第二一話 辺境都市ライオトリシア
——辺境と言っても、帝国における辺境は他国との規模感が違う……ライオトリシアは辺境に位置しながらも巨大な都市の一つである。
「ライオトリシアか……」
私は懐かしさを感じる巨大な城壁と、今からくぐり抜ける大きな城門を前に少しだけ緊張していた……なんせ一三年ぶりの帰還なのだから仕方ない。
ゼルヴァイン帝国の辺境地域、それは帝国において少しだけ寂れた地域のことを言葉として表している。
ただこの世界の辺境は、私達が想像するような辺境の言葉とはちょっと違う意味に捉える方が良いのだと私は考えていた。
帝国は今私達がいる大陸の中心部を支配しており、その国土は広大である……ライオトリシアは近隣に周辺国と接する国境には直接面しておらず、比較的安定した大陸北東部に近い場所にある都市だ。
帝国は拡大に次ぐ拡大で、帝都とその周辺そして制圧し同化政策をする侵略地域に多くの予算や投資を実行しており、周辺部の方が発展の度合いが大きくなっており、昔ながらの地域はその発展に使用される投資額が抑えられている。
反乱を恐れていたのかもしれないし、同化政策の都合上そうやって制圧した地域を即時復興させるなどで住民の安定化を図っていた側面があるのかもな。
そしてライオトリシアは帝国としては古くからある地域で、そもそもここには忠実な帝国臣民しか住んでいないこともあって、中央の発展からは少し遅れた状態が続いているのだ。
「わあ……辺境って言葉の割に大きいですねえ」
「まあ中央に住んでりゃ小さいかもだけど……辺境地域としてはかなり巨大な街だと思うよ」
人口はどのくらいだったか……確か一〇万人を超える人が住んでいるのはずなので、前世の基準で考えるなら十分に大都市圏なんだよね、とはいえ帝都に比べれば本当にのどかな生活を送れる場所ではある。
主要な産業は農業と商業全般……地場産の農作物を帝国全土に輸出したり、ワインとかが有名だったり……面白いところでは貴族運営の人形騎士の開発工廠が存在していて、戦争時には人形騎士の生産を一部請け負っていた。
運営しているのはハインケス伯爵家で、この貴族家は代々人形騎士作りに携わっている名門中の名門貴族だったりする。
戦争末期においても戦火に巻き込まれなかったライオトリシアでは大体年間で一〇騎前後の人形騎士を建造してたって話だから結構な生産能力だとは思う。
ただそのほとんどが兵士級だったらしいから、中央に比べるとそこまでの規模ではないかもしれない。
「辺境っていうから村みたいな場所を想像してました」
「まあそう思うよね……ここだけでも結構な人数が住んでいるし、そんなに辺境っていう場所じゃないと思う」
「そうですね……わたくし帝都にずっと住んでいたので、イメージだけで考えていました」
それでも戦争中に訪れた各地の都市ははるかに巨大だったので、それから比べるとやはりライオトリシアは辺境都市なんだなと思わされる。
とはいえこのライオトリシアから一歩も出ずに一生を終える人の方がはるかに多いだろう、実際に私の義両親は帝都に行くことはほとんどなかったと言ってたし。
兄は普通に色々な帝国都市に出ることが多いらしく『うち田舎だからなー』とよく話すけど、あれは彼の感覚がおかしいだけだろう。
城門横には二騎の帝国工廠製の兵士級人形騎士「ケレリス」が槍を手に威圧するかのように立っていた……この機体の特徴的な部分といえば兵士級とはいえ特徴的な装甲板を使っていることだろう。
鉄板を組み合わせて作る前世でいうところのローマ式板金鎧であるロリカ・セグメンタータに似た構造で、装甲板が柔軟性を持って動く構造になっているのと、それほど分厚い装甲ではないため軽量で行動しやすいという特徴がある。
頭部はトサカのような構造を持った兜に見える装甲板を有しており、ほんの少しだけ頭頂高が高く設計されている……ヴォルカニア王国兵はこの機体を『トサカ頭』と呼んでいた。
