第一話 始まりは転落とともに
愛しい俺の勇者。
彼女は俺のものではないけど、幼き頃からともにあった彼女を支えられるだけでよかった。
彼女が魔王を倒す旅に出たいと行ったから、回復が苦手と行ったから俺は神官になった。
だけど彼女、メアリは…魔物となってしまった。
「ラッカ、気分は…いいわけないですよネ。
異端審問にかけられた後なのですかラ」
恩師のフレリア先生だ。俺が神官学校の学生だった頃に、金のない俺を気遣ってよく支えてくれた。
だから再会が牢屋の外と中というのは居た堪れないものがある。
「フレリア先生……俺を破門してください。罪状は本当なんです。俺は魔物を庇った。神官でいる資格などありません」
俺は鉄格子を掴み、必死に訴える。
処刑でも破門でもいい。俺は神官としてありえないことをした。
でも、魔物になってしまったメアリを意図もたやすく切り捨てた神殿が憎い。
それが正しくてももう俺には神殿に膝を折ることなどできない。
「無理ですヨ。貴方も分かっているでしょウ。魔物の逃亡を手引きし、異端審問に掛けられた貴方をその拷問から救ったのは女神様なのだかラ」
フレリア先生は俺の四肢を拘束する鎖を外していく。鉄で作られた拘束具の跡はくっきり残っていたが、それすらもフレリア先生は治療してくれた。
「女神の温情なのは分かっています。でももう嫌なのです。王国のためにあんなに頑張ったメアリを切り捨てた神殿に仕えるなど」
俺はイヤイヤ首を振るが、フレリア先生は哀れな子を見るような目をするだけ。
俺を支えて立たせる。
「首輪だけはさせてもらいますネ。罪は罪なので。
参りましょウ。司祭さま」
罪人が司祭への昇進。
あの女神は何を考えているのか。
俺にはわからなかった。
フレリアは俺を牢屋から出し、大司祭の部屋に魔法で移動する。
「…なんですか、この仕事の山」
「明日から貴方の仕事でス」
「俺は神殿を裏切った身です。悪用するとは考えないのですか」
「その首輪がある限り、貴方は神殿から出れませんし、勝手な行動も出来ませン。私も補佐しましょウ」
「罪人の補佐なんてフレリア先生も落ちたものですね」
俺が皮肉を込めて言うとフレリア先生は笑う。そして俺の首を締め上げた。
「がはッ…」
「勘違いしないでくださいネ。貴方は今は罪人です。私も女神様を裏切った者など粛清したイ。しかし、女神様がお許しになっタ。ならば貴方をもう一度正しき神官に導きまス」
首を絞め上げる力が緩む。支えを失った俺の体はフレリア先生の元へ倒れ込む。
「大丈夫です、ラッカ。直に貴方は女神様のことしか考えられなくなル」
それは何も大丈夫ではない!
「体の傷は癒せても疲労は取れないと思うので、貴方を寝室まで運びます」
フレリア先生はその細腕で俺を軽々しく持ち上げる。ルビー色の瞳は細められ、かつてフレリア先生に教えを請うていた時の表情と重なる。
俺はそれまでメアリみたいにつよい女性を知らなかったから、一生徒として俺を守ってくれるフレリア先生を尊敬していた。
「懐かしいですネ。ラッカがよく魔力ぎれを起こした時に私が保健室まで運んであげましたっケ」
「けほ、オレなんか単なる生徒の一人でしかないでしょうに、よく覚えていますね」
「神官学校に捻出するお金に苦戦していた生徒には手を伸ばすことにしてますかラ」
確かによくお世話になったものだ。
その結果がこれだが。
先生が俺をベッドに降ろす。
今まで触ったことのないほどベッドがふかふかだ。
眠気が襲ってくる。
でも、聞かなくちゃ。
俺のもう一人の友であり、メアリともうすぐ恋仲になれるはずだった男の安否を。
俺と共にメアリを庇ったあいつは無事だろうか。
「フレリア先生、…ウィンディは無事ですか?」
「君はちゃんと庇えてましたヨ」
それは無事という意味だろうか。
ダメだ、眠い。
もうーーーーーー。




