出立 二話
「ねぇ太郎。あなた、これからどうするの?」
「……まだ、考え中だ。」
「さっきからそればっかり!」
女はプイと顔を背けた。
「オイオイ、冗談キツイぜ……。これから二人で旅しようってのにヨォ」
太郎は両手で顔を抑え、天を仰いだ。
かれこれこんな状態になってから、三日になる。事の発端は試験に受かったことを認識して、救護室を後にした太郎がブラブラと通路を歩いていた所を、同じようにブラブラと歩き回っていたこの女にとっ捕まったことから始まる。
「あなた、名前は?」
「太郎。国貞 太郎だ」
「そう、私はケストレルっていうの。宜しくね」と言って差し伸べてきた手を太郎はグッと握り、二人はその場の勢いで徒党を組むこととなった。
そしてその後宿を取り、当面の活動について話し合うことと相成ったが、太郎はとんと思いつかずにこうして三日の時が流れて行ってしまった。
しかし、そろそろ決めなければならない。焦った太郎は逃げるようにケストレルの顔を眺めて、彼女についてあれこれと考えた。
(この女、顔はいいのである。しかし、生来のものらしいせっかちな性分がその顔の良さを台無しにしている。そして何より困ったことに、そのことを自覚していながら治せないし、治す気もないのが、如何ともしがたい……。)などと思案したところで、ケストレルが口を開いた。
「ま、いいわ。私が行きたいところがあるから。取り敢えず、そこに行きましょう」と言うと意を決したようにケストレルは座り込んでいたベッドから身を起こし、意気揚々と愛用の槍を磨き始めた。
「空突丸」
それがケストレルの愛用している槍の銘だった。その長さはちょうど彼女の背の高さぐらいの、百六十センチメートルくらいだがその重量は羽毛のように軽く、太郎はそのあまりの軽さについてビックリした程だった。
「そういえばあなた、武器を持っていないけれど。どうしてなの?」と槍を磨き終えて暇をしていたケストレルが質問してきた。
「あ、イヤ。あるにはあるんだけど、ほんとはないっていうか……」と太郎はしぶりながらも、一振りの剣を出した。そしてその剣を見たケストレルはほうっとため息を吐くと、何かを悟ったように太郎の肩をポン、と叩いた。
「あなたも苦労してるのね……」とケストレルは同情したが、無理もなかった。何故なら太郎の剣は「呪剣」であった。
「呪剣」
様々な種類の呪いがかかっている剣の事をさす。一般的な剣とは違い、刃を鞘から引き抜けないのが特徴。
「でも、どうしてこんな剣を」とケストレルは問うたが、これは至極真っ当な質問である。と、言うのもこの時代では個人で呪剣を持つ人間などそういないからである。実際の所、太郎も自分以外に呪剣を持っている奴に出逢ったことはまだ一度もなかった。
「此れは、俺の父が渡してきたもんなんだよ……」と太郎は恨めしそうな顔をしながら、この剣を手に入れた経緯をポツリポツリと語り始めた。
時は遡る事、西暦三千年。国貞 太郎の父、国貞 鉄心はその当時、故郷がある日本で刀鍛冶をしていた。
働きぶりは実に真面目で、良い腕をしていると評判ではあったが仕事一筋というわけではなく、知り合いの古物商の所へ行っては珍妙な品々を譲ってもらっていた。驚くべきことには、その全てが呪われた品々だった。
鉄心はそのことに気付き、何とかしようと思って散々悩み抜いた挙句、全ての呪われた品々を一振りの刀に作り変え、その呪いが出でこないように護符を巻いた鞘でその刀身を封じた。
そして、西暦三千二百年。魔術士になりたいと言った息子の太郎に、この剣の呪いを払う方法を見つけてもらう事を条件として出した。
そして太郎はこれを快諾し、現在に至る……。
「ま、要するに尻拭いってわけだ」と太郎は強がって笑っていたがその笑顔は引きつったものだった。




