その18、作戦を決行しましょう。
日が暮れると同時に店仕舞いをしたバトラー商会は表向きは暗く誰も居ないように見える。だが、裏へ回ると1つの灯りが灯っていた。
「お、無事着いたか。嬢ちゃんえらい見違えたな!別人みてぇだ!」
「…貴方もね。」
顔をあわせるなりそう言うエドモンドこそ別人のようだった。仕立ての良いフロックコートに身を包み髪は綺麗に後ろへと流し固められている。あの海賊風な彼はどこにも見当たらない。
「こうやって見ると良いとこの坊ちゃんって感じね。」
「おい、坊ちゃんはねぇだろ。」
渋面の彼に事実じゃない。という言葉は言わないでおく。
「とりあえず、中で話すか。」
「えぇ。」
そうしてこの日以来私達の話し合いは毎晩のように行われた。
計画を立てはじめてから1週間。
今日はとうとう1度目の接触を謀る日だ。日が暮れる頃に私は荷物を纏めバトラー商会へと向い、いつも通り応接室に入った。
「俺は廊下に立ってる。着替えが終わったら扉ノックしろ。」
エドモンドは中へ入るとそう言って直ぐに外へ出た。私は持ってきた男性用の服に着替える。
弟のプレゼントと言って購入したこの服は至って普通の青年の服だ。ただ1番小さな服でもサイズが悲しいことにブカブカだったからちょっと繕い直した。…どうしてここまで身長が小さいのか。どうしようも無いが悔やむ所だ。
「エドモンド、出来たわ。」
内からノックして知らせる。
「入るぞ、…ちっちぇな。」
「うるさいわね、分かってるわよ!」
入って早々に傷を抉るエドモンドの脛を軽く蹴った。本当にデリカシーのない奴!
「いってぇ!嬢ちゃん!段々遠慮なくなってねぇか!?」
「普通にしてたら付き合ってらんないからよ!気にしてるのに…!」
脛を摩るエドモンドは「悪りぃ悪りぃ、正直もんなんでな」と謝っているようで全然謝っていない。
「この1週間で慣れたわ…それより呪いお願い。」
「おう、ちょっと利き手じゃない方の腕捲くってくれ。」
とりあえず、言われた通りに左の袖を肘まで捲くる。私は呪いについてはあまり詳しくないから普通何処に書き込むのか知らない。…今回は腕に書くのね。よく分からないけど。
捲ったのを確認するとエドモンドは「ちょっと失礼」といって肘の内側へ複雑な紋様を書き始めた。
「ここじゃ消えちゃわない?」
「あ?あぁ、俺的には腹とかがオススメなんだけどな。嬢ちゃんだし、嫌だろ?それに何処に書いても日が昇れば消えるぞ。だからさっさと潰してこい。」
「…今日は普通に飲んで様子見るだけだってば。」
「あぁ、なんかあったらいけねぇからな。忠告したぞ?暗いうちに店を出ろ。一応俺も化けて近くにいるが、呪いが切れたら意味ねぇからな。」
腕に書く紋様に集中するエドモンドはこちらを見ずにそう言う。
もっと長い時間呪いを掛けれないのかと思ったが前にエドモンドは「もし呪いが途中で狂ったら永遠に消えなくなるかもしれねぇぞ。人間に直接掛ける呪いは難しいんだ」と言っていた。
そこで私はふとチェイスにかけた呪いの事が気になった。
「…チェイスの呪いは消えないの?」
「あぁ、チェイスのは彫ってあるからな。…書けたぞ軽く布を巻いとけ。」
私は驚きを隠せなかった。
「ほ、彫ってある…?」
「あぁ、消えねぇように刃で書いてインクを流してある。今度見せてもらえよ。」
それって傷ってことよね…。聞いただけで書いただけの腕の紋様がぞわぞわと疼いたような気がした。
「じゃあ家が見えない呪いが強力なのはチェイスに彫ってあるからなの?」
「あ?違ぇぞ。家は家の内壁に彫ってある。チェイスのはチェイス自身の存在を一生気付きにくくする呪いだ。家のと相乗効果で効き目抜群だぜ。なんだ、聞いてねぇのか?」
「!!!」
チェイスは確か家が見えなくなる他にも呪いがあると言っていた。それはこの事ね。でも私は腑に落ちないことがあった。
「チェイスは自分がマードックっていう事覚えてないんでしょ?なんでそんな呪いを掛けることを許可したの?」
「一応聞いたんだよ、俺が此処じゃないもっと人間が沢山いる場所に連れて行ってやろうか?ってな。そしたらあいつ首を横に振るもんだからよ、じゃあ呪いでもかけなきゃその内他の奴に捕まるぞって。」
「なるほど、だから今まで奇跡的に無事だったのね。」
密猟者達に見つかれば物珍しさから捕まってしまう可能性もあったはずだ。
