出立 一話
西暦3200年、イギリス。
此処で一年に一度開催される魔術士になる試験を受けるために、日本から一人の男が現れた。
現在その試験会場にて、彼は試験を受けていた。その男の名を国貞 太郎と言う。
「くそっ、アァ辞めだ辞めだ。とてもじゃあないが受ける気にならんよ」
太郎は鉛筆を机の上に叩きつけて、窓の外をボンヤリと見つめた。季節は春だと言うのに、鱗雲が浮かんでいるのが不思議でならなかった。
「第一、こんなペエパア試験で我々人間の評価を下すと言うのが気に食わない。」
そうだ、どうせ落ちるなら思い出作りにイギリスの観光にでも繰り出そう、と思った彼は試験官にトイレに行くと嘘をついて会場を後にした。
「しかし、イギリス広しと言えどもせいぜい俺が知っているのはビッグベンぐらいのものだし如何しようか」
などと、思案していた彼の元に易者が近寄ってきた。
「おい、おい、旅人。観光かい?」
「ああそうさ。爺さん、地元の人ならどこか観光にいいとこでも知らんか。」
老人は考え込んだ後しばらくして、この通りをまっすぐ行ったところにあるコロッセオなら何か面白い見世物をやっているかもしれない事を教えてくれた。太郎は易者に礼を言い、通りを一直線に抜けていった。
「さてさて何か面白い出し物はないものか。」
コロッセオの中をグルッと見渡すとやれ「万国人間ビックリショウ」やら「驚訝的污辱氣圖」、「Bestür ausgelöst werden 」と言ったありきたりな謳い文句しかなく、ホトホト呆れたかの男はコロッセオを出ようとした。
「さアさア、ヨッテラッシャイナ。メーガス試験の脱落者のバトルロワイヤル、受付始まるヨ。」かの男の脚はピタリと止まった。なんたる僥倖か。
二時間後、男はバトルロワイヤルの待機室にいた。
「エエ、今から試合が始まりマス。試合に出る選手はフィールドに来てください。」
太郎は待機室を後にし、コロッセオの中央に躍り出た。
「それでは、試合開始の音頭をとらせて頂きマス。get ready.......fight!」
「先手は取らせていただく。」 太郎は相手の男に猛然と殴りかかっていった。が、相手の男は軽い身のこなしで其れを躱し、コートから取り出した投げナイフを五、六本投げつけた。
「ヤヤッ、飛び道具とは卑怯なり。」太郎の右腕に巻きつけられた金色の腕輪が赤く光り出した。
「そう言う貴殿こそ今まさに、飛び道具を使おうとしておるではないか。」男はさらにナイフを十本、太郎の方へと投げつけた。
「此れは魔術だ!」金色の光がかの男の右腕に纏わりついた。
「光手刀」
それは、眩い一閃であった。 ギャリギャリと音を立てた光の斬撃がナイフを、投げた男諸共引き裂いた。が、その刹那の瞬間、背後に凄まじい痛みを感じたかの男が振り返ってみる。すると不思議なことに先程の男が血濡れた骸布を手に立っているではないか。
「ア、ア、アァッー」
驚いた太郎に、その暇を与えぬが如く男は大振りのナイフを一本、かの男の右腕に振りかざした。
「私を殺めかねたほどの一撃、賞賛に値する。なら私もその一撃に答るが如き魔術を与えるのみ。」
鈍く、熱い一撃が振り下ろされた。
「dark-flame one flash」
紫炎を纏ったナイフは太郎の右腕を焦がし、引き裂かんとした。
「アアッアツイアツイアツイイイィ」
太郎は自身の右腕が自分のものではなくなっていくのを感じ、数分後には太郎の右腕は地面に落ちた。
太郎は、負けた。だが、彼自身はまだ余裕そうな貌を 浮かべていた。そして次第に顔で笑うだけではなく声にも出し始めた。
「クッククク、ヒャーヒャッヒャッ」
「どうしたんだ。さっさと負けを認めんか」
「嫌、俺ャア腕無くしただけだ。まだまだいけるぜ」
「この気狂いめが」
「気狂いで悪かったナァ」太郎は、男の右腕に噛み付いた。
「イタイイタイイイィッ。離せッ離さんかッ」
男は必死で太郎を腕から外そうともがくが、太郎も負けじと喰い下がる。
「こなくそぉッーーー」男は、渾身の力で太郎の顎を殴りつけ、太郎を昏倒させた。
試合は終わり、太郎が目を覚ましたのは見知らぬベットの上だった。
「何処だここは?」
「救護室」
何処からともなく現れた見知らぬ女が答えてくれた。
「成る程。救護室、ねェ。じゃ、俺はパスできなかったかァ」
「何言ってるの?したじゃない」
いそいそと身支度を済まして帰ろうとする太郎に、女は疑問を投げかけてきた。
「おかしなことを言う人だ。あんた、試合見なかったのかい?俺はあの男に右腕を斬られて……」
その時、太郎は自身の右腕にとてつもない違和感を感じた。
「つ、ついてやがる。俺の右腕、ついてやがるぞ!」と、喜ぶ太郎を尻目に女はククッと笑った。
「何がおかしいんだ」
「馬鹿ねぇ。それ義手よ、義手」
女はそう言うと太郎の右手をズイッと掴み、大きく捻った。
「何しやがる!」と太郎は叫んだが、痛みを全く感じないことに不安感を覚えた。そうこうするうちに太郎の右腕はすっぽ抜け、赤やら青やらのビニイルコードが接合部からチラリチラリと顔を出していた。
「こいつぁ驚いた。俺の右腕は機械になっちまったのか」
「そう。で、コレがあなたの免許証」
女は一言、軽く言い放つとプラスティック製のカードを太郎に手渡した。
「成る程……。確かに俺の名前が書いてやがる……」
カードにはしっかりと太郎の名前と、「魔導取扱免許」の文字が刻まれていた。
「しかし妙だな。どうして俺は免許が取れたんだ?」と女に問うたが女も何も知らぬようで、話は有耶無耶になってしまった。
「じゃ、私は次の試合でぶっ倒れた奴を診に行かなきゃいけないから……」と言って女が救護室から出て行った後も太郎は疑問に思い続けたがとうとうどうでも良くなってしまい、右腕を付け直すとさっさと部屋を退出した。




