第一章 六話 引き継いで
時は少し戻り東馬は一人格闘していた。
リーダーが狂気の元へ向かった。
俺も向かわなくては。
そう思い体に力を入れようとするが上手くいかない。体が寒い。心はこんなにも暑いというのに、とにかく仲間の元へ向かいたいという感情だけはあるのに、それを氷のように固まっている体が邪魔をする。
「クソッ!クソッ!!!動け!動けよ!うごけよ!」
リーダーだって殆ど満身創痍な筈だ。
今一番軽症なのは自分な筈だ。
それなのに自分は何をやっているんだ!
これ以上リーダーに無理をさせるつもりか!
いくら自らを奮い立てようとしても、それでもやはり動かない。
「クソッ...........俺も...リーダーのように.......」
体がボロボロになっても立ち上がり、仲間の元へと向かう。いつでもリーダーはそうだ。
俺もいつか、そんなリーダーのような存在になりたいと思っていた。
リーダーの日々に自分は感銘を受けていた。
自分はリーダーのように助ける存在になりたかった。
「お前には無理だ。」
心の中の弱い自分が俺に向かって語りかける。
俺はいつもそうだ。
結局のところ負けてるのは弱い自分だ。
でも今回は、今回こそは自分に負けて、諦めて、それで終わらせたくない。終わらせていいはずがねぇ!
「無理なんかじゃ、ねぇ!」
「いいや!お前には無理だ!今だって皆がボロボロになって戦っているというのに、お前はどうだ!お前はいつも!ただの!お荷物なんだよ!」
「確かに、俺はお荷物かもしれねぇ!それでも、それでも!俺は...俺は!仲間を助けたい!!!!」
俺は願った。俺は期待した。リーダーのように。
心が暖かくなってゆく。先程まで耳元で語りかけていた弱い自分が崩れていく。エンジンが入ったように、体の節々から力が湧き出てくる。
パキッ、パキッ
関節が動き始める。
心臓の躍動を感じる。
全身の筋肉が目覚めていくのを感じる。
体が黄色のオーラで包まれていく。
今なら使えるはずだ。自分にも。
「空間転異!!!!」
おそらくリーダーが向かったのも体育館だろう。
それに体育館にはなぜか転異しにくい....気がする。
これがいつもリーダーの言っていた空間転移の可能域というやつなのだろう。
とにかく、体育館に何かいるに違いない。
自分の体が体育館入り口付近へと文字通り飛ぶ。
体育館へと走る。
「なっ!」
狂気がリーダーに襲い掛かろうとしている。
しかしリーダーは抵抗する様子がない。
その近くに鈴、少し離れて平さんが倒れている。
最悪の状況にはまだなってないとはいえ、予想以上に酷い現況みたいだ。
「何諦めてんだリーダーァーーーーーーーー!!!」
抵抗する様子さえ見せないリーダーに対して自然とその言葉が出た。
リーダーの元へ走り出す。
間に合うかどうかはわからないが、そんなことはどうでもいい。
(仲間を連れて撤退するんだ。)
アイコンタクトでそうリーダーが伝えてきたのがわかる。
嫌だった。辛かった。自分も戦いたかった。
でも、自分を信頼しきったその目で、あとは託すと痛いくらいに伝わってくるその目で見られたら拒絶することはできなかった。
近くにいる鈴を回収し、平さんも回収する。
あとは空間転異で転異するだけだ。
クソッ!クソッ!クソッ!
