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永遠のスパルタ教育

完結です。

 三年前から毎年、俺は百合奈を夏祭りに誘う。

 かつてはこの場所で彼女を転ばせ、人混みに怯えていた俺も、今はこうして隣を歩く彼女の歩幅に合わせて余裕を装うことくらいはできるようになった。

「颯くん、見て! あのかき氷、虹色だよ! 可愛いし、大きい!」

「本当だ、すごいね。……食べたい?」

「うん!」

 人混みの中、弾んだ声とともに俺の手がぐいっと引っ張られる。その無防備な明るさに当てられて、俺は繋いでいた指を離さないよう、さらに深く絡めた。

「百合奈、はぐれるなよ。」


 俺は工学部、百合奈は経済学部。

 大学のキャンパスは広く、学生の数も高校とは桁違いだ。百合奈はテニスサークルに入って毎日楽しそうだが、正直、俺は気が気じゃない。サークルの飲み会はないか、チャラそうな先輩に言い寄られていないか……。考えだすと、講義の内容なんてこれっぽっちも頭に入らなくなる。


「子供じゃないんだから、はぐれないよ。ね?」

 いたずらっぽく覗き込んできた百合奈の唇には、大人びた色のグロスが艶やかに塗られている。……卑怯なほど、可愛い。

「祭りは危ないんだ。変な男も多いし……そんなに可愛い格好して、お前、自覚なさすぎなんだよ。」

「ふふっ。今日の格好、可愛い?」

 百合奈は浴衣の袖を指先でつまみ、ひらひらとさせて俺を誘う。

「……かなり。……正直、誰にも見せたくない。」

「ほら、これだってちゃんと付けてるよ?」

 浴衣の合わせ目から覗いたのは、白い花のネックレス。高校一年の終わりに俺が贈ったそれを、彼女は今日も大切に身につけてくれている。

「それを付けてくれる日は、……『特訓』の日、だっけ?」

「えぇっ!? そんなこと言ってないよ! 颯くんの意地悪!」



 俺たちは虹色のかき氷を手に、人混みを避けて静かな土手に腰を下ろした。

 ドーンという腹に響く衝撃とともに、夜空に大輪の花火が咲き誇る。

「……綺麗……っ!」

 感嘆の溜息とともに、少しだけ開いた柔らかな唇。火の花が散りながら、百合奈の横顔を鮮やかに照らし出す。その可愛さに耐えかねて、俺は百合奈をぐいっと引き寄せ、自分の膝の間に座らせるようにして背後から強く抱きしめた。

「わっ……颯くん!?」

「……花火より、百合奈の方がずっと綺麗だよ。」

「……っ……誰かに見られちゃうよ……?」

「いいよ、見られたって。俺のものだって見せつけてやりたいくらいだ。」

「もう! 知らないからね!」

 口では怒りながらも、百合奈は俺の腕の中にすっぽりと体重を預けてくる。柔らかな体温と、浴衣越しに伝わる鼓動。ここに彼女がいる。その事実だけで、俺の歪んだ独占欲がしっとりと満たされていく。


「……百合ちゃん、俺、早く結婚したい…。」

「……へ?」

「ようやく同じ大学に入れたのに、また就職で離れるとか、本気で無理。……一生、俺の目の届くところにいて。」

 百合奈の驚いた瞳に、色とりどりの花火が映り込む。「ずっと一緒にいたい」という、重すぎるかもしれない俺の本音。

 百合奈は少しだけ俯くと、「……私だって、離れるの無理だよ」と消え入りそうな声で答えてくれた。


「それに……まだ終わってないでしょ? 勉強だけじゃなくて、その……『特訓』……。」

 俺の腕の中で耳まで真っ赤にしている彼女を見て、俺の理性は音を立てて崩れ去った。

 花火の轟音さえ遠のくほどに、深く深くキスをする。

「んんっ……ふ……」

「……ん……っ」

「颯くん……っ、やぁ……」

 彼女の甘い声を吸い上げ、舌を絡ませる。繋いだ手にはさらに力が入り、唾液の混じる水音と、熱を帯びた彼女の肌が俺を焦がしていく。

「特訓は、一生終わらせない。……覚悟して。」

「……うん。覚悟してる……よ。」

「百合ちゃん……愛してる。」

「私も……愛してるよ、颯くん。」


 俺の腕の中にいる彼女が、俺のすべてだ。これまでも、そしてこれからも。

 俺の「スパルタ教育」は、きっと一生、終わることはない。

ありがとうございました!

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