王族らしさ
「王チャーリーは王都には戻らず、そのまま進軍してくるはずよ」
「王都で兵を補充する可能性はないのでしょうか?」
マリーナが断言するので、テイラーは疑問の声を上げる。
「ないわ。王都の守りを固めるはずよ。王不在で、王都が占領されたら元も子もないじゃない。まあ、それだけじゃないと思うけど」
「どういう意味ですか?」
質問しているのはテイラーのみ。
他の幹部は大人しく話を聞いている。
反カルシア軍の幹部は元を辿れば、全員がアステライゼ王国において、要職についていた者たちだ。もしくはその子だ。
なので、王太子であるマリーナに対して忠誠心を持っており、彼を信頼していた。
「宰相は、野心深いわ。チャーリー王の右腕だったマルクも行方不明みたいじゃない。この機に、チャーリー、そして王女が死ねば彼がカルシア王国を乗っ取れる」
「彼は王族じゃないのに?」
「王族?王チャーリーもそうではないでしょう?前国王を処刑し、乗っ取っただけじゃない」
マリーナは冷えついた表情を語る。
「また何かでっち上げて、宰相は王に成り代わるつもりよ」
「そんなことは可能なのでしょうか?」
「力がすべてよ。おそらく、彼も不死身の兵士の毒薬を持っているのでしょう。あれがあれば最強の軍隊が作れる。王都にないわけがないわ」
テイラーは内心舌打ちをしたかった。
やはりレイアを浚う時に毒薬も片付けるべきだたったと。
あの時、チャーリー、マルク、レイア、毒薬をすべて片付けることができていたら、今頃問題は片付いていた。
「挟み撃ちされるのだけは避けたいわね。まず駐屯兵を片付けたようかしら」
今までしてこなかったことを、マリーナはいとも簡単に告げる。
「テイラー。手伝ってもらえるかしら。目的は一緒でしょ?」
「仕方ないですね。ここで私たちもすべてに片を付けたいので、協力しましょう」
「厄介なのは不死身の兵士。これを王女様にどうにかしてもらえる?」
「頼んでみましょう。協力してくれるはずです」
「よかったわ。それでは、普通の兵士は一緒に片付けましょう。準備運動にはちょうどいいでしょう?」
「随分余裕な発言ですね。今まで苦戦していらっしゃったのに」
テイラーが嫌味で返すと、マリーナより先に他の者が不満そうに立ち上がった。
しかし、それをマリーナが制する。
「今までは不死身の兵士を警戒していたの。何度か試みたけど、仲間を不死身の兵士にされてしまっては戦意もなくなり、戦況は逆転。今回は王女様がいるから大丈夫でしょう?」
「そうですね。できればその前に止めることができればいいですけど」
「私もそう願っているわ。まず関係ない市民を街の外に避難させましょう。それから、一気に叩くわ。チャーリー王がここに到着するまでに終わらるのよ。彼らがきたら、籠城作戦を取るわ。駐屯兵がいなくなれば可能だもの」
作戦の方向性は決まり、市民の誘導の仕方、駐屯兵への対応が話し合われる。
そうして、作戦は数時間後に決行されることになった。
「さあ、はじめましょう」
「その前に、セオたちに会うことはできますか?状況を説明します」
「そうね。それが大事だわ。私も同席させてもらうわね」
★
「テイラー!」
扉を開けて入ってきたのはテイラーで、セオは非難の意味を込めて名を呼ぶ。
その後に続いて部屋にはいったマリーナを反射的に睨んでしまった。
レイアには反抗の意志はない。セオがこうして閉じ込められるのが悔しかったから、子供みたいに怒りを露わにしているだけだった。
しかしセオ自身もその理由は頭では理解できていた。
「何か足りないものはありますか?」
「自由」
「レイア、あなたは何か必要なものはないですか?」
セオの答えを無視して、テイラーはレイアに話しかける。
「ありません。ありがとうございます」
