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この方が!?美しすぎるこの神が!?まさかの砦部隊の総部隊長様!?
会議室に来たから無関係とは思わなかったけど、まさかのご本人でしたかそうですか…。
驚きすぎて開いた口がふさがりません。いやビックリ。
ルドは苦虫を噛み潰したみたいな凶悪な顔になってるし、当の総部隊長さんは口の端を上げてニヤニヤ笑っている。
そんな顔してもサマになるとか美形すっごい。
「だーってよぉ、フェリスタードから聞いたぜー?偵察から帰ってきたルドヴィックがおもしれぇことになってるってよぉ!
ここで待ってても良かったんだけどな、せっかくだし迎えに行ってあげたわけ!」
「だからといって何故ミツキだけ連れ去ったんです!アンタはいつもいつも俺をからかって遊んでるだけだろうが!?」
「ルドヴィック正解!おまえ毎回毎回いい反応するんだもんよー。でも今回が一番だな!そんなにこのちびすけ気に入ったのか?」
ケラケラと笑う総部隊長さんに噛み付くルドが声を荒げても敬語だったから、なんだか主従関係がハッキリしてるなぁーなんて、どこか他人事のように思ってしまった。
でもこの2人のやりとりは聞いてて面白いんだよ。
明らかルドの方が年上なのに敬語だし、からかわれてるし、イケオジにギャップ萌えが加わって最強になってますよ!さすがルド!!
「当たり前です!ミツキは俺の愛し子だ!!」
ルドがそう叫んだ瞬間、その場の空気がシンと静まり返った。騒がしかった先ほどとは打って変わって、みんなしてどこか驚いたような、呆れたようなさまざまな視線をルドに向けていた。
え?え?なにこの空気??わからないの私だけ?
「ほーー、やっぱちびすけは神の愛し子か」
「ルドヴィックの反応からまさかとは思っていたが、泥や埃で汚れた髪を綺麗にした時に確信したな」
「ミツキちゃんてばすっごく綺麗な白髪だものねぇ。そして純度の高い紅目」
微妙な空気を打ち破ったのは感心したように頷いた総部隊長さんだった。
その声を皮切りに、エドさんがいたって真面目な顔で頷き、ベルさんはほうっと溜息をついた。
…んん?神の愛し子ってなんですかね?
え、てか私の髪と目の色ってそんななの?
白い髪に赤い目って…あれ、アルビノみたいな?
どうやら頭にクエスチョンマークを浮かべているのは私だけらしい。何でみんなそんな分かってるような顔してるの!?誰か私にも詳しく説明してー!
「神に愛されたものだけが持つ色の組み合わせだもんなーそれ。愛し子が出現するなんて何千年ぶりだ?
クソでけぇ魔力の反応がまさかの愛し子か…いやー、長く生きてっとおもしれぇことに遭遇するもんだねぇ」
「面白がる前に仕事をしてください、ランティス様。3000年ぶりの神の愛し子の出現など普通に大問題です。各国に通達するの誰だと思ってるんです」
1人困惑していても総部隊長さんからの情報提供は止まらない。
もう勘弁して!?
私の頭がこんがらがるギリギリのところで、奥の部屋から執事服を着たおじ様が出てきて呆れたように溜息をついた。
「オズワルドー、おまえだってそう思うだろ?こんな楽しいこと滅多にないんだぜー?楽しまなきゃ損だろうが!」
オズワルドと呼ばれた執事さんは冷めた目で総部隊長さんを一蹴し、それから手に持っていたお盆を机の上に置いてお茶の準備を始めてしまった。
おおっ、何という慣れた手つき…!まさかの執事さん登場に私の頭の混乱もポーンと抜け落ちました。
だって、だってだよ!?
もうお約束ってレベルの顔の整った渋いおじさま執事さんだよ!?
少し青みがかった銀髪を後ろに撫で付けて、細い銀縁のモノクルを片目につけて、きっちりかっちり完璧に執事服を着こなしてる執事さんのだよ!!?
頭についてるあの…耳!!!どう考えても!!お犬様の耳!!!!ちょっ、後ろ向いてもらえません??尻尾とかついてますよね??ちょっとだけ!ちょっとだけでいいからモフらせてーーっ!!
きっと今の私の目はギラギラに煌めいて血走っているのだろう。
私の視線に気づいたオズワルドさんが困ったように眉を下げつつ、淹れたての紅茶を渡してくれた。
「…ミツキ様は獣人を見るのは初めてですか?」
「あい!!!」
話しかけられたので思わず食いつくように返事をしてしまった、いけないいけない。少し冷静になるんだ私。怖がらせてはいけない。
…あ、紅茶美味しい…。
「そうですか…。獣人は珍しくあまり外にはいませんが、この砦には少なからず生活しています。彼らをみてもあまり驚かないであげてください」
「!?じゅーじんしゃん、いっぱい!?」
「え?えぇ、そんなに数はいませんが…」
えっここなんて天国!?ふわふわの耳と尻尾をつけた獣人さんたちがいるとか私聞いてない!!最高!この世界最高!モフモフ天国!
思わぬモフモフ情報が飛び込んできたおかげで私の顔はニッコニコです。
頼んだら触らせてくれるかなー?
「ミツキ様はなぜそんなに嬉しそうに…?」
1人脳内でモフモフ妄想をしていたせいか、私のニヤついた顔を見たオズワルドさんが困ったように首を傾げた。
あっ、待って引かないで!ちょっと妄想してただけなの!!
「だって、じゅーじんしゃん!あってみたかったの!」
「会ってみたかった、ですか?これはまた珍しいことを仰いますね」
「ミツキ、獣人がこの世界でどんな風に言われているのか知らないわけじゃないだろ?それでも会ってみたかったのか?」
「…う?」
総部隊長さんの言ってることがわからず、こてんと首をかしげる。え?どゆこと?
わかんない。ルドさんや、説明ぷりーず!
困った時の保護者様を見上げれば、ちょっと呆れたように笑われた。
「獣人は半端者として迫害される傾向があるんだよ。獣人だけじゃなく亜人種全体がそうだがな。混ざり物は穢れてんだと。…くだんねぇ価値観だ」
「この砦の者たちはそんなことはありませんけどね。ただ、亜人種は国への定住もあまり認められていないので、大抵は森の奥深くで暮らしています」
…は?
ルドが忌々しそうに吐き捨てた言葉と、その後に付け足されたオズワルドさんの悲しげな言葉にふつふつと怒りが湧いてくる。
総部隊長さんの黒色もそうだけど、この世界はどれだけ人を迫害すれば気がすむの?
純粋な人間しか認められないとか意味がわからん!
獣人さんのモフモフを嫌うとか私絶対砦以外の人たちと分かり合えないわ!!
「…ちびすけ〜、すげぇ顔になってんぞ?ほんとに知らなかったのか?お前よりちっこいやつでも知ってることだぞー?」
腹が立ちすぎてしかめっ面になってたらしい。
総部隊長さんに眉間を親指でグリグリされた。
「…じゅうじんしゃんきらうとかありえにゃい」
それでもムカムカは治らなくて、思わずひっくい声で吐き出してしまった。
「うっは、そんなこと言うやつ久々に見たわ!やべぇ、ちびすけとことん砦向きだな!?
やー、いいもん拾ったなールドヴィック」
「あげませんよ、ミツキは俺の愛し子です」
いや、私は私のものだよルドさんや。
真面目な顔してジャイ●ン発言するルドに毒気を抜かれたのか、心のムカムカはどこかへ行ってしまった。




