表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/7

遭遇と尾行

会計を済ませ、薬局から薬を買った後、わたしは非常口から再び病院に入りました。


先生に、ここから入って来るように言われたからです。


「・・・誰もいない」


わたしは安心して、近くの長椅子に腰を掛け、先生を待ちました。


時折、看護師さん等がパタパタとかける音が聞こえて来ます。


「・・・・・・」


スマホを眺め、かれこれ1時間経った頃。


「おまたせー」


私服に着替えた先生がやって来ました。


「ごめんね、待った?」


「いいえ、そんなに」


わたしは正直に答えました。


もっとかかると思ってたからです。











「本当に助かるわ、なるべく今日中に見て回りたかったの」


病院内を歩きながら、先生は話します。


「こんなに瘴気の濃い日に代わりの人を呼んでもいつ来てくれるかわからないし、待ってる内に何かあったら後々厄介だからね」


「はい」


相変わらず、なんと返したらいいのかわからず、それだけいうと、わたしはしばらく黙ってしまいました。


会話をするのは苦手です。


「もし病院内に〈ダナ〉がいたら、移動してくる瘴気溜まりが結界を破って中に入ってくるかもしれませんしね」


やっとそれだけ言葉を紡いで返すと、先生は


「そうなのよねー」


と、ほんとに困ったわよね、という感じで言いました。


通常、瘴気溜まりの駆除は、天秤座の〈祝福〉で〈散らし〉た後、瘴気溜まりが寄り集まって黒い粒になった物、通称〈ダナの種〉を、牡羊座等の〈祝福〉で浄化して完了します。


しかし結界ー一ー蟹座の〈祝福〉は、そのプロセスを経なくても、瘴気溜まりの状態のまま浄化する事が可能なのです。


なので瘴気溜まりは、蟹座の〈祝福〉が作る結界に触れると片っ端から浄化され、結界の中に入る事は出来ません。


出来ないのですが・・・。


これが、近くに〈ダナ〉がいる場合は、話が変わります。


〈ダナ〉の近くにいる瘴気溜まりは、〈ダナ〉の力に感化され強化されてしまうのです。


そして〈ダナ〉と同化する為に、移動し、もし進行方向に結界がある場合は、それを破って突破しようとします。


勿論、結界の方もそう簡単に破られたりしません。


だいたいは、瘴気溜まりの方が消滅します。


ですが、強化された瘴気溜まりの〈ダナ〉の元に行こうとする力は結構強烈で、破ろうとした部分の結界は、大抵削れて薄くなっているのだそうです。


今、病院の側には複数体の瘴気溜まりが確認されています。


もし、それらが結界を突破しようと突っ込んで来たら・・・。


そしてもし破られ、〈ダナ〉と同化なんてしようものなら・・・。


被害はなかなかの物ではないでしょうか。


「1階は見て回ったから、次は2階を見て回りましょう」


「はい」


先生とわたしが、2階に上がろうとエスカレーターに向かった、その時。


向こうから、誰かがやって来ました。


まだ病院の営業時間内だから、人が通るのはおかしい事ではないのですが、その人は、よく見ると、首から上が、全部帽子の下になっていたのです。


(あ・・・いた)


