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シルバーナイト!  作者: 三流
シルバーナイト&エレメントウェポン ウェルカム・トゥ・ザ・ラスト・キングダム 
46/55

チャプター4

 エレメントウェポンはマンティコアの初撃をかわし、そのまま懐へ入り込み真一文字に胸を切り裂いた。


 切り裂かれながらマンティコアは目の前にいるエレメントウェポンに噛みついてきた。


 マンティコアの噛みつきをすんでの所でかわしたエレメントエポンはお返しとばかりに氷剣で切りつけにいく。


 しかしマンティコアの動きは予想以上に早く、後ろに飛び退かれて回避された。


 エレメントウェポンは走って追いかけたが、間合いに入る前に長大なサソリの尻尾が勢い良く伸びてきた。


「ちぃっ!」


 エレメントウェポンはサイドステップで尾をかわし、猛スピードでマンティコアへ駆け寄り炎剣で前足を切りつけた。


 炎剣は前足の毛皮とその肌を焼き、肉を深く切り裂いた。


「ガアアア!?」


 マンティコアは前足に生じた痛みにたじろいだ。彼は生まれてから一度として戦いで血を流したことがなかった。すべて一撃で敵を殺してきたからだ。


 だからこそ初めて経験した激痛はマンティコアから冷静な判断を奪い去った。


 いける!


 エレメントウェポンは敵が互角の敵との経験の少ない個体だということをこの攻防で見抜いた。畳みかけるなら痛みで混乱している今だ。


 相手は魔獣だ。何をしでかすか予想できない以上、一気に終わらせられるに越したことはない。


 彼女は瞬時にマンティコアの左脇に移動し、野球のバットのように両手で握った炎剣を振りかぶり左前脚を切り飛ばした。


「ギャアアアアアア!!?」


 左前脚を切り取られた激痛で大口を開けて叫ぶ顔面をエレメントウェポンは蹴り飛ばした。


 蹴り飛ばされてひっくり返ったマンティコアは痛みに悶絶して身を揺すって悶えた。


 エレメントウェポンは腹の上に飛び乗って馬乗りになり、渾身の力を込めて炎剣を振り下ろした。


 彼女は少し魔獣というものを過小評価していた。長い戦闘で判断力が落ちてもいた。


 突如マンティコアは腹の上で馬乗りになっているエレメントウェポンに顔を向け、大口を開けた。


 その大口から何かが吐き出された。


「うわ!」


 彼女は咄嗟に炎剣で吐き出されたものをガードしたが、受けきれずに弾き飛ばされ地面を転がった。


「何を……ぐっ!?」


 頭を振って起き上がり、マンティコアを見据えようとして突如激痛が走った。


 吐き出されたものは溶解液だったようで、それを浴びせられたコートはしゅうしゅうという音とツンっと鼻につくにおいを漂わせていた。


 防具生成で作ったコートを着ていなければドロドロに溶かされていたことだろう。


 かろうじて剣でガードしたがそれでもコートは少し溶けてしまっていて、直撃した腕の部分は完全に溶けていて皮膚に火傷のような赤い跡ができていた。


「くそ…っ!」


 毒づき、防具生成でコートを修復しながらマンティコアへ向き直り、驚愕に目を見開いた。


 はじめは彼女が真一文字に切り裂いた胸からだった。しゅうしゅうという煙を立てながら深い切り傷が完全にふさがった。次に右前足が同様にふさがり、最後に失われた左前脚から肉の芽が伸び、湿った音を立てて完全に再生した。


「oh…」


 ひっくり返った体を戻し、ぶるぶると体を震わせるマンティコアを見て彼女はつい呻いた。


「この野郎、傷が治りやがった」

『またとんでもないのが出てきたもんだね』

「どうするよ」

『この手のタイプは再生が追い付かないレベルの火力で一気に終わらせるに限るね』

「だよな、でもそれは」

「ふはははははは、いいぞマンティコア!そのままエレメントウェポンを溶かしてしまえ!」

「ギャアアアアアア!」

「その隙をこいつがくれたらの話だがなぁ!」


 エレメントウェポンは叫び、マンティコアのとびかかりを横に跳んでかわし着地際めがけて3連続で炎剣を投げ放った。


 マンティコアはサソリの尾を振るって炎剣を弾き、エレメントウェポンへ溶解液を吐きかけた。


 エレメントウェポンは溶解液をジャンプして避け、そのままマンティコアの頭上まで跳び顔面を両断すべく炎剣を振り下ろした。


 マンティコアは頭を傾けて炎剣をかわし、いまだ滞空しているエレメントウェポンを尻尾の一撃で叩き落した。


「ぐぅっ!」


 何とか受け身をとって地面にたたきつけられるのは避けたものの、大きな隙をさらす羽目になってしまった。


 それを逃すほどマンティコアはのろまではなかった。先ほどの傷は治ったもののダメージを負わされたという怒りは消えてはいなかった。それどころかより一層膨れ上がった怒りを込めた一撃を彼女めがけて叩きつけた。