自分の胸の中に溢れてくる暑い感情を堪える。
もう振り返らない。
振り返っちゃいけない。
振り返ってしまえば全て溢れてきてしまいそうだったから。
ゴギィイ
その音が意味することを想像することは造作もなかった。
「うあああああああああぁぁあああぁあ!!!!!!!!!!!!空間転..........え?」
転異しようとして違和感に気づく。
体がやけに軽いのだ。
人二人を担いでいるにしてはやけに軽い。
左には平さん、右には鈴を担いでいたはずだ。
だがその鈴がいない。
「まさか!?!!」
振り返る。先程はあれほどまで振り向くことを躊躇していた、見たくなった現状を確認するために。
狂気の腕が普通ならありえない方向へと折れている。
座り込んでいるリーダーの前に、刀を抜刀し逞しく立つ一人の少女がいた。
そりゃそうだ。リーダーに感化されて一番成長したのは鈴だ。俺が授かったんだ。ならば彼女だって同じで授かったはずだ。
希望という名のバトンを。期待する方法も。
そしてその力の使い方も。
「期待回帰・必中開放」
刀に黄色のオーラを濃く纏っている。
「す、鈴。そうか、君も。」
「はい。リーダー。」
鈴はリーダーに笑いかける。
「今度は、私たちがリーダーに期待させる番です。東馬はリーダーをお願いします。」
「おう。」
先程までの暑い思いは安堵へと変わる。
「リーダー。立てるか?」
そう言い手を差し出す。今度はこちらから。
「立派になったな。東馬。」
リーダーがその手を取る。
「ガガガガガガガガガ!!!!シブトイ、ヤツラダナァ!」
腕が折れているはずなのにも関わらず狂気は不気味な笑いを浮かべ続ける。
先程の私の攻撃。先程まで倒れていた私だからこそできた完全な不意打ち。それも刀による一撃。
それなのに切れていない。
「やはり一筋縄ではいきませんね。」
「ガガガガガガ。不可!」
期待が阻害されたのを感じる。
でも信頼は残っているのを感じる。
「阻害出来るのは一つだけみたいですね。」
「ガガ?キエナイ?ノウリョクガキエテナイ!ズルイ!」
混乱したように狂気が叫ぶ。
その声に耳を傾けることなく狂気に向かって走り出す。
「信頼回帰!」
刀を信頼し攻撃の準備は整った。
後数歩ほど踏み込めば間合いだ。
「ナラ、ソッチヲ不可ニヨッテキンシスル!」
再び刀への信頼が解除される。
信頼が阻害された。
「でもそれなら!必中の期待!」
制限されていた期待が再び火を灯す。
期待の使い方はリーダーの側でずっと見てきた。
刀に黄色のオーラが灯る。
いつの日かリーダーが言っていたことを思い出す。
「期待の能力の本質は辿り着くことだ。期待の能力の使い手はそこに至るまでの軌跡を描いて、導いているに過ぎない。そうすればあとは自然と期待がたどり着かせてくれる。あ、でも、負思とか相手にはやりにくいんだけどね。」
そう。リーダーは言っていた。軌跡を描くだけだと。
間合いまではあと一歩ほど。頭の中で自らが振り翳すであろう弧を描く。
そして間合いに入る。
抜刀していた刀を握る手に再び力を入れて、天に向かって振り上げる。
それは天から地へと真っ直ぐに振り下ろす一撃。
ただ真っ直ぐに、絶縁体である空気中を無理やり進む雷のように、速く、熱く、鮮明に!
「天雷!!!!!!!」
刀に纏っている期待による黄色いオーラと共に振り下ろす。
縦に、それはまるで三日月のように、刀は弧を描いた。
はずだった。
「く、ううぅぁあああぁあ!!!これでも、まだ足りないというのですか!」
刀は弧を描き切れなかった。狂気が残ったもう一方の腕でガードしてきた。もちろんガードしてきた腕ごと叩き切るつもりだった。だが途中で止められてしまった。文字通り刃が通らなかった。薄皮一枚ほど切ったところで刃が止まった。それはまるでカッターナイフでレンガを切るような感覚だった。
「ガガガガガガ!ガガガガ!!」
それを嘲笑うかのように狂気は発狂する。
おそらく圧倒的な密度の筋肉による物理的な護りなのだろう。
狂気の能力は阻害することで、自身の身体能力を向上させるようなものではなかったはずだ。
それなのにこの圧倒的なスペック。
「コレデモクラエ!」
狂気がその大きな拳を握りしめて殴りかかってくる。
モロに受ければ戦闘続行どころか、生死さえも怪しそうだ。受け流すか反撃するか、それとも躱わすか。
まず初めに受け流すという選択肢は消した。
全力で振り下ろした刀でさえ切れないほど硬く、巨体であるが故の質量。この二つが掛け合わされている時点で向かってくる戦車を刀一本で受け流すようなものだ。
ならば次点で反撃か躱わすか。
反撃するとしたら狂気の拳が振り下ろすのと同時に突きをくらわせ、そして隙が出来た瞬間にまた一撃をくらわせる。
躱わすとするならば期待による空間転為で後ろに引くだけでいい。
安牌をとるなら躱わすことを選ぶべきだろうが、それでは一向に決着がつかない。
それでも安牌を取らざるを得ない。流石に他の選択肢はリスクが高すぎます。狂気を倒せる算段がつくまでは逃げ腰で戦うしかない。
「空間転為!」
自分自身を後ろへと辿り着かせる。
その結果狂気の攻撃は空振りで終わる。
「チョコマカト、ニゲマワッテ!ソッチノノウリョクノホウガ、メンドスサイ!不可!!」
再び刀に纏わせていた黄色のオーラが消え、期待の能力が阻害される。
「エ、信頼回帰!!」
急いで刀に力を装填し直す。
しかしその間に先程の空間転為で開けたはずの距離を縮められていた。
「コンドコソ!」
そう言って狂気は折れていない方の手で発勁のような攻撃をしてくる。
期待が制限された今、もう空間転為は使えない。もう躱わすのが間に合わない。
強制的に受け流すか反撃するかの二択に迫られる。
「流星!!!」
咄嗟に反撃を選択する。
向かってくる大きな掌に突きを放つ。
しかし踏み込みが甘い。
その結果付け焼き刃の攻撃は弾かれてしまう。
刀は上へと弾かれてしまったことにより胴がガラ空きとなる。
「ガガガ!」
狂気が勝利を確信したように笑う。
掌が私の腹へと届く。
しまっ!