「ありがとうなんて、言う必要はないよ。レイア」
「こどもっぽいわね。そんなことで、王女様を守れるの?」
「うるさい。女男」
セオは会話に入ってきたマリーナに噛みつく。
「酷いわ。女男なんて。女って呼んでね」
マリーナは気にすることもなく、片目を瞑って見せた。
セオは驚いて口をあんぐり開けてしまった。
「マリーナ。そのへんで。セオはまだまだ可愛い年頃ですので」
「テイラー、どういう意味だよ!」
「レイア。あなたの力が必要です。今いる駐屯兵のもつ毒薬で不死身の兵士が出現した際に、鎮めてほしいのです」
テイラーは騒ぐセオを無視して、レイアに問う。
「勿論です。それが私の目的ですから」
「ありがとうございます。それともう一つ、あなたの父チャーリーがアステライゼに来ます。多くの兵を連れ、あなたを連れ戻すため」
セオとマリーナに構わず会話は進められる。セオはいい気分ではなかったが、話された内容を聞いて押し黙った。
「お父様が……」
レイアはそう呟いた後、黙りこくる。
それから決心したように顔を上げる。
テイラーそしてマリーナの顔を見つめる。
「お父様に会う事はできますか?」
「できないわ」
マリーナが誰よりも先に答えた。
「もし会いたいというなら、アステライゼの王族の末裔として、私があなたを殺すわ」
「は?王族?」
セオが驚き、マリーナの顔をまじまじと見つめる。
「……私は逃亡したいと思っているわけではありません。ただ、あの毒薬のありかをお父様から聞き出したいのです」
「そういうこと。だけどだめだわ。王チャーリーに上手いこと利用されるだけよ。私は反対よ」
「マリーナがそう言うのであれば、不可能です。諦めてください。レイア。あなたにはわかるはずです」
「ええ」
「その言い方なんだよ。テイラー」
「セオ、いいのよ。うん」
マリーナが王族という衝撃から立ち直り、テイラーに噛みつこうとしてセオをレイアが止める。
「物分かりが良くて助かるわ。あなたの出番がきたら呼びにくるわね。その代わり、あなたの欲しいものをできるだけ入手するわ。何が欲しいの?」
「あ、あの揚げドーナツをください」
「揚げドーナツ?子供のおか、そうね。子供だったわ。わかったわ。そこの坊やもいる?」
「坊やってなんだよ。俺の名はセオだよ」
「セオね。頑張って王女様を守ってあげなさい」
「言われなくてもわかってるよ」
「そう。ならいいわ。さて、テイラー、もういいかしら?」
「はい。セオ、自分の立場をくれぐれも忘れないようにしてくださいね」
「わかってるよ」
テイラーはセオに釘を刺すと、マリーナと一緒に部屋を出ていく。
扉が音を立ててしまり、カギを掛けられた音がした。
「レイア。大丈夫か?」
「うん。大丈夫。お父様には会えないのね」
「うん。レイアには悪いけど、それはできない」
「……すべての薬の保管場所がわかればいいのに」
レイアもセオたちが心配する理由を理解していた。今のレイアの立場はマリーナたちからしたら敵側だ。だからこうして部屋に閉じ込められている。
城を出るまで、レイアの世界は父チャーリーと大叔父マルクだけの世界だ。なので情はある。特にチャーリーは父親だ。
だけど、彼らがしてきたことは許せなく、おぞましいことだった。
「それにしても、あの女男が王族なんて、信じれないぜ」
深刻な表情をしているレイアを励まそうと、セオは別の話題を振る。
「そう?私だって『王女』よ。信じれないでしょ?」
「信じられるよ。レイアは王女だって」
「だって、セオは私がお城に閉じ込めれている時を知っているから」
「そうじゃなくてもレイアは王女っぽいよ」
「そう?」
王女っぽいの定義がわからず、レイアは首を傾げる。
こんな時ではないのに、セオはそれを見て、やっぱり可愛いと思って頬を赤らめた。




