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その血は人を狂わせる。  作者: ありま氷炎
第四章 アステライゼ
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王族らしさ


「王チャーリーは王都には戻らず、そのまま進軍してくるはずよ」

「王都で兵を補充する可能性はないのでしょうか?」


 マリーナが断言するので、テイラーは疑問の声を上げる。


「ないわ。王都の守りを固めるはずよ。王不在で、王都が占領されたら元も子もないじゃない。まあ、それだけじゃないと思うけど」

「どういう意味ですか?」


 質問しているのはテイラーのみ。

 他の幹部は大人しく話を聞いている。

 反カルシア軍の幹部は元を辿れば、全員がアステライゼ王国において、要職についていた者たちだ。もしくはその子だ。

 なので、王太子であるマリーナに対して忠誠心を持っており、彼を信頼していた。

 

「宰相は、野心深いわ。チャーリー王の右腕だったマルクも行方不明みたいじゃない。この機に、チャーリー、そして王女が死ねば彼がカルシア王国を乗っ取れる」

「彼は王族じゃないのに?」

「王族?王チャーリーもそうではないでしょう?前国王を処刑し、乗っ取っただけじゃない」


 マリーナは冷えついた表情を語る。

 

「また何かでっち上げて、宰相は王に成り代わるつもりよ」

「そんなことは可能なのでしょうか?」

「力がすべてよ。おそらく、彼も不死身の兵士の毒薬を持っているのでしょう。あれがあれば最強の軍隊が作れる。王都にないわけがないわ」


 テイラーは内心舌打ちをしたかった。

 やはりレイアを浚う時に毒薬も片付けるべきだたったと。

 あの時、チャーリー、マルク、レイア、毒薬をすべて片付けることができていたら、今頃問題は片付いていた。


「挟み撃ちされるのだけは避けたいわね。まず駐屯兵を片付けたようかしら」

 

 今までしてこなかったことを、マリーナはいとも簡単に告げる。


「テイラー。手伝ってもらえるかしら。目的は一緒でしょ?」

「仕方ないですね。ここで私たちもすべてに片を付けたいので、協力しましょう」

「厄介なのは不死身の兵士。これを王女様にどうにかしてもらえる?」

「頼んでみましょう。協力してくれるはずです」

「よかったわ。それでは、普通の兵士は一緒に片付けましょう。準備運動にはちょうどいいでしょう?」

「随分余裕な発言ですね。今まで苦戦していらっしゃったのに」


 テイラーが嫌味で返すと、マリーナより先に他の者が不満そうに立ち上がった。

 しかし、それをマリーナが制する。


「今までは不死身の兵士を警戒していたの。何度か試みたけど、仲間を不死身の兵士にされてしまっては戦意もなくなり、戦況は逆転。今回は王女様がいるから大丈夫でしょう?」

「そうですね。できればその前に止めることができればいいですけど」

「私もそう願っているわ。まず関係ない市民を街の外に避難させましょう。それから、一気に叩くわ。チャーリー王がここに到着するまでに終わらるのよ。彼らがきたら、籠城作戦を取るわ。駐屯兵がいなくなれば可能だもの」


 作戦の方向性は決まり、市民の誘導の仕方、駐屯兵への対応が話し合われる。

 そうして、作戦は数時間後に決行されることになった。


「さあ、はじめましょう」

「その前に、セオたちに会うことはできますか?状況を説明します」

「そうね。それが大事だわ。私も同席させてもらうわね」



「テイラー!」 


 扉を開けて入ってきたのはテイラーで、セオは非難の意味を込めて名を呼ぶ。

 その後に続いて部屋にはいったマリーナを反射的に睨んでしまった。

 レイアには反抗の意志はない。セオがこうして閉じ込められるのが悔しかったから、子供みたいに怒りを露わにしているだけだった。

 しかしセオ自身もその理由は頭では理解できていた。


「何か足りないものはありますか?」

「自由」

「レイア、あなたは何か必要なものはないですか?」

 

