01-楽しい一時に珍客現る-
「あははははは!ケロスちゃんはやーい!」
「凄いですわ!まるで風になったみたい!」
【そうだろう!しっかり捕まっていろ!】
本格的に寒くなった冬の最中。
旬なメープルシロップの香りが漂う家の近くをケロスが二人の女の子を背中に乗せて走り回る。
小さい女の子はミシルガ町長さんの娘ミシェル。少女から女性への道を踏み出そうとしている年頃の女の子はセシル町長さんの娘セリア。
今日は二度目の交流会で、町長さん達家族やウチに引っ越してきた親方夫婦だけでなく、サトウカエデの子猫ちゃん達や三つの町の冒険者達まで呼び集めての大宴会に発展した。
既にインビジブルエアやアイアンホークで使い魔の存在にも慣れたからね。女の子二人も興味を示したんでケロスを呼んだ訳だ。他の奴は流石に無理。料理を用意しきれない。レイくらいならまだ…いや、やっぱやめよう。
「どんどん食べて飲んで。冒険者は帰り道で返り討ちにされない程度に」
「「はははははははっ」」
寒空の下でも心は凄く暖かい。
こうして笑顔で過ごせられるのは幸せだ。
「後でビリヤード大会開こう。町ごとに分かれて一番を決めるんだ。優勝者にはちょっと凄いアーティファクトを用意しよう」
「「うおおおおおおおおおおおっ!!」」
楽しい時間の為なら幾らでも頑張れる。
既にビリヤードの話はアッサムとアイリスの冒険者達に町長さん経由で伝わっていて、今日はそのお披露目って意味もあるんだ。
「皆は皆だけで大会を開こう。他のイキシアの面々はやり込んじゃってるし、優勝賞品じゃなくて参加賞賞品を用意したよ」
「「きゃーっ♪」」
サトウカエデの子猫ちゃん達は流石に別。イキシアの連中のやり込み具合は初心者じゃ絶対追いつかない。
エアリとファリスにせがまれてるんで、これで気に入って貰える様なら無理をしてでも用意しようと親方と話してるよ。
ちなみに参加賞はキューを何種類か。エアリとファリスも全部揃えて練習してるから必要になるだろうと思って。
町長さん達にもせがまれたんで作ったよ。台も無理矢理石材を集めて一台ずつ家に置いた。大変だったし材料尽きた。
「とても楽しみにしていたのだ。ミシルガ町長が某達の為に一日開放してくれてな」
「あ、俺達もセシル町長にやらせて貰えてる。ビリヤード場マジ欲しい」
あ、少しやらせて貰ってたか。そりゃ皆揃ってやりたがる訳だよ。
材料確保大作戦の事も既に伝えてあるし、ここに居る全員が乗ってくれたから春になるのが本当に楽しみ。
「アイラさん。後で少し相談に乗って貰えないか。貯蓄を叩いてビリヤード場を建てようかと考えているんだ」
「「うおおおおおおおおおおおっ!!」」
バランも本気だっ。目がかなり本気っ。
あまり無駄遣いをしない感じだから普通に一軒建てられそうだな。取り敢えずビリヤード場の台の値段を教えて置こう。
「皆、手を貸してくれ。それで済むなら三軒建てられる」
「「うおおおおおおおおおおおっ!?」」
「ほ、本当かバラン!」
三軒とか凄え!
貯め込んでたなー!
「はは。実は内心でミスリルの剣を目標に稼いでいまして。アイラさんのおかげで目標以上の武器が手に入りましたから、貯蓄は何かアイラさんが考えた施設を個人的に建てる為に使おうと考えていたのです」
偉い!!
そして羨ましい!!
「おいアイラ。ちと真面目に稼ごうぜ。ステンレス武器ならまだやれるだろ」
「「うお?」」
ぷくっ。
フレキの目も本気だ…っ!
