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病院と主治医の先生

ゆるやかな坂を登りきり、着いたのは広い駐車場でした。


駐車場の中に入ると、景色がふっ、と明るくなります。


今までずっと見えてた瘴気が、まったく見えなったからです。


これは、瘴気が消えたのではなく、病院の敷地内に結界が張られていて、〈ダナ〉や瘴気が入ってこれないからなのです。


ここまで来たら、もう安心です。


わたしは駐車場に車を停めると、額の、見えない〈目〉を閉じます。


虹色がかった白が消え、人間の視界に戻りました。


「・・・ふぅ」


途中、ちょっぴりトラブルみたいな事もあったけれど、今日も無事着けました。


渡霜の〈内〉側の移動は、いつもちょっとした冒険感があります。


スマホ画面の時計を見ると、少しだけ早く着いたようでした。


今日は何を話そうか・・・スーパーでの事でも話そうかな、あと、薬の事も・・・眠気の出ないやつがないか聞こう・・・)


車のドアを開け、外に出て、バタンと閉めます。


(・・・やっぱり今日ちょっと寒いなぁ)


早足で、病院の中に入りました。




わたしの通う、渡霜(わたしも)村立病院(そんりつびょういん)は、昔から渡霜にある古い病院です。


古いと言っても、何回も改装を繰り返してるので、中身は真新しいですが・・・実は小さい頃から、風邪とかになった時にはお世話になっていました。


今も、何かあったらこの病院に来ます。


「・・・・・・」


病院の中は、少し混んでいました。


わたしは足早に、目的地の精神科へと向かいます。


防音イヤーマフは持ってきていません。


呼び出しの声が聞こえなくなるからです。


途中、背後で、ゴホンッと、咳の音がしました。


(大丈夫、むせただけ、わたしにしたんじゃない・・・)


ビクつく心臓を抑えながら、心の中で言い聞かせます。


途中、トイレに寄って、エスカレーターを降ります。


降りて、すぐ側にあるATM銀行で、お金を下ろし、まっすぐ進むと、院内のドトールコーヒーやファミリーマートの看板が見えました。


いつか寄りたいな・・・。


そんな事を思いながら、右にある通路を曲がります。


曲がってすぐ、産婦人科があり、その向こうが精神科です。


(産婦人科のそばに精神科って、大丈夫なんだろうか・・・)


疑問に思いながら、精神科の受付までやって来ました。


すぐそばに、診察券を入れる機械があります。


診察券を入れると、時間が印刷された紙が出て来るので、それを診察券や予定票の紙と一緒にファイルに入れ、受付に出しました。


「お願いします」


受付の人が、ファイルに手をかけるのを見ることもないまま、わたしは主治医の先生のいる診察室の扉の前まで行きます。


そしてすぐ側の長椅子に腰掛けました。


しばらくの待ち時間、わたしは、持ってきた小説の本を読んで過ごします。


だいたい、40分ぐらいたった頃でしょうか。


主治医の先生の呼び出しが、アナウンスから聞こえて来ました。


『春瀬癒雫(ゆな)さん、7番までどうぞ』


わたしは読んでいた本を閉じ、7番の扉を開けます。


扉を開けると、白衣を着た、40代くらいの眼鏡の女性がいました。


主治医の、金森咲月(かなもりさつき)先生です。


「久しぶり、癒雫ちゃん」


先生は、いつものようにそう言って微笑みました。


(相変わらず美人だなぁ・・・)


わたしもいつものようにそう思い、椅子に座ります。


「今朝は瘴気が濃いみたいだったけど、来る時大丈夫だった?」


「はい、ちょっとだけ車に瘴気が入って来てびっくりしたけど、大丈夫でした」


先生は、わたしが中学生の時から主治医をしてくれてる先生です。


渡霜の事情も知っていて、この病院の〈管理番〉でもあります。


〈管理番〉とは、簡単に言うと、国から派遣された人達の事。〈ダナ〉が発生しそうな場所や施設等に常駐し、必要とあらば〈ダナ〉の駆除にあたる権限を与えられています。


なので、よくこんな話もするのです。


「調子はどう?まだ落ち込んでる?」


心配そうに聞く先生に、


「はい、まだちょっと・・・思い出すと涙が出ます」


わたしは正直に答えました。


3ヶ月前、小さい時から一緒に暮らしていた父方の祖母が亡くなりました。


母が父と離婚して、春瀬の姓に戻ってからは別々に暮らしていましたが、1年に2回は父の実家に戻って会うようにしてた祖母でした。


「朝、目が覚めると気が重くて、空ばかり見ています。午前中は薬の副作用で寝てる時もあるから考えなくて済むけど、午後はよく思い出して泣いちゃいます」


わたしは淡々と事実だけを伝えます。


情感たっぷりに気持ちを伝えるのは苦手なので、どうしても淡々とになってしまいます。


「3ヶ月経てば、落ち着くと思ったけど、なかなか落ち着きません。同時に、お母さんが死んだ時の事も考えます。もし、お母さんが死んだら、1人でこんな気持ちを抱えなければいけないのかな、と考えて、恐ろしくなります。毎日怖くて、お母さんの前で泣いたりする事もあります」


