164話 魔境に潜む怪人
「大丈夫だったか。少年少女たちよっ」
「あ、ああ。あんたは一体……」
いきなり終了した戦闘に、気を削がれたようなAランクパーティ達。
だが、会話をするわけにもいかないのだよ。こっちはあくまで正体不明のヒーローでなくてはならないのだ。
「君たちには、この敵はまだ早い。精進したまえ」
ティラノザウルスの死体を石壁で囲う。そして、その石壁が消え去ると、死体もまた消えている。
単に目隠しをした後に、石化収納をしただけである。
「では、諸君。また来週っ」
土遁アースハイドで姿を隠す。
これで、俺の仕事は終わりだ。
残されたのはAランクパーティ『紅蓮の暁』。
「どうする、リーダー?」
「まあ、仕方ねえ。一度戻ろうぜ」
Aランクパーティは回復術での治療を済ませ、探索拠点となっている安全地帯へと帰っていった。
その姿は、敗残兵のような侘しさを纏う。今回の探索で得られた成果は無く、自分達の力不足を痛感したことだろう。
だが、それが良い。
いつでも面倒を見られるわけではないのだ。もっと実直な強さを身に付けてもらわないとね。
最初から、自分で探索をやれって?
面倒なんだってば。隅から隅まで確認して魔物退治とか、やりたくない。
こういうのは人海戦術だよ。
そして、冒険者ギルドで駄弁る日々が戻る。
「旦那、『紅蓮の暁』から報告が上がってるよ」
「へえ、なんて?」
かっこ良いヒーローへの感謝とかかな?
「北の方で怪人蟲男を発見。危険度はAランクを越える、だとさ」
え……?
怪人ちゃうよ? 逆、逆ぅ。
「言葉らしきものを発するものの、会話が可能かは不明。週に一度出現する可能性あり。何のことかね、これは」
いや、……そこは、仕方ない感じかなぁ。
「『紅蓮の暁』はティラノザウルスを一匹退治したが、怪人蟲男に成果を奪われたので、ギルドに補てんを要請したい、だそうだ」
あいつらぁぁぁ。
「なあ、もうギルド除籍でいいんじゃないかな。せめてランク落とすとか」
いくらなんでも、嘘の報告は駄目だろ。しかも金寄越せって……。
「ちゃんとした根拠もなく、そんなこと出来るわけ無いだろ。まあ、Aランク依頼を達成する実績が無いなら、そう言う判断も必要かねえ」
「メンバーの人格とかも査定した方が良いと思うぞ」
「まあ、それはそうなんだけど。面接したって猫被られるだけだろうしね。普段の言動とかもファイルに残すくらいかねえ」
そうそう。横綱になるには、強さだけではなく人格も求められるのだよ。
Aランクと言えば、相撲なら横綱、ラノベ作家ならアニメ化経験者くらいなものだろう。
過去の言動で簡単に炎上するんだぞ。
「せっかくだし、仮面ボルダーに初心者パーティも襲ってもらって、役割分担の大事さを教えるというのはどうかしら?」
「嫌だよ。仮面ボルダーは正義のヒーローだぞ」
なに言い出すんだよ、このお猫様は。
「いや、この際その辺はいいじゃねえか。デザイン変えるとかできるだろ」
できるけど……やりたくないことってあるんだ。
「だいたい、相手の方が俺より強かったらどうするんだよ」
「どうとでもするだろ、旦那なら……」
うーん……。
ポク、ポク、ポク、ポク、ピーン。
「要するに、安全に力不足を経験できれば良いわけだよな」
「よしっ。さすが旦那だ。そうこなくっちゃな」
「ええ。今、歴史に残る高僧のようだったわよ」
お前らは凄腕剣士とワガママ将軍の様だよ。




