38 マリーよ、竜に乗れ!
その時、空の向こうから数頭の竜が飛んでくる。
おそらくは、アスランの後続部隊だろう。
「おい、逃げろ!」
アスランが叫ぶが、声が届くはずもない。
アズダハルは巨大な首を振り、竜の部隊に襲い掛かる。
だがさすがはアスラン麾下の精鋭達だった。
竜の部隊は、アズダハルの攻撃を回避しつつ、炎や氷の息吹を浴びせる。
「馬鹿な!なぜ効かない」
周囲から一斉に驚きの声が上がる。
竜の息吹は、アズダハルに跳ね返される。
そして闇竜の息吹が、竜人国の竜達を次々と撃ち落としていった。
その時、上空で声がした。
「闇の力は、お前たちでは破れぬ」
闇竜教団の司祭ロムロをはじめ、数人の集団だった。
薄紫の光の膜をまとい、宙に浮いていた。
「アズダハル様は復活なされた。我らはそのための贄となろう」
ロムロたちは、黒い霧をまとった三つ首の竜に吸い込まれていく。
「そうだ……思い出した……おいらは……」
一部始終を黙ってみていたドラコが、その時ぽつりと呟いた。
マリー達は言葉を失う。
闇の竜は復活してしまった。
自分たちの力は闇竜アズダハルには効果が無い。
「まだ希望はある。竜の首飾りだ。それがあれば闇竜の結界も破れる」
その時ドラコが言った。
今までにないほど真剣な口調だった。
「でも竜珠は銅と銀しかない。金の竜珠はないのよ。全ての力を発揮できないわ」
「いや金の竜珠はあるよ。ここに」
マリーの言葉にドラコは答える。
「何を言ってるの?」
「おいらが最後の金の竜珠さ」
「ドラコ?」
「ドラコなんてもんは最初からいないんだよ、マリー。かつての戦いでバラバラになった光竜の魂のかけら。それがおいらさ」
ドラコがどこか沈んだ声で言う。
「どういう事?」
「この姿を保っていたのはマリーの竜の巫女の力なんだよ」
ドラコは微笑んで答えた。
次第に体が光に包まれていく。
「障壁を破って闇竜に近づき、その弓と矢でアズダハルの闇の竜珠を砕くんだ。おいらの気配を感じて、予定より早く目覚めたんだろう。今ならまだ間に合う」
ドラコは目を閉じる。
「今までありがとな。楽しかったぜ。たまにはおいらの事を思いだしてくれよ。お供え物は……そうだな。ドワーフ芋がいいや」
そう言ってドラコは金の竜珠に姿を変える。
そしてゆっくりと空中を浮遊し、マリーの首飾りに吸い込まれた。
金、銀、銅の竜珠が台座にそろう。
首飾りは虹色の輝きに包まれるた。
マリーは竜の首飾りをそっと握りしめる。
暖かな波動が伝わってくる。
やるべき事は決まっていた。
「アスラン。私を乗せて、あそこまで」
マリーは闇の竜を指し示す。
「マリー……わかった」
「どれ。この爺がまじないをかけてやろう。気休めかもしれんがな」
ハネスがマリーの弓矢を手にして、祈りをささげる。
「みんな、いくぞ。マリーの側を離れるな」
アスランは目を閉じる。
アスランの体は光に包まれ、見る間に巨大な黄金の竜へと竜変異する。
(乗れ!マリー!)
「うん!」
マリーは黄金の竜によじ登りまたがった。
破魔の弓を手に祈りをささげる。
弓はあっという間にマリーの体の半分の大きさになる。
「いくよ、みんな!」
マリーは竜に乗り、空高く舞い上がる。
他の竜人たちも次々と竜変異し、そのあとに続いた。
空は一面、黒い雲で覆われていた。
マリー達は闇竜の元へとぐんぐんと近づく。
アスランの魔法なのか、マリーの竜の巫女の力なのか、風を切って空を飛んでいるが振り落とされる気配はない。
(飛竜の群れだ)
「任せて、アスラン」
マリーは目を閉じる。
降り注ぐ太陽の光を思い浮かべた。
竜の首飾りから虹色の光がマリーの体を包み、辺りへ広がる。
それは飛竜達を覆い、群れはゆっくりと地上へと落下していった。
だがまだ三つ首の竜は、黒い霧でおおわれている。
(マリー、首飾りを天に掲げるんだ)
頭の中に声が響く。
これはアスラン?……いや……
(ドラコ……)
マリーは首飾りを天に掲げる。
首飾りから発する光は、アズダハルを覆う黒い霧を照らす。
そして一瞬で消滅させた。
闇の竜は恐ろしい咆哮を上げた。
三つの首を揺らし、こちらへ襲い掛かろうとする。
だがまだ動きが鈍い。
(予定より早く目覚めたからだ。胴体の中心にあるあの黒い珠を狙うんだ)
再び声が聞こえた。
「アスラン!あの胴体に近づいて!」
(わかった)
アスランは周囲の竜に指示を出す。
(やれやれ。老人使いが荒いのぉ)
この声はハネスのようだった。
アスランの部下の竜は三隊に分かれ、アズダハルの三つの首めがけて攻撃する。
先ほどより攻撃は効いているのか、三つの首の動きは多少鈍くなった。
だがまだ闇の竜は倒れる気配はない。
(いくぞ、マリー)
アスランは全速力で胴体めがけて突進する。
マリーは弓に矢をつがえて射る。
「っつ!」
だが闇の竜珠には命中せず、動き回るアズダハルの首に突きたつ。
アスランは三つ首の竜の攻撃を避け、一旦距離をとった。
「アスラン。あの首を何とかするしかない」
(ああ。さすがに厄介だな)
「あの首はこちらを追ってくる。一度近づいてから反転し、こちらの動きに釣られたところを狙うわ」
(わかった)
アスランは竜の部隊に指示を出す。
マリーの体から発する光は竜たちを包み込んだ。
「これで少しは持つはず。みんな頼んだよ」
竜は三方向から闇の竜を目掛けて再び突撃する。
アズダハルは黒い霧を吐き、迎撃しようとする。
だがマリーの力により強化された竜は、その霧をかわし、跳ね返す。
「アスラン、もっと近く」
(これ以上は危ない、マリー)
だがアスランは、衝突寸前までぎりぎりまで闇竜に接近し、急速に反転する。
他の竜たちもそれにならう。
アズダハルの三つの首は竜をとらえようと別々の方向へと動いた。
「今だ!」
マリーは、離脱するアスランと反対方向に体をひねる。
後頭部から手をまわし、弓をつがえた。
こちらの動きにつられて、アズダハルのがら空きになった胴体にある、闇の竜珠がはっきりと確認できた。
マリーは矢を放つ。
矢は恐ろしい速度で飛び、闇の竜珠へと突きたった。
闇の竜珠は一瞬震えると、砕け散り粉々になる。
アズダハルは耳をつんざくような咆哮を上げた。
マリー達は、断末魔の動きに巻き込まれぬよう、今度こそ全速で離脱する。
やがてアズダハルの体が光に包まれ、粉々に砕け散り、霧となって消え去った。
「やったぁ!」
マリーは会心の笑みを浮かべた。
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