「フレキ、どう言う事だ?」
「アイラが家を建てる時にアーティファクトで荒稼ぎしたんだ。アーティファクト屋が開く前にやったんで、一億以上稼いでる」
「「マジで!?」」
そして皆の目も本気に。
「解った解った。今研究してる事が認められれば新しい流通が生まれるし、それも込みで動いてくれるならやってやるよ」
「「うおおおおおおおおおおおっ!?」」
そろそろ売り込もうと思ってた物が有る。
ちょくちょく様子を見に来る様になったアラン町長さんも驚いたけど、すぐ気付いてくれた。
「もしや、コンサルトとの流通を」
「ええ。楽器の素材にアイラブルーが使えるかもしれないと話していましてね。使える様ならアイラブルー塊を大量に出荷しようと思うんです」
「本当にアイラさんは素晴らしい…」
「「うんうんうん」」
イキシアとアイリスの冒険者にステンレスの素材とアイラブルーの素材を集めて貰えば良い。
その間にアッサムの冒険者はバランのビリヤード場に必要な物を揃える。
今となってはステンレス武器ならイキシアの冒険者は簡単に作れるし、アイリスの冒険者には金属塊を作れば良いだけのアイラブルーを量産して貰えば良いし。
ジェシカとアンゼリカが暮らしていた音楽の町コンサルトでもステンレス武器は売れるだろう。
もしかしたら武器の流通も生まれるかも。武器作ってなさそうだし。武器作るくらいなら楽器作ってそう。
「親友からはこう呆れられましたよ。お前は脳みそも体も金の成る木だなって」
「ぶふぅっ!?」
「「ぶふっ」」
事情を知ってる面々だけ吹いた。町長さん達なんか特に。
当事者が居るんで軽くに留めよう。
「アイラさん。体もとはどう言う事だ?」
「いや、淫魔の体って媚薬の素材としては最高級品なんだよ。故郷で物入りになった時に切って再生切って再生を繰り返してさ。その話をした事があっただけ」
「な、成る程…っ!それは確かに…っ!」
「「ぷくく…っ」」
はい、この話はそこまで。サトウカエデの子猫ちゃん達が気にし始めた。
【主殿!一大事です!】
うお!?
走り回っていたケロスからの遠距離念話でケロスをこっちに呼び戻した。
フィーナと町長さん以外の非戦闘員は家の中に入って貰う。…って。
「親方も中に入って」
「本気で危ねえ事だったらアイラさんが一人で真っ先にすっ飛んでいくはずだ。町長達を残したんなら魔族の知り合いが来たってトコじゃねえ?」
ほんとこのヒト凄い。真面目に尊敬する。
ボクの事をしっかり理解してくれてるし、それ以上に読みが早く鋭すぎる。
全くもってその通り。
「あ!あああっ!閣下!閣下あああああっ!!」
「「うおっ!?」」
知り合いが来たとケロスから聞いた。
町に居るとこの距離から匂いで感付いたんだ。やっぱり捜索役として優秀じゃん。
それはさておき、必死になって駆け寄って来たこの男。男夢魔、ナイトメアである。余談だけど女夢魔はナイトシープ。
駆け寄ったら駆け寄ったで即座に膝を折って頭を垂れたよ。この馬鹿野郎が。
「良かった…っ!閣下…っ!漸くお会い出来ました…っ!」
「「うおおおおっ!?」」
こいつには二番目に来て欲しくなかった。個人的にもこいつの役職的にも。勿論一番は親友。
こいつが来るって事は余程の事態だし、大抵は親友がらみ。つまり迷惑事しか持ち込まない。
更にこいつ自身も面倒臭い。こいつの為の対応ってのがあって、そうしないと動かない。
「面を上げよ。今ここが私にとってどの様な場であるか弁えての来訪であろうな?」
「「うおおおっ!?」」
「ああ…勿論に御座います…。閣下に取って掛け替えのない一時にお見苦しい様を見せ、周囲の皆々様方には大変申し訳無く考えている所存…。しかしながら、事は一刻を争います故、閣下も皆々様も、どうかこのナイアムにご寛容頂けます様お願いしたく…」
高圧的に接しないと話が出来ない馬鹿。高圧的に接すると凄く幸せそうに応えやがる馬鹿。
「紹介する。今の魔族の国で宰相やってる、魔族一のマゾ男爵。ナイトメアのナイアムだ」
「「ぶふぅっ!?」」
こんな奴に権力を与えて良いのかと上層部では首を傾げられた程の変態だけど、名宰相と呼べるだけの手腕を持ってるんでかなりの人気。真正マゾと知られていても人気。世の中理不尽。
「して、ナイアム。何があった。手短に話せ」
「ははっ。我等が魔王城に危機が迫っております。この危機を打破する事が出来るのは閣下しかおりませぬ」
