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その血は人を狂わせる。  作者: ありま氷炎
第四章 アステライゼ
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その血は人を狂わせた。

 

 チャーリーが殺され、指揮官を失ったカルシア王国軍は一気に総崩れした。

 マカリオ達は一気に彼らを外に押し出す。逃走するものばかりであったので、容易なことであった。

 残党兵は捕虜として捕らえた。


「レイアを私に預けてくれるか?」

「マリーナ、いえ、マカリオ殿下。やはりそちらが素でしたか」

「まあ、どっちでも。今は私は王太子としてやることをしなければならないから。それで返事はどうかな」


 反カルシア軍は深追いすることはなかった。

 王国軍を街の外に追いやった後、街の中の治安維持を優先した。残党兵を捕獲し、安全を確保する。

 その過程で、マカリオはテイラーに聞いたのだ。


「私は預けてもいいと思ってますよ。ただ、アーロンにも聞かなければ」


 チャーリーを殺された後、レイアは我慢できず、その場所へに駆け寄った。

 セオはただ彼女の後を追った。

 血に濡れた首を抱えて、彼女はただ泣いていた。

 声を押さえて。

 アーロンもリアムをその場でレイアを殺そうとはしなかった。

 マカリオがテイラーと共に駆け付けた時、見たのはその光景だった。

 チャーリーの首を渡すように言われ、拒否を続けた。

 そのままにしているわけにもいかず、チャーリーの首を抱えたレイアを部屋に閉じ込めている。

 同室しているのはセオだ。


「アーロン。私はアステライゼの王太子のマカリオと申します。この度はご協力ありがとうございました。あなた方の利益にもなる計画があるのですが、よろしいでしょうか?」


 マカリオはそう言って、彼に計画を話し始めた。

 チャーリー殺害をカルシア王国の宰相の仕業にし、王の仇をということでレイアを旗頭にカルシアの王都を攻める。レイアはチャーリーの娘であり、不死身の兵士を眠らせることができる不思議な力を宿していると噂されている。

 カルシア王国の兵士の大半は彼女に従い、カルシアの王都を簡単に攻め落とせるだろうと。

 そこで宰相に毒薬の場所を聞き出し、毒薬のすべてを処分。

 レイアには前国王の孫に王位を返還してもらう。

 罪はすべて宰相にあるとし、アーロンたちを表舞台に出させない。

 マカリオに事情は話していない。

 しかし、彼は彼らが特別な一族であることは察していた。


 アーロン、リアム、テイラー、エディはこの案に賛成した。

 冷静を取り戻したレイアに話すと、賛成し全面協力を約束した。ただしチャーリーの遺体の正式な埋葬を条件として出された。

 宰相にすべての罪を着せることにしたマカリオは合意し、チャーリーの故郷であり、イザベラが眠るザッハルト領に遺体を埋葬する手配を整えた。

 チャーリーが殺されたことはマカリオが正式発表するよりも、各地へ広がっていき、カルシア王国に反旗を翻す領地が後は絶たなかった。クルスナラハもそうで、アルテライゼに派遣した兵士が戻らないうちに、王都へ兵士を派遣した。

 レイアが亡き王チャーリーの弔い戦と旗を掲げ、マカリオ達と共に、王都に到着した時には酷い有様だった。

 そんなこともあり、チャーリー王の娘であるレイアは民に受けいられた。

 混乱した宰相側が毒薬を乱発し、不死身の兵士が暴れ回っているのをレイアが眠らせ、鎮めたことも、民の信頼を得る事になった。

 マカリオに、クルスナラハや他の領地の説得は任せた。

 レイアが一時的にカルシア王国の女王になるが、その後は本来の王族に王位を譲ること。

 国の形はチャーリー統治の前に戻ること。

 

 レイアの優しい問いかけに答えるように、眠るように力を失って倒れる不死身の兵士たち。

 友人であったもの、恋人であったものが穏やかに死にゆく姿に、涙するものを多く、レイアを女神とたたえるものをいて、マカリオの話は他の領地に受け入れられた。

 他の領地の兵は撤退した後、宰相を締め上げ、毒薬の在処をすべて吐かせた。

 毒薬をすべて処分した後に、レイアはカルシア王国の女王になった。

 その傍にはセオが護衛兵士として全身鎧を身に着けて控える。

 セオは見た目がまだ少年のため、女王の側に立っているのが不自然であったからだ。


 半年後、王都が落ち着きを取り始めて、レイアは正式な国王の血筋の者に王位を譲渡することを発表。領地の返還もゆっくり進んでおり、新しい王が立ち半年ほどで、タリアナ大陸は元の勢力図に戻った。

 ただし、ザッハル領地はカルシア王国から離れ、独立した。

 領主はレイアである。

 父を母の側に埋葬し、彼女の仕事はすべて終わりを迎えた。

 心は凪いでいて、レイアは森の民の到着を待っていた。

 この一年で、男らしくなったセオはもう全身鎧を付けなくても立派な護衛騎士に見えるように見違えた。

 レイア自身も少年のようであったが、一年を経て、少女らしく丸みを帯びた体つきをしていた。


「レイア。俺は君を絶対に殺させないから」

「……いいのよ。セオ」


 本来なら、父と一緒に殺されるべきであったとレイアはわかっていた。

 また毒薬をすべて処理したときに。

 しかしあれから一年、彼女は女王となり、今は領主である。

 もう十分だと思っていた。


「おっひさ!」


 やってきたのはリアムだけだった。


「え、一人?」

「うん。だって来る必要ないでしょ?」

「そんな簡単に」

「簡単だよ。森の民は君を許した。だから、君はこのままこちらで暮らせばいいよ」

「へ?」

「は?」

「エディもテイラーもアステライゼに残ったままで、とりあえず監視もいるから、このままってことになったの。セオもいるし」


 リアムが軽やかに語る話に、二人はついて行けない。

 レイアは死を覚悟していて、セオは抗う気だった。


「俺たちもいつまでも森の中にいるわけにいかないんだよ。テイラーが残ったマルクの資料を見て、俺たちの血の研究をしている。チャーリーのような奴が増えれば、俺たちの血も脅威じゃないでしょ?」


 チャーリーと名を出され、一瞬だけレイアが動揺した。

 しかしその後二コリと笑った。


「そうですね。研究を進めてください」

 

 レイアは大役をこなして、すっかり領主としても風格が出てきていた。


「じゃあ、そういうことで。まあ、俺、たまに遊びにくるから。よろしくね」


 リアムは手を振ると、いなくなってしまった。

 二人は森の中の、チャーリーとイザベラの墓地近くに二人っきりで残されてしまう。


「よかったな」

「うん」


 殺されないこと。

 その事実を二人で噛みしめ微笑み合う。


「それでは、屋敷に戻りましょうか。レイア様」

「もう、様は二人の時は言わないでっていったでしょ」

「ははは。そうだな」


 手を取り合い、二人はゆっくりと屋敷へ戻っていく。


 森の民の血はまだ、外の人間にとっては毒のままだ。

 けれども、研究が進めば、それは毒ではなくなるかもしれない。

 

 そんな希望を胸に、二人は青空の下、森の中を歩いた。

 

(終)

 


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