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6:俺のはじめての相手がこんなに可愛いわけがない

運営指示により大部分削除

 山田は蛇鶏コカトリスにらまれた冒険者のように固まった。

何を隠そう、彼には女性経験というものが無かったのである。


 女性に興味が無いわけではない。大学時代に風俗店に行ってみた事もある。だが、山田の風俗初挑戦は惨憺さんたんたる結果に終わっていた。


(描写削除)


 それ以来、山田は二度と風俗に足を向けることはなかった。

合コンなどに誘われることはあったが、お持ち帰り、お待ち帰られなどには縁遠かった。もともと対人能力に難のある山田にとって、他人と酒を飲んで騒ぐという行為はストレス解消どころかストレス源でしか無かった。

 屍人アンデッドが回復魔法をかけられたような状態になって、二次会にも参加することなく、むしろ心を病んで帰宅するのが常であった。


 そして気がついてみれば、魔法使いを名乗れる(脚注1)年齢を超えてすでに久しく、両親も他界し、孤独死を心配する年齢にさしかかっていた。

 建設会社の正社員であったことだけは山田が所属していた社会で唯一勝ち組と言えなくも無い部分だったが、十分な貯えが作れるほどの高給でもなく、ひそかに副業で儲けるような才覚も無かった。

 老朽化した賃貸集合住宅では猫すら飼う事が許されず、成人向け娯楽作品の鑑賞を除けば、狭い張出し窓に置いた鉢植えで地味に園芸を楽しむのが唯一の趣味という生活であった。


 このまま魔法使いとして寂しく一生を終えるのだ。山田はそう思っていた。

だが今、その彼の人生に、夢想すらしなかった事態が巻き起こっていた。


 可憐な若い女性が、緊張してピンクの箱の中に正座しなおした山田に向かってゆっくり近付いてきていた。


 彼女は山田の前でしゃがみこむと、彼の顔を見つめた。視線を合わせられずに山田の目が泳ぐ。彼女はさらに距離を詰めてくる。


 近い。

 距離が近い。

 近い近い近い近い。


 手を伸ばせば、いや、もう手を伸ばさなくても体が触れてしまう距離である。

彼女の息遣いが感じられる。体温も感じられる気がする。

 若い女性のかぐわしい体臭が鼻腔をくすぐる。目の前に迫る整った顔。大きな瞳。すべっすべの柔らかそうな頬。化粧もしていないのにつややかに光る小さな唇。


(ふうぉっおおおおおおおおおおおおおおおおおおぅっ!!!!!!!)


 本能が理性を押しのけようとするその時、山田はかろうじて踏みとどまった。


(待てあわてるな、これは孔明の罠だ!!

よく考えてみろ、R18指定の小説でもないのにこんなエロい展開があるわけが無い! 

 これは事故で頭を打った男の脳内妄想だったというオチだ。このあと目が覚めるシーンで終わるのだ!! つまり興奮するだけ無駄だ!!!


 さもなければ、この場面を誰かがスマホで撮影している。

奥から人相の悪い男が出てきて、「おっさん、俺の女に何してくれてんの?

職場にこの動画を送られたくなければ、誠意を見せてほしいんだけどなぁ?」

と刃物をちらつかせながら言うのだ。

こんなつまらねえ嘘に絶対に騙されるんじゃねえぞおおおおおっ!!!!)


「ご心配なさらなくても良いですよ。代償をいただこうなんて思っていませんから」


 そう言いながら錬金術師は山田に手を伸ばし、彼が着ている服の胸元をはだけはじめた。

山田の緊張状態は極限に達している。心臓は早鐘のように打ち、顔は火のように熱くなって汗を吹く。そして肉体の一部は極度に萎縮している。


「あら?……また状態異常ですね。回復魔法をかけなければ」

 

(回復……魔法? 回復、いったい何を。

回復したらどうなる。そうしたら自分は何をすれば良いのだ)


 その時、山田の脳裏にはアステカ文明の生贄いけにえの情景が浮かんだ。

かつて古代アステカの人々は、太陽神に生贄を捧げていた。生贄に選ばれた男は美しい乙女と一晩を過ごした後、祭壇さいだんで生きたまま心臓をえぐり抜かれたという。(*脚注2)


(そうか、自分はこれから生贄にされるのだ……きっとこれから……)


(妄想描写削除)


(……などという展開になったらどうすればいいのだ。どうすることもできない。抵抗しても逃げても契約魔法の効力で即死。ひいいいいぃぃぃ)


山田の脳内にエロ怖い妄想が展開されていた。しかし同時に彼は思った。


(だが、それならそれで後悔は無い。この先どう生きても、これほどの女性に巡り合うことは無いだろう。トゲオオハリアリの雄などは雌と交接した時に二度と結合が離れず、雌と繋がった部分だけがいつまでも動き続けながら、残りの体は働きアリに分解されて生きながら喰われてしまうのだ。(*脚注3)

それに比べたら心臓の一つや二つ取られたところでたいした話では無い(*脚注4))


 この時の山田はだいぶ錯乱しており、正常な判断ができているかどうか疑わしい。しかし、彼がもともと正常な判断のできる人間であったかどうかは現在でも意見が分かれている。ともあれ山田は覚悟完了した。


「でも、い、痛いのは嫌です」

「ご心配なさらないで……痛みを感じる暇も無く終わります」


 そう言うと錬金術師は短剣の形をした光を手の中に出現させ、それを山田の胸に勢いよく突き立てた。


「ぴぎゃあああああああああっ!!!!!!」


 山田の悲鳴が部屋の中に響いた。

脚注1:インターネットの俗語で、一定年齢を過ぎても女性経験の無い男性を魔法使いと呼ぶ


脚注2:アステカ時代の人身御供神事に関しては各種の物語においていろいろと語られているが、生贄が高待遇であったという一時資料は見つからなかった。エロ関係の逸話についてはどうやら創作であるらしい。


脚注3:実際の画像がネットにあるが、危険なので検索してはいけない


脚注4:異論もある

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