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私の盲目  作者: 伊吹ねこ
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10/11

私の盲目 7

よろしくお願いします。

             Last


 一人だった頃を忘れた私は、いつの間にか誰かがいなくなることが怖くなっていた。以前、一人でいることを望んだ私は、一体いつから一人でいることができなくなってしまったんだろうか。いつからか、彼の影を探して、見つけて、安心という感情を持つようになっていた。

 彼がいることで、私は安心する。そうゆうことを認識すればするほどに、虚無感で支配されていた昔のあたしは、見えなくなっていた。


 朝起きて、身支度を整える。毎日にように彼に会っているからといって、ただやっぱり好きな男と会うのなら、少しは綺麗とか可愛く見られたいし、そう思われたい。


 今日、彼と会うのは夕方くらいの予定だ。

 突然昨日の夜にバイトの子が風邪を引いてしまい、代わりを頼めないかと言われたので、今日は、彼と会うことなくアルバイトに行くことになっていた。

 だから、別に、夕方に行くからね、という約束をしているわけではないのだけど、夕方までアルバイトをした後に、夕方から会いに行こうということ。


 今日も1日、彼に会うことを楽しみにして、バイトに勤しむことにしようと思う。


 バイトの最中、あたしは、終始彼と何をしようかとか何を食べようかなとか考えていた。彼と会う毎日があたしには楽しくて仕方がなかった。きっと、彼もそう思ってくれているはず。そう言った根拠のない自信があった。


 最近は、昔みたいに距離を感じなくなっていると勝手な自覚をしている。あたしにも、なんとなくだけど、彼の気持ちというものがわかってきたんだろうなと嬉しくなってくる。これで彼に少し近づけているということだと勝手に解答を得て、これが根拠のない自信の根拠になっていた。


「今日は賄い、食べて帰るかいなあ?」

「ゴメンなさい。今日は、予定があるので、食べないで帰ります。また、お願いしますね」

「青春かい? 逃すなよ〜! 世界を敵に回せ!」


 と店長兼料理長は、訳のわからないことを言った。しかし、店長は、とても優しく、いつもバイトのお金のない学生に対して賄いをつくってくれる。

 どうやら、店長は自分の料理を作り、美味しいって言ってもらえるのが好きな人種のようで、店長の作る賄いは、美味しいが、ほとんどの量が多い。

 男のバイトの人でも、それは、多すぎると感じてしまうようで、女のあたしの場合にはなおさらに多い。だから、いつもタッパーを持って行って密かに持ち帰ってしまうこともしばしば……。

 きちんと完食したように見せるあたしはこの店では(店長の中では)大食いという扱いになってしまって、さらに多くの賄いの提供を受けてしまっていると言う負の連鎖にまで陥って困っている。


 その“大食い”のあたしが今日の賄いを断ったことを驚き、残念がっていた。

 この様子を見るに、あたしはとても申し訳ない気持ちになるのだけれど、今日は、彼とご飯を食べるこという予定でいるので、ここで食べることは避けたい。だって、賄いを食べるつもりはないので、タッパーを持ってきてない。残すことをしたくないあたしは、大量の賄いを腰を据えて食べることになってしまう。それでは、彼と食べている時に全く食べられないし、彼と会う時間が少なくなってしまう。


 あたしは、急いで、彼の家に向かった。いつも車でバイト先までは来ていないので、汽車での移動になってしまうけれど、それでも、遅くはならないことに安心している。



 あたしは、鳥取の数少ない汽車のダイヤに乗るために走った。なんといっても、ここで乗り過ごしてしまうと、かなりの時間を待たなくてはいけなくなってしまう。田舎というのは、こういうところがなかなか不便。というか、便利なところはあまりないかも。

 でも、必死に走ったのだけど、少し間に合わなかった。目の前で出発してしまった時の絶望感は、東京の比ではない。



「もっと、運行数を増やしてくれればいいのに……、30分はでかいー」



 鳥取の汽車を逃してしまうと、だいたい30分は、身動きが取れない。車文化のこの地方では、本当に不便でならない。

 こんなことはよくあることなんだけど、タクシーで行くには、そんなに急を要するわけではないし、なんとなく運が悪いなと思うことくらいしかない。



 きっちり30分待たされて、汽車に乗ることができたんだけど、確実に30分以上のロスに間違いなかった。


 早く早くという急く気持ちが先行する。


 私は、どれだけ彼のことが好きになってしまったのだろうと、嬉しくもあり、少し照れくさかった。

 目的駅に着き、あたしは飛びだした。彼に早く会いたいという現れだったと思う。スキップでもしそうだった。


 目的駅から彼の住んでいるアパートまでそんなに距離はない。すぐにつくことができる。二階にある彼の部屋をいつもの調子で鼻歌を交えながら、登って行く。


 彼の部屋の前について、あたしは少し身なりを整える。少し、急ぎ足でここまで来たで、髪が乱れていると思い、髪をスマホの画面で整えた。


 これでよし! と思い、私はゆっくりとインターホンを鳴らした。しばらくの時間が経ったが、彼が出てくる気配、もとい、この部屋の中に人がいる気配がなかった。


 あたしは不思議に思い、もう一度インターホンを鳴らしたの。普段の彼ならば、この時間帯はいつも家に言えると思っていた。でも、反応はない。だから、寝ているのかと思って、連続してインターホンを鳴らしたの。


