第二〇話 皇子様による調査行脚
「そうですか、そうですか……承知いたしました、それでどのような方をお探しでしょうか?」
「そうだねえ……背が高い娘がいいな、僕も背が高いからねえ……小さい娘はかわいそうだ」
グラディスはあくまでも笑顔のまま受付の男性に話しかける……だが後ろに控えているエミリーは顔面蒼白に近い、いつ彼が本性を表して男性を縊り殺すのか気が気ではない。
他の受付嬢はそんな彼女を見て様子がおかしいことに気がつくが、それでも調子が悪いだけだと判断したのか、受付テーブルにある書類へと視線を戻してしまう。
男性はにこやかな笑顔で満足そうに頷くと、書類を取り出すとそういった訳あり女性の項目を調べ始める。
「他にどんな特徴がお好みでしょうか?」
「赤い髪がいいなあ、炎みたいに真っ赤な髪の毛……綺麗だよね」
「赤い髪ですかあ……ほうほう」
「赤い瞳がいいなあ、ルビーみたいな真っ赤な瞳がね、綺麗だと思うんだ」
「赤い瞳……あー、申し訳ございませんお客様、今はそのような人物はいなくて……ただ当てはあるので、交渉を進めることは可能ですね」
受付の男性は至極残念そうな顔で愛想笑いを浮かべるが、『当てがあるので交渉を進める』という言葉にエミリーははて? と言葉の意味が理解できずに眉を顰めた。
グラディスはあくまでも柔和な笑みを崩さずに、うんうんと頷いているが長年の経験からエミリーは皇子が次第に怒りを感じてきているのを察知し、背中にどっと汗が吹き出る。
テーブルで酒を楽しんでいた一部の傭兵達は、異様な気配に少し不思議そうな表情を浮かべているが、まだそれがグラディスが堪えきれずに発しているごく僅かな殺気だとは理解できていない。
それほどまでに彼は隠蔽の技に長けていたのだ……非常にはた迷惑な話ではあるが、彼は天才と言っても良い人物なのだ。
「当てがある? それはどういうことだい?」
「実は先日お好みにピッタリな女、いえ女性がいたんですよ……なのでギルドの支部を使って帝国内にいる場合は探し出せますし、交渉も可能です」
「へえ……それはすごいね」
グラディスの目はまるで笑っていない……だが一見柔和な笑みの中に隠されてしまっており、気がつく人はほとんどいないだろう。
目の前に立っているはずの男性ですら、グラディスの真の表情や感情を読み取れずに嬉しそうに笑っているとしか認識できていない。
エミリーはゾッとしながらも、彼の正体がバレないように心の中で必死に神へと祈りを捧げていた……帝国では一神教である聖教が信仰されており、彼女もまた敬虔な信徒であるためだ。
受付の男性は少しだけ左右を見渡すと、声を顰めてグラディスへとそっと囁く……明らかに何かを企んでいるかのような悪意ある笑顔だな、とエミリーは思った。
「そうですね……もし必要であれば同意を得ずにお手元へと届けることなども可能です」
「え? そんなことしていいのかい? だってギルドは表向き平等を謳っているじゃないか」
「ええ、なので最終的な仕事はギルドではなく、別の組織に頼む予定です……ただ少しだけお金がかかりまして」
「あ、ああ……そういうことかい、ならやってもらおうかな……僕もそういう女性がいないと困っちゃうんだ、ちょっと僕のは大きくてね、相手が簡単に壊れちゃうからさ」
グラディスは笑顔のまま声を顰めて男性へと微笑むと懐から金貨の詰まった袋をそっと取り出し、男性の手のひらへと周りに気が付かれないように押し込む。
その感触で男性はこの商談が成立したと認識したのだろう、満足そうに微笑むと袋を懐へと仕舞い込み……何らかの書類へと文字をすらすらと書き込んでいく。
平民出身でこれほどまでに綺麗に文字を書ける人材はかなり珍しい……その職業に着くまでに彼はどれほどの研鑽を積んだのかは理解できないが、それでも悪事に手を染めるということはギルドの職員だけではまともに食べていけない現実があるのかもしれない。