 セオの答えを無視して、テイラーはレイアに話しかける。


「ありません。ありがとうございます」

「ありがとうなんて、言う必要はないよ。レイア」

「こどもっぽいわね。そんなことで、王女様を守れるの?」

「うるさい。女男」


 セオは会話に入ってきたマリーナに噛みつく。


「酷いわ。女男なんて。女って呼んでね」


 マリーナは気にすることもなく、片目を瞑って見せた。

 セオは驚いて口をあんぐり開けてしまった。


「マリーナ。そのへんで。セオはまだまだ可愛い年頃ですので」

「テイラー、どういう意味だよ!」

「レイア。あなたの力が必要です。今いる駐屯兵のもつ毒薬で不死身の兵士が出現した際に、鎮めてほしいのです」

 

 テイラーは騒ぐセオを無視して、レイアに問う。


「勿論です。それが私の目的ですから」

「ありがとうございます。それともう一つ、あなたの父チャーリーがアステライゼに来ます。多くの兵を連れ、あなたを連れ戻すため」


 セオとマリーナに構わず会話は進められる。セオはいい気分ではなかったが、話された内容を聞いて押し黙った。

 

「お父様が……」

 

 レイアはそう呟いた後、黙りこくる。

 それから決心したように顔を上げる。

 テイラーそしてマリーナの顔を見つめる。


「お父様に会う事はできますか?」

「できないわ」


 マリーナが誰よりも先に答えた。


「もし会いたいというなら、アステライゼの王族の末裔として、私があなたを殺すわ」

「は?王族?」


 セオが驚き、マリーナの顔をまじまじと見つめる。


「……私は逃亡したいと思っているわけではありません。ただ、あの毒薬のありかをお父様から聞き出したいのです」

「そういうこと。だけどだめだわ。王チャーリーに上手いこと利用されるだけよ。私は反対よ」

「マリーナがそう言うのであれば、不可能です。諦めてください。レイア。あなたにはわかるはずです」

「ええ」

「その言い方なんだよ。テイラー」

「セオ、いいのよ。うん」


 マリーナが王族という衝撃から立ち直り、テイラーに噛みつこうとしてセオをレイアが止める。


「物分かりが良くて助かるわ。あなたの出番がきたら呼びにくるわね。その代わり、あなたの欲しいものをできるだけ入手するわ。何が欲しいの?」

「あ、あの揚げドーナツをください」

「揚げドーナツ?子供のおか、そうね。子供だったわ。わかったわ。そこの坊やもいる?」

「坊やってなんだよ。俺の名はセオだよ」

「セオね。頑張って王女様を守ってあげなさい」

「言われなくてもわかってるよ」

「そう。ならいいわ。さて、テイラー、もういいかしら?」

「はい。セオ、自分の立場をくれぐれも忘れないようにしてくださいね」

「わかってるよ」


 テイラーはセオに釘を刺すと、マリーナと一緒に部屋を出ていく。

 扉が音を立ててしまり、カギを掛けられた音がした。


「レイア。大丈夫か?」

「うん。大丈夫。お父様には会えないのね」

「うん。レイアには悪いけど、それはできない」

「……すべての薬の保管場所がわかればいいのに」


 レイアもセオたちが心配する理由を理解していた。今のレイアの立場はマリーナたちからしたら敵側だ。だからこうして部屋に閉じ込められている。

 城を出るまで、レイアの世界は父チャーリーと大叔父マルクだけの世界だ。なので情はある。特にチャーリーは父親だ。

 だけど、彼らがしてきたことは許せなく、おぞましいことだった。

 

「それにしても、あの女男が王族なんて、信じれないぜ」


 深刻な表情をしているレイアを励まそうと、セオは別の話題を振る。


「そう?私だって『王女』よ。信じれないでしょ?」

「信じられるよ。レイアは王女だって」

「だって、セオは私がお城に閉じ込めれている時を知っているから」

「そうじゃなくてもレイアは王女っぽいよ」

「そう?」

 

 王女っぽいの定義がわからず、レイアは首を傾げる。

 こんな時ではないのに、セオはそれを見て、やっぱり可愛いと思って頬を赤らめた。




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