「ケレリスか……悪い機体じゃないねえ」
「あ、あれ帝都でも見ましたよ」
「帝国で一番普及している人形騎士だからね、操作はしやすいから初心者でも扱えると思うよ」
「わたくしでも動かせますかね?」
「できるんじゃないかな、ロックヘアと比べたらはるかに高性能機だよ、基本設計は古いけどね」
ヴォルカニア王国製ロックヘアが補給部隊へと回された理由……それはこのケレリスが戦場に投入されたことにあるらしい。
一対一では決して勝てないと言われたほど、両機の性能差は隔絶したものがあるそうだ……乗ってみるとまあそうだよなって思うくらいの差は感じた。
建造開始は三〇〇年程前で、結局のところこれも長い歴史がある機体だ……性能は今でも使えるくらい高いが、戦争後期にはこの機体ですら旧世代機と呼ばれるくらいに開発競争が激化していたので、技術の進歩というのは恐ろしいものである。
ちなみに私が搭乗した人形騎士の中で一番長い時間を共にした機体なので、個人的には結構な思い入れがあったりする。
私たちの馬車がゆっくりと街の中へと入っていく……立ち止まることなく入れるのは、御者を務めた男性が特殊な魔道具を持っているからなのだが、それがなかったら足止めは数日にわたって行われるのだろう。
「わあ……帝都ほど高い建物はないんですねえ」
「一番高いのは議事堂じゃないかな」
議事堂……帝国傘下の街には必ず建設される建物で帝国様式の建物としては珍しく、全ての街に建てられる形状が同一となっている。
これは帝国の同化政策で法律によって定められているそうで、ここでは貴族会議員による都市の運営が決められる会議が行われている。
貴族会議員は都市の運営方針を決定する人たちで、私の実家であるリーベルライト男爵家も父と兄が議員を務めていることもあって、一応男爵家は街の名士的な扱いであった。
彼らは都市運営に必要な独自の法律を定め実行する立場にあり、街の各地で陳情を受けてその対応策などを話し合うのだ。
帝政の国であるゼルヴァイン帝国が議会制を敷いている……という可笑しな構造になっているが、これは帝室の絶対的な権力構造だけでこれだけの大国を運営できないという現実的な問題があったりする。
「帝都のとはちょっと大きさが違うんですかね」
「でも構造は一緒だよ……帝都はサイズ感が異常だからね」
「うわあ……あの屋台何売っているんですかね」
パトリシアはもの珍しそうな顔で馬車から身を乗り出してあちこちを見ているが、帝都にずっといた令嬢からすると本当に見たことのないものの連続だろうな。
馬車はゆっくりとライオトリシアの大街道を進んでいく……帝都のものと比べるとはるかに小さい、それでもここまで旅をしてきた郊外の光景を考えると十分に大きな街である。
馬車はゆっくりと目的地へと辿り着く……ギルド運営の乗り合い馬車の駅へと到着すると、スレイプニルが誇らしげにブルルと鼻を鳴らした。
御者とミハエルはほっと息を吐くと、私たちを見て軽く頭を下げた。
「本当にありがとう……アンタらがいなかったら俺たちはここまで来れなかった」
「お互い様さ……でも街道に山賊団が出ているのは報告した方がいいね」
私の言葉にミハエルは頷く……彼は本当に優秀な護衛だったが、人形騎士が出てきたことで無力化されてしまっていた。
だが、脱出には彼の力が必要だったし、私も随分助けられたからな……そっと片手を差し出すと、彼は少し気恥ずかしそうな顔で私の手を握りかえす。
それを見た御者のおじさんも笑顔でその手をそっと重ねる……本当に色々あったのを思い返すように彼は頭を下げると私へと話しかけてきた。
「……リーベルライト男爵家にお礼を言わないといけませんね、命の恩人にぜひお礼をさせてください」
_(:3 」∠)_ 次は実家に行きます
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