしれない。聖書通りで言えば、そんな嫉妬みたいな気持ちを持ったらダメなのにさ……。
そんなモヤモヤした気持ちを抱えながら、教会を出て、家まで歩く。
この辺りは田舎で、黒と白のキリスト看板も掲げられている場所も多い。「神は心を見る」とか「神と和解せよ」というキリスト看板も目につき、ドキッとする。今日に限っては、ネコバージョンのキリスト看板の方が見たい気分だ。
「翔太じゃん!」
そこに同じクラスの藤川史子に偶然会い、一緒に歩く事になった。史子はいわゆるヲタク女子。アイドルのファンみたいだが、毎日楽しそうなクラスメイトだった。確かに見た目は地味なヲタクだが、毎日楽しそうにしているので陰キャっぽくはない。
今日も推しがどうこうとか楽しそうに話している。そんな史子を見ていたら、ついつい自分のモヤモヤした気持ちを話してしまった。
「それって同担拒否みたいだね?」
「同担拒否って何?」
ヲタク用語みたいだ。史子によると、同じ推しが好きなヲタク同士で交流を断つことらしい。理由は色々あるようだが、推しを独り占めしたい独占欲や嫉妬も原因の一つだという。
「そうか、同担拒否か……」
確かに今の状況は、そんな感じだ。
「でも翔太の推しの神様って全知全能なんでしょ? 一神教ってそういうイメージ。特定のファンしか愛する力無いの? 侮ってはいませんか?」
目から鱗。
確かにそうだ。神様は同時に全員のクリスチャンを深く愛する事も可能だった。クリスチャンだけでなく、人類全員愛してるんだった。人類だけでなく、ネコとかの全ての生き物も。願いが叶わないのも、祈る自分の心が悪かった可能性も高かったと気づく。執着したり、焦る気持ちだけでは、きっとダメだった。
「そっか。同担拒否みたいな事しててもしゃーないかも?」
「そうだよ。仲間割れしてるから、キリスト教のイメージ悪いんじゃない?」
耳が痛い。痛いが史子は間違った事は言っていない。
「そっか、なんか史子、ありがとよ」
「うん。じゃ、私、こっちだから〜」
史子と別れ、田舎道を歩く。再び、「神と和解せよ」のキリスト看板と目が合う。今はドキッとはしない。むしろ、心のモヤモヤはスッキリと晴れてしまっていた。