「させねぇ!」
東馬が蹴りを打ち狂気の攻撃を中断させようとする。
しかしそれを狂気は折れている方の腕を強引に動かしガードに使用する。
狂気による攻撃を止められなかった以上、直撃は避けられない。
死を、覚悟した。
「私をぉ、忘れてぇもらっちゃぁ、困るなぁ!楽園世界!」
攻撃のインパクト直前に平さんの防御能力が発動する。
今度は狂気の拳が弾かれ、数歩後退する。
「「平さん?!」」
思わず私と東馬の声が重なる。
「時間もぉ、ないのでぇ、手短に話すとするぅ。やつの能力についてぇ、お前たちのリーダーからのぉ考察がぁ、ある。一つはぁ、やつの能力の対象者はぁ、奴が攻撃対象としてぇ認識しているものだけだろぅ。そうすればぁ、気絶していた鈴や俺が今のように能力を使えたことにもぉ、辻褄があう。二つ目はもうわかってるかもしれないがぁ、奴が制限できるぅ能力は一人につき一つだけってことだぁ。わかってると思うからこちらの説明はぁ、はぶくぞぉ。そしてぇ、最後にあいつの異常なまでのぉ、防御力はぁ、圧倒的密度のぉ、筋肉量によるぅ肉体的な護りによるものだろぅ。
筋肉繊維がぁ、多過ぎて刀による攻撃も入りずらいだろぅ。だがぁ弱点もあるぅ。彼の護りが筋肉である以上ぉ、攻撃又は防御しようとしてからぁ、力むまでの若干のぉタイムラグが生じるはずだぁ。つまりは不意打ちにはぁ弱いはずだぁ。」
「要するに力むまでの時間を与えずに攻撃するか、相手の意識外から不意打ちするかの二択っていう事ですか?」
「そうだぁ。それとぉ、俺は能力を二つも持っていないしぃ、今ので攻撃対象としてぇ認識されてしまったはずだからぁ能力ももう使えないだろぅ。故に俺は戦線を離脱するぅ。あとは任せたぞぉ、期待を背負いし二人よぉ。」
「「はい!」」
「ガガガ!ナニヲシタトコロデ、ナニヲカンガエタトロコデ、ムダナダケダ!!!!不可!ヤツラノキタイヲセイゲンシロ!」
再び私の期待と東馬の期待が制限される。奴はよっぽど期待の能力が好ましくないらしい。
「信頼回帰!」
「夢の中の番犬!」
信頼回帰で武器の能力を最大限まで高める。
東馬は番犬となり黒い毛が体中から生え、獰猛な牙や爪が生成されたことによりまるで人狼のような姿となる。
おそらく私が最初に狂気の骨を折ることができたのは不意打ちであったことともう一つ、期待と信頼を掛け合わせた「期待回帰・必中開放」による攻撃だったからでしょう。だからどちらか片方の能力だけでは出力が足りない恐れがありますね。
「東馬。合わせてくれますか?」
「おう!」
私の額の汗が地に落ちる。
ダッ!
私は右から、東馬は左から回り込むように走り出す。
「サキニオオキイホウヲ、ツブス!」
狂気の意識は東馬の方へ移ったみたいだ。
ガンッ!
