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キスの特訓をしました

不定期更新です。

 動物園の帰り道、繋いでいる颯くんの手が、壊れものを扱うみたいに優しくあたたかかった。

 あのキス……。思い出すだけで心臓がどきどきする。颯くんは「我慢してた」って言ってたけど、実は私もすごく我慢してたんだ。だって、ずっと片想いしてた幼馴染が彼氏になって、拗らせていた初恋がやっと実ったんだから。指先から伝わる颯くんの体温に、どんどん身体が熱くなっていく。

 玄関の前で立ち止まった時、ようやく首元の感触に気がついた。

「ん? 白い花……。なに? いつの間に?」

「……バレンタインのお返し。ずっと、渡したかったから。」

 消え入りそうな声で言う颯くんが愛おしくて、私は思わず彼の胸に飛び込んだ。

「……っ、うわっ! ちょ、百合ちゃん、苦しい……っ!」

 颯くんの体は細いのに、抱きつくとごつごつしていて、やっぱり男の人なんだって再確認させられる。

「……だめ?」

「そうじゃなくて……! 百合奈、約束、覚えてるか? 特訓!」

「え……? ……うん、覚えてる。」


 颯くんに手を引かれて階段を駆け上がった。部屋の前で、彼はドアノブに手を掛けたまま、何かを神妙に考え込んでいる。

「颯くん? 大丈夫?」

「…百合ちゃん、本当に特訓していいの?」

「……特訓してくれないの?」

 そう聞き返すと、颯くんの耳が真っ赤になった。ようやく開いたドアの先、私は彼の部屋に招き入れられた。

 二人きりの部屋。颯くんは慌ててカーテンを閉めた拍子に、何もないところで躓いて派手に転びそうになっている。

「わっ……!」

「颯くん、大丈夫?」

「……大丈夫……だと思う……。」

 ベッドの端に座らされて、颯くんが私の前に跪いた。下から見上げる彼の瞳は、いつもの優しい垂れ目が困ったように潤んで、眉間の皺が深くなっていく。

「特訓、始めます。嫌になったら、すぐ言って。」

「…うん、わかった! お願いします!」

 私は気合を入れて、目を大きく開けて颯くんを見つめた。

 一秒、二秒……。

 ……あ、颯くんの顔がどんどん赤くなっていく。五秒を過ぎたあたりで、彼の視線が激しく泳ぎ始めた。

「……颯くん? 真っ赤だよ?」

「……ゔぅ……集中……っ!」

「……ふふっ、変なの。」

 私はたまらず笑いながら、颯くんの熱い頬を両手で包み込んだ。

「……百合ちゃん、やっぱり今日の特訓はおしまい。」

「えー! これから本番じゃないの?」

「……無理。俺の心臓が持たない。死ぬ」

 颯くんはそのまま、私の膝に顔を埋めて動かなくなっちゃった。

「……颯くんって、本当に私のこと好きなんだね。」

「……今更言うな。……お前の何百倍も、俺の方がしんどいんだぞ。」

 彼の髪を指で梳いてあげると、耳まで真っ赤なのがよく見える。勉強はあんなに得意なのに、私のことになると、どうしてこんなに弱気になっちゃうんだろう。

「颯先生、不合格にしてもいいの?」

「……うぅ……やだ。……百合ちゃん、本当にキスしてもいいの?」

「いっぱいしてほしいのに……。」

 私は身を乗り出して、彼のおでこにチュッと短いキスをした。

「……っ!?」

 颯くんは驚いた顔をして、それから悔しそうに私を睨んだ。

「お前なぁ……危機感なさすぎ! 俺がキスで終わらなかったら、どうするわけ?」

 やっと「特訓の先」を想像した私は、身体が沸騰して頭が真っ白になった。でも、思わず本音が漏れ出る。

「……いいよっ!」

「良くないだろ…………絶対に」

 言いながら、颯くんがゆっくり覆い被さってきた。私は少しひんやりしたベッドに身を預ける。彼の困った顔が近づいて、目を閉じると優しいキスが舞い降りた。ふわっと離れては、またすぐに角度を変えて重なる。私は颯くんの手を強く握りしめて、いつの間にか差し入れられた彼の熱に応えていた。

 熱くて、優しくて……気持ち良くて、何度も何度も特訓した。

 こんな特訓なら……ずっと、ずっと続いていいのに。

投稿の間が空いてしまい申し訳ありませんでした。

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