「「うおっ!?」」
ほーら、やっぱり。
そんな事だろうと思った。
「その場凌ぎを用意する。インビジブルエアを呼べ。後に必要な数を揃える」
「ありがたきお言葉!」
くっそ、せっかく用意したってのに。
「フィーナ。ジャネット達にも協力して貰って、ウチに有るアイスと酒を全部引っ張り出して」
「「は?」」
「ああああっ!わ、解りました!ジャネットさんお願いします!」
「何だか良く解らないけど手伝うよ!」
フィーナには前に話したよね。
つまりそう言う事なんだ。
「ナイアム。深刻か」
「御意。類い希なる英知をお持ちの閣下がお離れになった事も有り、限界が近付いておりました。今し方魔王城に置いたインビジブルエアに伝えましたところ、漸く事態が収拾したとの事。我が国を代表し、閣下には心より御礼申し上げます」
「「お、おお…?」」
だよね、知ってた。
予想通り。知ってた。
あいつはそう言う奴。知ってた。
「ったく、あの馬鹿。ガキじゃねえんだから甘い物欲しさに駄々捏ねんじゃねえよ…」
あー、もー、次の酒造交流会はあいつの分まで作らないとだー。
「お待たせしました!アイスの器に凍結魔法を刻んであります!」
「酒樽も全部引っ張り出したよ!」
「おおお!おおおおおおっ!!忝い!これで我が国は救われる!」
「私が作った物も入っていますが、次に用意するまで我慢して頂く様に魔王様にお伝え下さい!」
「「は!?」」
「必ずや!どうか貴女様の名をお聞かせ頂けませんか!」
「フィーナと言います!えと、その…」
あ、うん、ボクから話す。
ここではっきり言っておいた方が良い。
「フィーナは私の婚約者だ。無礼な振る舞いは許さぬぞ」
「なんとおおおおっ!?お、おめでとうございます!なんと善き日か!閣下にもお相手が出来たとは!」
…は?
「どう言う事だ?私にも?」
「話せば長くなります。大変申し訳無いのですが、我が僕からお聞き頂けないでしょうか」
「よかろう。急ぎそれ等を彼奴に届けてやれ」
「ありがたきお言葉!では、皆々様!私はこれにて!後日改めてご挨拶に伺わせて頂ければと存じます!フィーナ様、どうかお幸せに!では!」
「「お、おお…」」
帰れ帰れ。
挨拶とか要らないから二度と来るな。
「ほんとごめん。あの馬鹿、こっちの状況をロクに知らずに面倒事を持ち込みやがった。ちゃんと説明するけど、一先ず今の事を説明する」
「「お、おお…」」
「甘党で馬鹿なボクの親友。魔王アルゴニアを殺して新たに魔王になった奴が甘い物欲しさに癇癪起こした。暴れられると城が吹き飛ぶんでナイアムがボクのトコに来たんだわ」
「「はあああああああああああっ!?」」
つまりはそう言う事です。
頭痛い。凄い恥ずかしい。穴があったら入りたい。折角の幸せな一時が台無し。
休戦協定の事を除き、他の情勢は全て話した。
ナイアムの馬鹿さ加減が意外にも役立ち、魔族への視線が大きく変わってくれたよ。
「しっかし、アイラさんやっぱ凄えヒトだったんだな」
「ああ。国を改革出来るんじゃ、俺達がこうして良い思いをさせて貰えてるのも納得だぜ」
「記録してただけでも凄えのに、ちゃんと成果を上げて国を変えちまったんだからな」
ついでにボクの株も上がりすぎた。
度を超えるとまずいんで、その辺で留まって貰いたい。事情が事情なんでまだ黙ってる様にも頼んでおく。
「それにしても、さっきのお姉様格好良かったねえ…♪」
「それですよそれ!私なんか痺れすぎて倒れるかと思いましたし!」
「統治者の威厳を感じたぞ。前から思っていたが、アイラさんはどんな振る舞いでも堂に入っていて感心する」
「ああ。バーテンダーのアイラさんも先程のアイラさんも実に良かった」
「「うんうんうんっ」」
あ、それは素直に嬉しい。
そう褒められるのは大好きー♪
特にフィーナに褒めて貰えると幸せー♪
「なんてーかな。アイラさんは確かに中身は男なんだよ。それも紳士とか貴公子とか言われる類のな。嫌味もねえから凄え自然に話せちまう」
「「うんうん」」
うあ、親方に褒められるのも嬉しい。
本当にボクの事を解ってくれてる。
「でも見た目は極上のべっぴんさんだ。しかもその場その場で最高の振る舞いを使い分ける。そりゃ誰だってついて行こうって気になるさ。美味い話を持ってきてくれるなら尚更だ。中身が男だと解っているから手を出そうと考えなくさせるが、それでもって奴ぁ絶対ぇ出るぜ」
「「あー」」
うぐっ!?