東馬の拳と狂気の拳がぶつかり合う。
「がっ!」
東馬が鈍い声をあげる。
番犬となった東馬でも力負けしてしまいますか。
すかさず援護に入る。
「背中がガラ空きですよ!」
無防備となっている狂気の背中に向けて薙ぎ払う。
切れるとは思っていない。意識を少しでも逸らせれば。
「ジャマダ。」
狂気が折れている手をムチのように使い振り払う。
「くっ!」
咄嗟に刀でガードするが衝撃は抑えられない。
数メートル横へ飛ばされてしまう。
「オラァ!!」
狂気が私に攻撃をするその隙をついてアッパーをくらわせようとする。
バンッ
「なっ!」
東馬のアッパーが狂気の顎に当たる直前で狂気は東馬の拳を掴む。
「離せ!」
掴まれていないもう一方の手で狂気の顔面を殴ろうとするが届く前に東馬の胴に狂気の蹴りが入った。
「ガハッ!」
東馬が倒れそうになる。
しかし狂気は攻撃を止めるそぶりを見せない。止めるどころか倒れた東馬を足で叩き潰そうとしているみたいだ。
「させません!」
狂気に向けてただ真っ直ぐに走り出す。
「流星!!!!!」
今度は付け焼き刃じゃない。しっかりと踏み込んで、走った分の加速度を加えた突き。
カンッ!!!!!
金属と金属がぶつかったときのような甲高い音が鳴った。
元々狂気は東馬を踏み潰そうとして片足を上げていた。そこに突きを放ったことにより狂気はバランスを崩し転倒する。切れないとはいえ衝撃は確実に与えられている。
狂気が倒れる間に距離をとる。
「ガガガガガガ!!!サッキカラ、オマエラ、ウザイ!ウザイ!ウザイ!!!!!!」
地に手をつき起き上がり、三度狂気が発狂する。
「すまん。助かった鈴。」
「いえ、お互い様です。それと、共霊戦技を使いましょう。」
「あのリーダーと鈴がよくやってたやつか。あれを俺たちで出来るのか?」
「出来ますよ。同じリーダーに感化されて、同じ期待を背負う私たちなら。」
東馬が一瞬目を見開き、笑って頷く。
「そうだな。」
再び狂気に向けて走る。今度は回り込まずに。正面から、技を叩き込むために。
「「共霊戦技!!極光!」」
私の突き技である流星を番犬となった東馬が後ろから外力を加えることでさらに加速させる。
「ソノカタナゴトショウメンカラ、タタキオッテクレル!」
私の極光に合わせて拳を叩き込もうとしている。
しかし狂気が拳を繰り出す前に私の攻撃が届いた。
ザシュッ!
奴の胸元に刃が食い込む。
だが未だ浅い。
「うああああぁぁあああ!!!!」
更に刃を奥へと押し進めようとするがうまくいかない。
ガシッ
狂気が自分に刺さっている私の刀を掴む。
徐々に刺さっていた刀が押し戻される。
「ガガ!ソノノウリョク!ウザイ!ウザイ!ウザイ!モウソッチヲ、セイゲンスル!不可!!!」
私の刀に付与されていた信頼を解除される。
東馬が番犬から人へと戻る。
刀への信頼が切れたことにより更に刀が押し戻される。
共霊戦技も二度は通じないだろう。
まさに絶体絶命。
「でも!」
「ああ!」東馬が頷く。
狂気が私たち本来の能力に対して不可を使う時。つまり私たちが期待の能力を使えるようになるこの瞬間を待っていた。
それはいつもリーダーが切り札として使っていた諸刃の剣。
「「熱望!!!!」」
私と東馬の体が炎で包まれる。
刀を私と東馬で押し込む。
熱い。体中の血管に至るまでが悲鳴をあげているのを感じる。
長くは持たない。でも、
これをリーダーはずっと背負ってきたのですね。
やっとリーダーと同じものを背負えたことが少し誇らしい。
押し戻されていた刀がまた狂気の胸元へと届く。
「ガガ!バカナ!バカナ!コンナコト!アッテイイハズガナイ!オレハ、ツヨイ!カタナナンカキカナイハズナンダ!!!!」
「うああああああぁぁぁああぁあああ!!!!!」
「うおおおおおぉおおぉぉぉおおおお!!!!!」
熱望を背負う二人がついに狂気を追い詰める。
ザシュッッッ!!!
「ガガ..........ゴフッ」
狂気の口から血が溢れでる。
ドサッ
そしてそのまま狂気は倒れた。
そして私たちはリーダーが初めて熱望を使ったときのように意識を失った。




