外伝5話 アトレビドのトレーニング
「ふん! ふん! ふん!!」
ヨークシャー産の豚の亜人であるアトレビドは腕立て伏せをしていた。ここは彼が世話になっている赤バラの亜人ロサ司祭の住む屋敷だ。その屋敷の一室にトレーニングルームがある。
ダンベルやバーベル、各種のトレーニングマシンがそろえられていた。フエゴ教団では筋力トレーニングを推奨している。屋敷の住人は仕事の合間にトレーニングを行うのが日常であった。
「おや、アトレビド。精が出るね」
声をかけたのはヒマワリの亜人であった。顔は褐色でヒマワリのように髪の毛と髭が生えていた。体格は細長いが筋肉を鍛えており、見た目と違って頑丈である。
彼の名前はヒラソル。ロサの長男である。
「はい。腕立て伏せは200回やってます」
アトレビドは息を切らしながら答えた。彼は毛深く汗がべっとりと毛に張り付いている。アトレビドは近くにあったタオルで顔と身体を拭いた。
「ヒラソルさんはもうじき遠い町に司祭になるんでしたね」
「ああ、数日後にはここを旅立つよ。それよりも君は努力家だね。僕では腕立て伏せなど膝を曲げて20回が限度さ」
基本的に腕立て伏せは足を延ばす。だが足を延ばせない場合は膝を曲げてもいいのだ。
「今は休んでますけど、すぐ200回やりますよ。腕立て伏せは上半身を鍛えるのに最適ですからね」
「うわぁ、すごいねぇ。グラモロソの相手する時間が少なくなるんじゃないか?」
ヒラソルは呆れていた。彼は妹でシクラメンの亜人であるグラモロソを愛していた。もちろん白蛇の亜人であるブランコもだ。この家の女性はどこか変人が多い。平ソルの嫁であるジャンガリアンハムスターの亜人であるペルラは豪快だが優しい性格だ。肝っ玉母さんという言葉が似あう。
「大丈夫ですよ。グラモロソも付き合ってくれてます。美容のためにいいですから」
なるほどとヒラソルはそう思った。
さてアトレビドは腕立て伏せが終わった後、ダンベルカールにハンマーカールなど上腕二頭筋を鍛えていた。
そしてラットプルマシンで広背筋を鍛える。他にディップスを行った。
午前中はほぼトレーニングで終わっている。アトレビドは司祭の杖だが、これも立派な仕事だ。
「アトレビド~。御飯が出来たわよ。ついでに兄さんもどうぞ」
そこにひょいと巨大なシクラメンが現れた。実際はシクラメンの亜人であるグラモロソである。
「はっはっは、ついではひどいな。だが相伴に預かろう」
ヒラソルは引っ越しの下見で忙しい。連れていく信者たちの教育も重要だ。
さて食堂では長テーブルが置かれてあった。テーブルの上には鉄の鍋があった。野菜と肉がたっぷりと入った味噌で味付けしたスープである。その横には炊き立ての白米がどんぶりでよそっていた。
「おお、うまそうな匂いだな。さっそく食べるとしよう」
アトレビドは深皿にスープを入れるとがつがつと食べ始めた。スープをおかずに白米も一緒に食べている。あっという間にどんぶり飯は空になった。だがすぐお代わりをもらう。
その様子を見てヒラソルは呆気に取られていた。
「……アトレビドの食欲はすごいね。僕は見ているだけでお腹がいっぱいになってきたよ」
「兄さん、アトレビドは稽古の最中よ」
グラモロソが言った。実際にアトレビドの食事は稽古の一環である。顔から脂汗を流し、懸命に白米を口に入れていた。胃袋の拡張も稽古になる。
腹が膨れるとアトレビドは寝室へ向かう。腹をさすり、苦しそうであった。
食べてすぐ寝ることで脂肪を身に付けるのである。これは天照皇国の国技である相撲取りの稽古と同じであった。
脂肪の鎧を身にまとった筋肉の塊となるのである。アトレビドの脂肪スキルは脂肪を多く使う。脂肪が減って余った皮がだらりと垂れ下がるが、それをバンテージ代わりにして相手を殴ることもあった。
アトレビドは同年代であるフエルテと比べると筋肉の量は少ない。しかし筋トレは日常的に行っている。
アトレビドは筋肉と脂肪が合わさり、暴れ馬を体当たりで止めるなど朝飯前であった。
ちなみに夜もドカ食いをしてから眠る。幼少時は吐きそうになったが我慢して出さないようにしたのだ。
「……アトレビド君はいつグラモロソを食べるのだろうか」
「!? ちょっと兄さん!! 変なことを言わないでよ!!」
ヒラソルの独白に妹は真っ赤になった。
「はっはっは。もう君は司祭で彼は司祭の杖だ。いつでも子作りをできるんだよ。まあブランコは例外だけどね」
「ブランコ姉さんのことは言わないで……。頭が痛くなるわ」
グラモロソは頭を押さえた。姉のブランコは幼女が好きなので彼女にとっては悩みの種であった。
「それはあの子が無能だからかな?」
「違います!! 幼女趣味をやめてほしいだけです!!」
グラモロソは反論した。彼女はよほど姉が嫌いなようである。
「……まあ、彼女は無能ではないけどね」
「何か言いましたか?」
「別に何も。さて僕も残りを食べるとするかな」
ヒラソルが鍋を見るとすでに空になっていた。何とも言えない気分になる。
なんとなく書きました。腕立て伏せなどのトレーニングは力士の千代の富士氏のトレーニング法を参考しました。