「・・・・・・」


「今日、スーパーに買い物に行ったんですけど、中の人達の咳の音が立て続けにして怖かったです。まるで威嚇されてるようでした。わざと咳をされてるのかそうじゃないかの区別がまったくつかないんです。車に戻って、たまらず泣きました。さっきも、病院の中の人の咳が怖くて仕方なかったです。」


「・・・・・・」


「どうしても、周りの人がみんな、わたしの事を嫌って何かしてるようにしか見えなくなるんです。正直、1人で買い物に行くのが怖いです」


「・・・お母さんの事は、今も嫌われてると思う時、ある?」


ずっと、黙ってわたしの話を聞いていた金森先生が、聞いてきました。


「いいえ・・・その、不思議なんですけど・・・おばあちゃんが死んでから、そう思う事があまりなくなったんです。完全にじゃないけれど、前に比べたら、なくなりました・・・」


「・・・・・・」


「うまく言えないけど、おばあちゃんとの昔の事を思い出したら、お母さんの事も、大丈夫って、信じられるように少しなって・・・」


「・・・・・・」


「・・・でも、まだ全然不安定になるんですけども・・・」


「・・・そうねぇ」


一通り語り終えると、今度は金森先生が話し始めます。


「大切な人を亡くして、立ち直るまでの時間は、個人差はあるけれど、長い人だと何年もかかる人もいるから、癒雫ちゃんもまだ時間がかかるのかな・・・無理して早く立ち直らなくてもいいと思う。ゆっくりと受け入れていけばいいと思うよ」


「・・・はい」


「お母さんの事も、色々不安があるのはわかるけど、とりあえず、あまり嫌われてるって思わなくなって来たって事は、いい傾向だと思う。癒雫ちゃんは、おばあちゃんだけじゃなく、お母さんも大好きなんだものね」


「・・・・・・」


「咳の音は、持って生まれた特性もあって大変だと思う。周りの人が悪意を持ってるように見えるって事は、関係妄想の症状も出ているのかな・・・幻聴は、今でも聞こえてくる?」


「幻聴かどうかわからないけど、たまに不自然に大きな声で嫌な事を言ってくる人に会います。とても怖いです」


「・・・わたしも、全部が全部幻聴だとは実は思ってないわ。極力そういうのが聞こえても反応しない方がいいと思う。変な感じしたら、なるべくその場から早く離れなさいね。多分、いい事無いから」


「努力します」


「薬の副作用は、眠気が強い感じなのかな?」


「はい、前日の夜、寝る前に2錠飲むと、次の日の午前中は、何も出来なくなります。朝は無理して起きてます。・・・別の薬に変えて貰えないでしょうか」


「別の薬・・・か〜、ん~、別の薬もあるにはあるんだけど、今の薬よりも効き目が弱くなっちゃうのよねぇ・・・薬の量を減らして飲むじゃだめかな?」


先生の提案に、


「それでいいです」


とだけ答えます。


「ー一ー叔母さんのお手伝いは、ちゃんと出来てる?」


「・・・薬を飲まない日を作って、作業してます。飲んだ次の日は寝てます」


正直に答えました。


「そっか・・・でも、ちゃんと出来てる?」


「はい、一応」


短く答えました。


すべての話しを終えると、先生がパソコンのキーボードを叩きます。


「次の診察日も4週間後でいいわね」


「はい、大丈夫です」


「薬はどれくらい残ってる?」


「えっと・・・これくらい」


わたしは残ってる薬を先生に見せました。


「結構残ってるわね、足りない分を補充するぐらいでいいかな」


「はい」


パソコンの側のプリンターから紙が2枚出て来ました。


予約票と、薬の処方箋です。


「そういえば、癒雫ちゃんって、〈ダナ〉の駆除の手伝いとかもしてるの?」


先生がふと思いついたように言いました。


「はい・・・でも、お母さんは危ないからって、あんまりさせたく無いみたいですけど・・・弱いやつだったら倒せる筈です」


(最近やってないけど・・・)


わたしの言葉に、先生は少し考えてから、


「そう・・・実は最近、瘴気溜まりの発生頻度がめっぽう高くて、調査隊の方でちょっと調べて貰ってたんだけど・・・何か、病院付近に移動して集まって来てるみたいなのよ」


と言いました。


「集まって来てるって、瘴気溜まりが?」


「そう、瘴気溜まりが」


「・・・それって」


病院内に〈ダナ〉がいる・・・かもしれないという事。


瘴気溜まりは、人の負の感情が〈ダナ〉になりかけている状態の事です。


〈ダナ〉が近くにいると、側に集まってくる性質があります。


「それで、仕事が終わったら、駆除隊の人と一緒に、問題の場所を見にいく予定だったんだけど、急な事情で、その人、来れなくなっちゃったらしいのね」


「ええー・・・」


「そこで、頼みなんだけど」


先生は、わたしのぽんっと肩に手を置いて、


「代わりに癒雫ちゃん、一緒に来て」


と言いました。


「・・・わたしでいいんですか?」


わたしが弱々しく聞くと、


「いい」


先生はまたも、力強く言いました。


どうやら拒否権は無いようです。


わたしは諦め、先生の頼みを聞くことにしたのでした。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

1週間に1回の更新を目指しましたが、それでも色々キツいという事がわかり、色々考えた結果、不定期更新にする事にしました。

これからは自分のペースで無理なく書いていこうと思います。

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