「仕事はおそらく一ヶ月くらいかかります、きちんと身なり等を整えさせますので一月後、一度状況を確認しにお越しください」
「わかった、朗報を待っているよ」
グラディスは笑顔のまま手を振ると、背後で待っていたエミリーに微笑んだまま着いてこいと指で合図する……すぐに彼らが扉を開けて外に出ていくと、ギルド内にいた人々はすぐにそんな客がいたことも忘れて話に没頭し始める。
ここでは人の詮索をしない、直接的な犯罪行為は咎められるが、それでも揉め事には不可侵という不文律がある程度成り立っていた。
女性職員達は怪しげな笑みを浮かべている男性職員の表情を見て嫌悪感を感じたのか、眉を顰めているがすぐに受付へと別の客が到着したのを見て表情を整えると頭を下げた。
「いらっしゃいませ、当ギルドへようこそ……何かをお探しでしょうか?」
「……おいエミリー……黙って俺を褒めろ」
路地裏へと移動した二人だったが、壁を前に突然立ち止まったグラディスが震える声で、エミリーへと話しかける。
ギルドから出て少し歩いた場所ではあるが、人通りはまるでなく今この路地にいるのはグラディスとエミリーの二人だけだった。
褒めろとは? と一瞬疑問を感じたが、グラディスの肩が細かく震えていることに気がつくと、あっと口を開いてから黙って一度彼の背中へと頭を下げた。
彼があの男性を縊り殺さなかったということを示唆しているのに気がついたからだ……彼女はそっとその場で臣下の礼を取ると彼へと話しかけた。
「殿下……お怒りはわかりますが、よく我慢なされました」
「あの男……よりにもよってアーシャを拉致するとか言ってたな……」
「汚職も甚だしいですね……別の組織とか話しておりました」
「何度頭の中であの男を縊り殺したか……だが、帝国内のギルドも恐ろしい勢いで腐ってきている」
ふうっ……と大きく息を吐いたグラディスはエミリーへと向き直ると、軽く髪をかきあげる……冷徹な光を放つ眼は殺気を抑えているものの、ゾッとする冷たい印象を与える。
ギルドの腐敗は、戦争中からも幾度か議論されていた内容だと聞いている……ギルドは帝国だけでなく、王国など大陸全土に支部を持つ特殊な組織だ。
元々は魔物退治を生業とする冒険者達の組織として作られ、各地で発生する事件を解決するために人材を派遣するというサービスからスタートしている。
初期には犯罪スレスレの仕事なども斡旋していたため、一時期は犯罪組織との癒着も懸念されており何度か帝国政府による介入が検討されていた。
結果的には中立組織である彼らがそういった組織とのつながりを自ら断ち切る自浄作用を働かせ、不正する職員を追い出していった実績があるのだ。
「だけどあれを聞く限り、まともな自浄作用などなさそうですね」
「あれが個人の腐敗であれば良いのだがな……」
落ち着いてきたのかグラディスはため息をつくと、再び柔和な表情を整えてから路地裏より歩き出す……あのギルド職員に待っているのは確実な死だろうが、皇子はおそらく用意を整えてからギルド側へと圧力をかけるつもりなのだろう。
それは帝国の清浄化というお題目はあれど、本心は帝位争いでの駒を増やしていく地道な作業の一つだと考えているのかもしれない。
グラディスはエミリーへとまるで笑っていない瞳で優しく微笑むと、いくぞ、と手招きをした。
「兄上共はこういうことも知らずに帝位に就こうとしている……碌な結果にならん、だから俺が止めることにする」
_(:3 」∠)_ ファンタジーの水戸黄門かもしれない……
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