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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第5章

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5-06 窮屈になってきました

今回はケイト視点です。

 自治政府のゴミ処理担当部署の3区へのゴミ投棄を担当する担当者との、定例の面談に行く。

 各回収業者と定期的に面談をして、業者から改善要望を聞いたり、逆に担当者側から情報提供や通達などする事になっている。


 他の業者との面談は『もっと未処理ゴミの投棄を増やせ』とか、自分達の都合を一方的に聞かされる場になってしまって疲れます、とその担当者、ローモンド事務官は言っていた。

 だから私はお茶菓子を用意し、事務官にはお茶を用意してもらって、ローモンド事務官の愚痴を聞いたりもしながら和やかな場にすることを心がけている。

 お茶を用意して貰うのは、お互いに等価の者を持ち合う事で癒着を疑われるのを防ぐ意味合いがある。

 業者と担当者の癒着や贈収賄は厳しく罰せられるけど、持ち合ってお茶会をする位は許されるところが程良くていいと思う。


 実際に3区に行く事があまり無いローモンド氏に、こちらからは3区での活動の様子や、私の顧客――ガストン氏などの、回収した素材や加工品の販売先――から得たゴミ処理に対する要望などをお伝えしている。他の業者はそんな事は面談では話さないらしく、彼からは取引先の生の声が聞けると、とても感謝されている。

 お陰でローモンド氏からは政府側の動向をいち早く聞けたり、私達の宇宙服の持ち込みを許可して貰ったり――他の業者は政府側から宇宙服を借りている――など、色々便宜を図って貰えたりしている。



 エインズフェローさんとの面談が楽しみです、と話していたローモンド氏だが、その日は顔色が悪かった。


「実は、3区の警備が増やされる事になりました。久々に予算増額が認められたと思ったら、その増分が全て警備の増員に回ってしまったんです。

 前にお話しした通り、警備の人員は軍の予備役とか退役軍人なんです。

 あんな何もない所で一体何を警備するのか。どうせ、退役軍人の年金不足で仕事を作っているのでしょうけど、年金だってここの仕事だって、元が税金なのは変わらないのに……。」


 警備の人員が増員する……それを聞いて、私は准将やトム氏が行っている3区への調査に対する、侯爵の警戒レベルが上がった事を感じました。この間の処理装置の中でメグちゃんがオクタを回収したことも、関係しているのかもしれません。

 つまり、私やマルヴィラがゴミ置き場の奥で好きに動けている現状も変わる可能性があるという事です。


「警備を増やして具体的にどんな事が変わるか、何か情報は出ています?」


「いえ、単に増やすとしか……あ、そういえば、巡回もするようになるそうです。逆に今まで何もやってなかったのか、と呆れました。」


 巡回、という事は置場の奥の方も警備の手が回るという事ですか。

 これは私達が警戒されているようですね。


「監視カメラを設置するなんて話も挙がりましたが、エインズフェローさんから聞いている以外のトラブルは無いですし、予算も限られているので、カメラの設置は課長が断固反対して立ち消えたみたいです。

 エインズフェローさんが別に要らないと言うから、カルテルの話は放置していますが……本当に取り締まらなくて良いんですか?」


「男性の業者に無理やり横取りをされなくて済みますから、今の様に他の業者には新しいゴミからの回収に専念していただく方が、私としては都合が良いのです。他の問題が起きない限りは、そのままでお願いします。」




 面談から帰って、マルヴィラに3区の警戒レベルが上がった事を伝えました。


「そうしたら今までの様にメグちゃん達に会えないかもしれないわね。」


「そうなの。

 物々交換だけなら、お互いにコンテナに埋める事で出来ると思うけど、それだけだとメグちゃん達を取り残しそうで。彼女達と連絡を取り合う他の手段を持たないといけないわ。」


 見捨てられたとメグちゃん達に思われてもいけない。


「テキストメッセージを、こっちからも送れるようにしてもらう?」


「それは通信量が増えて、傍受される危険が高まるだけよ。

 通信を介さない、もっとアナログな……例えば、手紙はどうかしら?」


 ふと思い付いたけど、手紙って意外と悪くないんじゃないかしら。

 メグちゃんは手紙を書いたことは無いだろうけど、それは彼女にとっても良い影響になるかもしれない。


 マルヴィラと話し合った結果、メグちゃんの情緒を育てるのにも良さそうだと賛成してくれた。手紙を交換する前提で準備していこう。




 その後、宅配業者に扮した連絡員から待ち合わせ日時と場所が書かれたメモを受け取り、指定された日時に0区のとあるレストランへ向かった。

 個室に通され、しばらく着席して待っていると、女性の給仕がクロスのかかった大きなカートに料理を載せて中に入ってきた。よく見ると、給仕はあのマークのピンバッジを襟に着けている。

 給仕が個室のカギを内側から掛けるとマルヴィラが立ち上がるが、大丈夫だと彼女を手で制する。

カートのクロスが下から捲り上がり、カートの中から女性が出てきた。背格好は私に似ていて、今日の私と似たような服装を着て、私と同じ髪色の鬘を被っている。


「ケイトさんですね。

 貴女方には政府側の監視が付けられているようですので、申し訳ないですが、私の代わりにカートに入って頂けますか。上官の所までお連れします。

 マルヴィラさんは、申し訳ないですがこちらでお待ちください。」


 そう給仕から指示され、私はカートの下に入る。

 その後仕入業者の荷物に紛れてレストランを出て、仕入業者からホテルの裏口へ、そして以前准将達と面会したVIPルームまで案内された。


 VIPルームで再びハーパーベルト准将とトム氏と面会した。

 そこでシャトル発着場奥にあると言う軌道エレベーターまでの道の調査と、出来れば制御室の確認を行って欲しい、という依頼内容を聞いた。

 私からは、3区の警戒レベルが上がる情報を入手したので、直接会って話せない可能性がある事を伝えたところ、依頼内容をデータで渡せるようにしたいので協力して欲しいと言われた。

