プロローグ
魑魅魍魎、アヤカシ、魔物が跋扈する混沌とした世界。
人々は命懸けの生活を強いられていた。
ひとたび《彼等》に襲い掛かられれば、か弱い[ヒト]に抵抗する術など存在しない。
子を食い殺された母親。
恋人を失った男。
様々な悲しみ、怒り、無力さが積み重なった、ヒトの心は、宙を漂う不可思議なモノを惹き付けた。
《彼等》は不可思議なモノを拒み、避け、目障りな不可思議なモノを襲った。
不可思議なモノの力だけでは《彼等》に対抗し切れなくなり、そして、地に蔓延る《彼等》から脅え、逃げたその先でヒトは見つけた。
《彼等》に対抗しうる【力】。
不可思議なモノと同じく、ヒトの身にはあまりにも強大な力。
遥か昔に滅びた魔術の源が、そこにはあった。
厳重に封印された大樹の、その太い幹に水晶が埋まり、その大樹を中心に造られたささやかな神殿と、それを隠すように巧妙に存在する深く鬱蒼とした広大な森。
《彼等》はそこから溢れる【力】にだけは勝てず、永い時をかけてヒトはほんの少しだけその【力】を使えるようになった。
それは滅びた魔術と同じだと言っても差し障りのないものだった。
人は魔術を手にしたことで、ようやく安息を得たのだ。
無論、《彼等》の被害がなくなりはしなかったが、それでも脅え逃げる暮らしから解放されたことで暮らしは安定し、瞬く間に人は社会を構築して発展していった。
これは遥か数千年も昔の世界の話。
これから私が語るは千年ほど昔の、新たな世界の契機となった少女が紡いだ一つの記憶。
私は、その少女の子孫が語り継いだ記憶をそのまま君たちにお話ししよう。
少女が精一杯生きた証を聴いておくれ。