わたしは立ち止まり、先生の方を見ました。


先生も、どうやら気づいてるようです。


わたし達は、その、人のような形の物を避けました。


そして視線だけ、それに目をやります。


人のようなそれは、2階へと続く階段がある鉄扉の前まで来ると、ドアを開けて、中へ入りました。


わたしと先生は目を見合わせます。


「・・・行きましょう」


「・・・はい」


わたし達は、それの後に続くように、それが入った鉄扉の中に入りました。


少し重い扉を開けると、そこには、2階へ続く階段と、地下へ続く、暗い階段がありました。


「・・・どっちへ行く?」


先生がわたしに言います。


わたしは、見えない〈目〉を開き、2つの廊下を見比べました。


虹色がかった、薄っすら白い視界には、ゆらゆら歪む地下への階段が見えます。


「地下に行きましょう」


わたしが言うと、先生は、


「ええ・・・」


とだけ言いました。


「この病院に地下への階段なんてありませんよね・・・」


わたしは先生に聞きます。


「無かった筈よ・・・」


先生はこわごわ言いました。


「・・・じゃあ、この下は、もう〈ダナ〉の作った空間なんですね」


「そうなるわね・・・」


先生は右手を胸の前で握りました。


すると、体の表面が藍色に発光し始めます。


体の表面の光は、するすると握られた右手に集まって行き、先生が掌を上にして開くと、ポオっと、丸い藍色の光の玉になって、宙に浮きました。


わたしも同じように右手を握ります。


体の表面が白く発光し、するすると右手に集まって。


掌を上に開くと、ポオっと、虹色がかった白い光の玉が出来ました。


「いきましょうか」


先生がそう言うと、


「はい」


とだけ返し、わたしは先生の後ろにつきました。


そして先生が階段を降り始めると、後に続いて降り始めます。










長くて暗い階段を、先生とわたしは、2色の光の玉を傍らに降りていきます。


「・・・・・・」


「・・・・・・」


お互い何の会話もありません。


何か話した方がいいのでしょうか・・・。


でも何を話したらいいのだろう・・・。


1人で悩んでいると、先生が、ポツリと言いました。


癒雫(ゆな)ちゃんは、〈ダナ〉が生まれる瞬間って、見た事ある?」


突然話を振られて、思考が停止しました。


ついでに立ち止まり、動けなくなります。


「あ、ごめんね、急に聞いて」


先生も立ち止まって振り返り、わたしをいたわるように謝罪しました。


「いえ、大丈夫です」


わたしは申し訳ない気持ちで謝ります。


相変わらず、突然の事は苦手です。


「〈ダナ〉が生まれる瞬間、ですか・・・〈ダナの種〉から人為的に生まれさせる瞬間なら、何度も見ましたけど・・・瘴気溜まりから自然に生まれる瞬間は、まだ見た事無いですね・・・」


たどたどしく、やっとそう言います。


「そう・・・わたしが見た事あるのは、自然に生まれる瞬間だったなぁ」


先生は、再び階段を降り始めました。


「瘴気溜まりの瘴気がまるで果実の皮のように剥けて、中からまんまるの卵のような、〈ダナ〉の部分が現れるの」


「・・・・・・」


「そしてその〈ダナ〉を、剥けた瘴気が丸く円で囲んだらね、瘴気は無数の黒いおたまじゃくしみたいな形状に変わって・・・」


「・・・・・・」


「一斉に〈ダナ〉めがけて泳いで行くの。そして、それらすべてを〈ダナ〉が受け入れると、一瞬脈打った後、だんだん人のような形の何かに変わっていく・・・」


「・・・・・・」


「まるで、人間の卵子と精子のようだった・・・人間の卵子が受け入れるのは、無数の精子の内、早く卵子にたどり着いたものだけなんだけど」


「・・・・・・」


「不思議よね、〈ダナ〉が、人間と同じようにして出来るなんて・・・人間の負の感情と混ざり合うから、人間と似ちゃうのかしらね・・・」


確かに、それも一理ある考えかもしれない。


わたし達の言う瘴気とは、〈ダナ〉が撒き散らす〈ダナ〉の一部の事で、人間の負の感情と結び付く事で、瘴気溜まりを作り、やがて、新たな〈ダナ〉になります。


〈ダナ〉は、そうやって増殖します。


「だとしたら、あっちの世界の〈ダナ〉は、どうして生まれるのかしら・・・」


「・・・・・・」


先生の話を一通り黙って聞いた後、わたしは、あっちの世界についての情報を思い出していました。


あっちの世界。


わたし達の先祖のいた世界では、こちらの世界のように、卵子と精子が合わさって赤ちゃんが出来る事はありません。


というか、そもそもあっちの世界の住人は、皆、肉体というものを持たないのだそうです。


みんな、精霊や妖精のような、実体の無いマナだけの存在で、風や水を身に宿して実体化するのだそうです。


・・・そうですね。


先生の話を聞いて、改めて、わたしは今まで、あっちの世界の住人がどうして生まれるのか、あまり関心が無かった事に気づきました。


周りに聞いた事すら無かったです。


今度、聞いてみよう。


と、そんな事より。


さっきの先生の言った事。


〈ダナ〉が生まれる瞬間が人間のそれに似てると言う話。


「・・・・・・」


先生は、生まれる瞬間は見た事あるけど、終わりの時は見た事無いのかな、と思いました。


なんとなく話を続けなきゃいけない気がして、わたしはその事に触れようと言葉を紡ごうとしました。


「・・・お」


しかし、その言葉が発される事はありませんでした。


なぜなら。


「見えてきた、出口よ」


先生の言葉が、わたしの言葉を遮ったからです。


先生に言われ、わたしは前方を見ると、そこには、階段の終わりがありました。


「・・・準備はいい?」


「はい」


先生に言われ、わたしはポーチから、天秤座の石を取り出し答えました。


・・・どうか、無事終わりますように。


心の中で祈り、わたし達は〈ダナ〉のいる階段の終わりに、足を踏み入れます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