そこまで見抜くとは…っ!
成る程、だから親友は口説いてきたのか。でもそれはそれで…。
「アイラさんは性別を超えた何かを持っていますよ」
「ね。アタイ等も一生ついてくって決めたし」
成る程ねー。
あ、そうだそうだ。
「悪いけど、君の話は後で聞くね」
【畏まりました】
あの馬鹿のインビジブルエアから後で話を聞かないと。あの口ぶりからするとあいつに彼女が出来たっぽいし。
「ふむ。アイラさんよ。もしかしてその親友ってのは男か?」
「ぶふぅぅぅっ!」
「口説かれたか。まあそうだろうな」
「「うおおおおっ!?」」
親方…っ!
ほんと心から尊敬するよ…っ!
むしろ心の師匠と呼びたいくらいだし。
「俺の物になれと大分昔から言ってきたけど、それ自体は軽く流せば良いだけなんで良かったんだよ。問題は国民の反応でさ。もう酷かったよ。賢き魔の妃、魔賢妃なんて呼び名まで付いちゃってさ。あいつと結婚する気なんてないから、妃じゃなくてせめて姫にしろとわざわざ正式な布告まで出したくらいだ」
「ぶわっははははははははっ!まあそうなっちまうだろうよ!」
あれにはほんと参ったわ。
それに調子づいて口説く頻度が高くなってきやがったんで、早く抜けようって急いだくらい。
「いや、普通の女だったら秒殺してたよ。あいつ黙ってれば凄えイケメンなんだもん。性根も好青年って呼んでも良いくらい。でも馬鹿なんだ。決定的に馬鹿」
「「ぶふぅぅっ!!」」
ほんと、こんなんで大丈夫かよ再び。
「正確には戦闘に関する事以外は全部馬鹿。戦闘になるとアルゴニアと互角以上に戦えるくらい力も勘も閃きも凄くなる。でもそれ以外は壊滅的。解らない事が有ったら絶対ボクに聞くの。納得したら忘れるの。ボクに頼りすぎて戦闘以外の知能が全く育ってない。むしろ衰えてる」
「「ははははははははははははっ!!!」」
【流石は閣下。陛下への評価が実に的確です】
お前もそう思うよねー?
追加されたインビジブルエアだけど、結構頻繁に呼ばれてるっぽいな。
「ぶっちゃけ、今魔族の国を支えてるのはさっきの真正マゾだよ。どうしようもない変態だけど、ボクが徹底的に政治を仕込んだんで手腕は折り紙付きだ」
【むしろ、その仕込み方が我がマスターを歪めたのではないかと】
「「ははははははははははははっ!!!」」
うーあ、やっべえ。何この自業自得。
特大のブーメランって感じなんだけど。
「は、腹痛え…っ!」
「今の魔族の国となら普通に付き合っていけそうだな…っ!」
「筋肉馬鹿と真正マゾが治める国か…っ!」
まあ、親しみやすいと感じてくれるなら良しとするか。馬鹿もマゾも時には役立つって事で。
「アイラさんも含めた三本柱って考えるとまた…っ!」
「「ははははははははははははっ!!!」」
ぐああああああっ!?
「あんな連中と比べられるなんてヤだ…っ!」
「「ははははははははははははっ!!!」」
それは勘弁してええええっ!