「あぁ、だから嬢ちゃんすげぇんだぜ?彫るまでした呪いが効いてねぇんだもん。チェイスが相当心許したって事だよ。」
「迷い込んで2日目の事だったんだけど…全くもってそんな事になる覚えがないわね。今度帰ったら聞いちゃおうかしら。そういえば呪いってどこに彫ったの?」
「そんなの気付かねぇ場所っつったら毛皮巻いてるどっかしかねぇだろ。帰ったら見せてもらえ。」
「…エドモンド!!!」
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私は夜の繁華街へと向かった。信用していない訳じゃないが、まずは本当に呪いがかかっているか試すことにした。
だが杞憂に終わったらしい。
繁華街に入って数分歩くと華やかな女性に「あら、可愛い顔〜私が案内してあげるわ、遠慮せずにほら、おいで。」などという誘いが多数あった。
「これ…子供に見えてるんじゃないよね…。」
ブーツの中にはこっそり詰め物をしていて身長もアップしているし恐らく大丈夫だとは思う。それに娼館にまで誘われそうになったから。…複雑だ。
呪いが証明されたとこで目的の酒場へ着いた。大衆酒場といった所だろうか。中には港の漁師と思われる日焼けした体の大きな人が沢山いる。とりあえず比較的空いているカウンターへと座った。
「お、ボウズこんなとこに飲みに来て良いのか?親御さんに叱られるぞ。」
座った瞬間に店主にそう言われた。…やっぱり?
「参ったなぁ、これでも18なんだけどな。何処に行っても断られるもんだからここなら飲ませてもらえるかと思って、無理かな?」
「ほぉ、そんな可愛い顔した18歳珍しいな。良いぜ、ここはどんな奴でも大歓迎なんだ。…問題さえ起こさなければな。」
…店主はニコニコ笑顔で目が全然笑っていなかった。この人怖い!
「何にする?」
「あ、じゃあ麦酒で。」
頼んで直ぐにきた麦酒をゴクリと一口飲んで周りを見渡す。奴は居ないようだった。
「やっぱ漁師とかが多い?」
「あぁ、この街は漁師と商人がわんさか居るからな。この店は漁師とならず者ばっかだぜ。」
店主の話に耳を傾けながら酒を飲みたまに周りを見渡す。すると顔が赤らんだ大男が近づいて来て隣の席に座った。
「おい、お前ちっけぇな!そんなんで酒なんて飲めるのかよ!がははっ!」
私が思ったのは…「お、これが輩という奴か」だった。
「そうなんだよ。思った以上に伸びなくてね。…その飲んでるの何?」
「こりゃガキにはキツイぜ!!なんてったって氷の国でも炎のように体が熱くなる代物だからな!」
「…飲んでみようかな。店主、これ同じやつ。」
「おい、大丈夫か?…ぶっ倒れんなよ。」
店主はそう言いながらも目の前に酒の入った瓶とグラスを置く。
「まぁ、飲んでみるよ。無理だったら止めるさ。」
3時間後
結局密猟者は現れなかった。そしてなぜか私はあの輩を潰していた。
夜中にバトラー商会に戻るとエドモンドが変装した格好で裏口の前に立っていた。
…そうだった、何処にいるのか気づかなかったけどエドモンド見てたんだった。
「嬢ちゃん酒場で有名になっちまったな。…ぶっ、くっくっく!すげー見ものだったぜ!チェイスの野郎にも見せてやりてぇ!はっはっはっは!」
お腹を抱えて笑うエドモンドの脛を軽く蹴る。
「笑い事じゃないわ!予想外よ!そんなつもり無かったのに!どうしようこんなに目立って…アイツが異変を感じて来なかったら…。」
「いってぇ!そりゃ嬢ちゃんの自業自得だろ。」
うっ、確かにそうだ。
「…蹴ってごめん。」
「おいおい、しょんぼりすんなよな。まだ分かんねぇだろ?また夜に行ってみろ、そこで分かんだろ。何時までも来なかったら新しい作戦考えりゃいい。」
「…そうね。」
「だろ?」
私はどうしても早くに終わらせたくて焦っているのかもしれない。結局はレイラに頼んでいることが片付かないとあの島には戻れないしチェイスに会うこともできない。
…落ち着かなきゃ。
この晩はエドモンドが宿まで送ってくれた。
直ぐに寝る準備をして泥のように眠る。今夜はまた沢山飲まなきゃならない。
本当父さん似であったことに感謝だわ。
そして今夜、とうとう決着がつく。
だが、相変わらず私はついていないのだった。…元々期待はしていないけどあんまりだわ。