 具体的には、3Dプロジェクターで映しながら依頼内容を私の声で話し、それをメモリカードに入れて渡すと言う事で、その場で吹き込みを行った。

 調査に使用する小型の探索機械と操作用のセットを、メモリカードと共に後日連絡員が届けるとの事。



 再び連絡員の手引きで裏からレストランに戻り、私の振りをしていた女性と再度入れ替わる。給仕に扮した連絡員がカートを押して出ていって、漸く気分が落ち着いた。

 テーブルの上には、コース料理の最後のデザートだけが残っていた。


「漸く緊張から解放されてお腹が空いたけど、デザートしか残ってなくて残念だわ。」


「残りの料理は替え玉の人が食べちゃったけど、代わりに何か家に届けてくれるってさ。」


 家に帰って暫くしたら、ローストチキンとサラダ、温かいライスが冷凍食品の通販の箱で偽装されて届けられた。




 案の定、次の3区へのシャトルでは警備の人員が増えていた。いつもの様に私達がゴミ置き場の奥に向かうと、マルヴィラが何かテキストメッセージを受け取った様で、角を曲がってすぐヘルメットをくっつけて来た。


「警備が何人か着いて来ているって。」


 それだけ言って元の様に歩き出す。

 それから幾つかのコンテナを開いてスキャナーを動かし、隠していた素材を取り出してゴミの山から拾った振りを何度かして警備の目を誤魔化した上で、あるコンテナでゴミの山を掘り抜けて反対側へ抜ける事で、後をつけていた警備を撒いてメグちゃん達に会いに行った。


 恐らくこれから更に監視が強くなるため、しばらく会えない事をメグちゃんに伝えると、明らかに落胆した。

 私達がメグちゃんを見捨てる訳ではない事を説明し、手紙交換の話をするとメグちゃんはホッとした様子で、頑張って手紙を書くね、って言ってくれた。




 VIPルームで准将やトム氏と打ち合わせた次の依頼については、その次の3区行の前に受け取ったので、荷物をゴミに紛れさせて小父さん達に引き渡した。それから何回か後でメモリカードが返ってきた。


 中身は探索機に搭載した360度カメラの画像データなので具体的には確認していない――普通に手に入る家庭用の再生機では再生できない――けど、シャトル発着場の向こう側は警備が厳しくて普通の道は行けなかったみたい。

幸い空調ダクトの中は無警戒だったので、そっち側でルート確保した、と手紙には書いてあった。


 返ってきたメモリカードは、宅配業者に扮した連絡員に託した。メグちゃん達の依頼通り下に降りて調査するところまでは協力出来ない事をメモに書いて添付した。


 連絡員からもメモを受け取った。

 そこには、まだ侯爵側の監視の目が強いので、当面は今のまま、直接向こうと接触しない事。向こうへの物資の供給と次の作戦は、またやり方が決まり次第連絡する事。3区では警備の人員に十分気を付けて欲しい事。そして私達も何か困ったことがあれば連絡して欲しい事が書いてあった。

 窮屈だけど、しばらくこの状態を続けるしか無さそうね。


 警備の人員は、最初だけは離れてついて来ただけだけど、その次からはすぐ後ろに着いて来て、時々口を出すようになってきた。

 スキャナーを取り上げられそうになり、マルヴィラが怒って警備の人と口論になったこともある。その時は、実家の試作品だという事を説明した上で、機能を説明し、政府に持ち込み許可を貰っている事を伝えると、その警備の人は渋々ながら引き下がった。




 それからも3区へ行く度に物品と一緒にこちらの手紙をゴミに忍ばせ、メグちゃん達から劣化素材や、メグちゃんや小父さん達からの手紙を受け取っている。

 手紙を書いて自分の気持ちを言葉にすることで、隠れた気持ちに気付けた、私やマルヴィラも小父さん達と一緒位大事なんだって気付いた、と伝えてくれた時は嬉しくて、マルヴィラと一緒に手紙を読みながら涙した。メグちゃんに『受け入れてくれて有難う』って返事を書くときに、涙があふれて便箋を何枚か駄目にしてしまったくらい。


 マルヴィラはライトさんから手紙を時々貰っている。中身は『メグちゃんに料理を教えてくれて有難うとか、こんな料理を教えてやって欲しいといったリクエストが多いわ』って言っていた。

 もしかして、ライトさんはマルヴィラに気があるのかしら?

 ライトさんには、マルヴィラから時々焼酎を差し入れしているみたい。


 他にも、時々グンターさんやセインさんから私宛に手紙が書かれている。

 グンターさんは、金属加工について私が質問した事に対する技術的アドバイスが多い。こちらからはお礼と追加の質問を手紙に書いている他、お礼で時々彼の好きなウィスキーを買って贈っている。

 

 セインさんからは、メグちゃんの事で色々相談を受けている。一度だけ『無事に脱出できた後で、ケイトさんに相談がある』って書いていたことがある。それきりその話題は出ないけど、あれは何だったのでしょう?

 一度彼が好きだと言っていたブランデーを贈ると『大事にします』って返事が来たけど、そんなに大事にせずにちゃんと飲んで欲しい。折角小父さん達のモチベーションアップのためにお酒を贈ってるのに。そう思ってマルヴィラに愚痴を言ったら。


「……まあ、モチベーションアップにはなってると思うわよ?」


 と、何とも微妙な顔をしながら返された。


いつもお読み頂きありがとうございます。


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