「あれ? 今日は、どこかに行くっているのは、聞いていなかったんだけどな?」


 そう思ってあたしは、彼のケータイに電話をかけてみることにして、電話帳から彼の名前の項目を探した。


「ワ行だから……、スクロールに時間がかかるのよね……。あぁ、そうか、履歴からやればいいのか」


 そんなことを何も考えずにブツブツと言っていたと思う。そして、履歴の一番上にある最新の項目の彼の情報をタップして電話をかけた。



『プルル、プルル、プルルルル』


 誰を呼んでいるのかわからない着信音が、彼の部屋から鳴っていた。どうやら、彼はケータイを置いてどこかに出かけていたと思うほかない。そうだとすると、お腹が空いたので、コンビニにでも食べ物を買いに行ったのかなと考え、すぐに買って帰ってくるだろうと思って、少しここで待ってみることにしたの。



 でも、30分待っても彼が戻ってくる気配なんてない。彼の家からコンビニまで10分程度かかることを考慮すると、さらに彼が帰ってくるという願いを込めて30分あたしは待ち続けた。

 合計して1時間待っても彼が帰ってくることはなかった。だから、あたしは残念だとは思ったけれど、家に帰ることにした。だって、これ以上待っても、ただ闇雲に夜が更けてしまうだけだと思ったし、またいつでも会えるのだと思ったの。


 でも、その考えは違った。あそこでいつまでも待っていればいいと思ってしまうほどに、なんなら、交代のアルバイトのことなんか無視して、その日を彼と過ごせばよかったとあたしは後悔をしてしまう。

 鉄釘をかみ砕くような音がした。

 待っていれば、きっとあたしは彼の影を捉え続けていた、見失うことをしなくて済んでいたのではないかと思う。

 わかっている。これはただの勘違いで、関係がないことくらい……、それでも待っていればよかったと思うの。


 彼は、飛ぶ鳥が落とす羽のようにふらっとどこかに行ってしまうから、見つけるのにも苦労してしまう。


 彼がどこかにどこかに行ってしまった。

 次の日に彼の家に行っても、彼はいなくて、どうしたらいいのかわからなくなった。同じように電話をかけても、彼の部屋から同じように持ち主を探す携帯が虚しく鳴るばかりで、昨日から帰ってきていないのだと予想ができた。


 彼がいなくなったのは、彼の存在に慣れてしまっていたがために、非日常だった彼は、あたしの元からいなくなってしまったのか……。身の程に合わないものを願ったために、彼は夢であるかのように消えていってしまったよう。


 今、あたしは、幸せな夢から覚めた時のような虚無感に支配されてしまっている。覚めてしまえば、それが悪夢であるかのように心に迫る焦りがあった。これが現実であるのだと私にずしりと重くのしかかる。

 それはバカをして、虚しさで埋めていた時のそれとは、まるで違う。

 あんなに幸せだったのに、あんなに楽しかったのに、あんなに美しかったのにあたしの夢は終わりをと突然に告げてしまった。


 彼は、いつもあたしの前に不意に現れては、すぐに消えていってしまう。彼らしいといえば、彼らしい。あたしとの楽しく、美しい思い出を携えて消えていった。


 あたしが彼との約束を守ったから……だろうか。こんなことになるなら、あたしはきっちりと彼との約束を守らなければよかった。そうすれば、あたしたちは違う日々を送ることができたのではないのか。

 楽しかった日々は、永遠に続くことはないことがないのだと物語だけは知っている。


 彼がいなくなってから、1ヶ月ほど経った。その1ヶ月のうちに彼の部屋に灯がともることはなかった。彼の番号があたしのスマホに表示されることはなかった。ただ、確実なことは、扉を挟んだ彼のスマホにはあたしの着信だけで埋め尽くされているということだけ。



 彼が去った日から彼のことを考えない日はなかった。突然いなくなった男をいつまでも想っているようなあたしがそこにいたし、昔のあたしならば、考えられないようなことだった。

 昔のあたしなら、慰めるようにほかの男と無意味なセックスをしていたのだろうが、とてもそんな気分にはなれなかった。


 その代わりに、よく歩いた彼のアパートへの道を繰り返し歩いた、彼と一緒に行った砂丘にも足を運んだ。でも、そのどれもが何か足りないような印象を受けてしまう。彼がいないとあたしの命は、意味のないもののように思えてしまう。

 色鮮やかだった紅葉は、彼と一緒だから色鮮やかになり、あたしを楽しませ、大きな砂丘は、彼といたから、その大きさがわかった。


 ここには、彼との思い出が多すぎる。幸せだった日々を思い出さずにはいられない。

次の投稿で完結します。今日中に投稿します。

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