白銀の少年
白を基調とした清潔感溢れる
広々としたその部屋には、
引き出し付きのサイドテーブル、
小さな液晶テレビ、冷蔵庫、
そして自動リクライニング機能付きの
ベッドが一つ。
そこで身体を起こし、
ベッドテーブル上のノートPCのキーを
カタカタと打ち込む少年が一人。
彼の名は森城健太。
見た目は名前の印象と違い
日本人には見えない。
肩口まで伸ばした長い髪は
白に近いが老人のような白髪ではなく
色素が限界まで抜けた
銀髪と言える不思議な色合いだった。
そして肌の方も黄色人種の日本人とは思えない、
透けるように白に近い肌色である。
ノートPCを見つめる目は気怠げであったが
それよりも瞳の色が際立っていた。
ルビーのように紅かった。
宝石であるルビーの石言葉の中に
情熱や勇気などがあるのだが、
健太の性格が瞳の色に現れているようだった。
しかし、そんな石言葉も健太に
当てはまらない言葉があった。
それは健康だ。
健太は眼皮膚白皮症。
一般的に言うアルビノである。
そしてこの部屋は
日本で最も高度な医療が受けることができる
帝央大学附属病院の一室だ。
アルビノというだけなら
この病室でなくても自宅でもよかった。
しかし健太はそれよりも
深刻な病状があった。
幼いころから入院生活を続けてきた健太は
これまで何百人という、
医者に見てもらってきた。
しかし皆、口をそろえて
原因がわからないというのだ。
調子がよい日の体温は36度くらいであるが、
年齢を重ねるごとに40度近い高熱が
頻繁に繰り返されるようになる。
おまけに寒気に目眩も追加され
終いには気絶してしまうのだ。
健太の人生で自宅よりも
病院で過ごす時間のほうが何倍も長く、
もう病院が自宅と言っても過言ではなかった。
この個室の病室を見て解るように
健太の家はある程度は裕福ではある。
両親が共働きだからだ。
そして自宅と病院が遠いこともあり、
両親が見舞いに来るのは月に一度。
他の兄弟や、友人もいない。
もちろん両親には
感謝してもしきれないほどに
感謝している。そして申し訳なくも思う。
「はぁ、怠ぅ」
そう呟いたあと
左腕に刺してある点滴の液が落ちるのを
眺めていると、
携帯が振動しだした。
着信は母親からだ。
「もしもし健太?調子はどう?」
「ん?今日は調子いいよ?どうしたの?」
「明日、お見舞い行くつもりだったんだけど
断れない仕事入っちゃって行けなくなっちゃった。ごめんね。行けるのは週明けになりそう。」
「そうなんだ。大丈夫だよ。
母さんの方こそ無理しないでね。」
「ありがとう。また合間見て電話するね。」
「わかった。またね。」
プー プー プー
携帯をテーブルに置き、
またPC画面を見つめる。
熱が上がって来たのかもしれない。
表情を見ただけで体が怠そうだ。
画面には趣味で投稿している
ネット小説の本文編集画面が映っている。
この作品を書き始めて3年になる。
あと数分耐えて書き上げればで完結だ。
内容は異世界転生もの
定番中の定番だ。
読者は19人。
多くはないが
感想も書き込んでくれる。
良い人ばかりだ。
駄作の小説なのに批判コメントもなく。
いつも心温まる感想ばかりで
健太は嬉しかった。
この人達が読んでくれてるから
今日まで書き続けれたのもあるだろう。
そしてやっと最後の文字を打ち込んで
完結することができた。
最後に誤字脱字のチェックをしているが、
やはり熱が上がってきているのだろう
冷や汗をかいている。
それでもなんとか投稿は完了した。
「ふぅ。疲れた。
今回は、なんかヤバいかも。寝よ。」
PCは開いたまま健太は横になった。
目を閉じて
物語をダイジェストのように思い出していた。
もう一度息を吐く。
そして軽く口角を上げて笑った。
「うん、満足」
ベッドの隣にある医療計器のアラートが
部屋に鳴り響く…
20秒もしないうちに
看護士たちが急いで部屋に入ってきた。
「森城さん大丈夫ですか!?」
その声は、もう健太には聞こえていなかった。
森城健太は18年という短い生涯を終えていた。