 前足で思いっきり蹴り飛ばされたエレメントウェポンは木々をなぎ倒しながら吹っ飛んだ。


「っっ~~~()え!!!!」


 体が小さく軽いことも相まって彼女は何十メートルも吹っ飛ばされた。


『うわわわわ、杏ちゃん平気?生きてる!?』

「ったりめーだ畜生め」


 エレメントウェポンは体の痛みを何とか抑え、ゆっくりと立ち上がりながら怪我の具合を確認した。


 全身がしこたま痛むが、特にわき腹の痛みがひどかった。あばら骨にひびが入ったかもしくは折れているかもしれない。


 なんにせよ不利な状況になったことは間違いない。


 魔力の量も心もとないし、怪我も増えた。対して向こうは万全な状態で更にバカみたいな回復力まである。


 ここからどう打って出るか考えていると、不意にジェシカがあることをつぶやいた。


「あれ、今じゃない?」

「あ、何がだよ?」

「だからほら、再生が追い付かないレベルの攻撃、今ならそれ、できるよね」

「は?……あ、そっかぁ…」


 マンティコアは今の一撃で勝利を確信していた。今までの人間(雑魚)たちとは違い多少は粘ったが、それでも結局は自身の再生能力の前には無意味だった。


 彼は満足そうに一声鳴いて体の力を抜こうとしたが、彼にテイムを施した魔族兵が死体を確認するまで気を抜くなとうるさく叫ぶ。


 マンティコアは煩わしそうに魔族兵を一瞥し、渋々といった足取りでエレメントウェポンが吹っ飛んでいった方へ歩いて行った。


 太陽は完全に沈み月明かりが照らす暗闇の中、マンティコアはあたりを見渡した。


 攻撃は完全に入った。さっきよりも濃くなった血の匂いがその考えを保証する。


 しばらく集中して居場所を探るために鼻と耳に集中していると微かに音が聞こえた。音のしたほうへ顔を向けると、見つけた。暗くてよく見えないが確かにそこに人間が立っていた。


 その人間は大きなダメージを感じさせる荒い息を吐いていた。


 思った通り。マンティコアはほくそ笑み、ゆっくりとした足取りでそちらへ向かう。近づくにつれ血の匂いも濃くなってきた。


 マンティコアはもう勝った気でいた。彼は知らなかった。追い詰められた者ほど恐ろしいのだということを。


 だから気づけなかった。彼の前に対峙する人間の浮かべている感情が恐怖ではないことに。


 エレメントウェポンは両手を組んだ。祈るように。そして彼女は言った、光あれと。


 すると彼女の体が光りだした。


 その光量はすさまじく、夜の闇を切り裂き真昼間のように周囲を照らした。彼女の至近距離にまで近づいていたマンティコアは圧倒的な光に目を焼きつぶされたたらを踏んだ。


 その後ろからおっかなびっくりついて来ていた魔族兵たちもあまりのまぶしさに目を細めた。


 光が弱まって、前方を向く。


 今度は彼らが驚かされる番だった


 エレメントウェポンは全身から淡い光を放っており、光の剣を両手で握っていた。何よりその身にまとう覇気が先ほどとは比較にならないほど増大している。


「フゥーッ…これがあたしの「光」だ」

「な、なんだそれは」

「闇も光もめちゃくちゃ強いんだけどさ、なかなか扱いが難しいんだ。そのうえ燃費最悪」


 彼女は質問に答えず語り続ける。


「闇が広範囲の大火力攻撃なのに対して光は白兵戦特化の」


 瞬間、エレメントウェポンの姿が掻き消えた。


「身体超強化だ」

「なっ――――――!」


 一瞬で魔族兵の懐に入り込んだエレメントウェポンは二の句を告げさせる前に光の剣を一閃、3人をまとめて両断した。


「ガァ!?」


 魔族とのテイムの繋がりが途絶えたとこでマンティコアのすべての機能が弱体化。突然の事態の変化に経験の浅い彼はいまだ事態が呑み込めないでいた。


 エレメントウェポンはいまだ事態をつかめていないマンティコアへ一気に接近、マンティコアは慌てて迎撃の尻尾を突き出したが彼女はあっさりとその刺突をかわし、ついでとばかりに尻尾を細切れに切り刻んだ。


 尻尾を刻まれ、苦悶の表情で悶絶するマンティコア。その周囲をエレメントウェポンは加速しながら旋回する。旋回しながらエレメントウェポンはマンティコアの四肢を切り飛ばした。


 達磨になったマンティコアは何とか傷の再生を試みるも、完全に再生しきる前にとどめの一撃が飛んでくるほうが早かった。


「こいつでくたばっちまえ!」


 4回ほど旋回し、加速が最高潮に達したときついにエレメントウェポンはマンティコアへ飛び出す。


 マンティコアは苦し紛れに溶解液を吐き出すも、溶解液が地面に落ちるころにはエレメントウェポンはマンティコアの背後にひらりと着地していた。


 エレメントウェポンの着地の一拍子遅れてマンティコアの首がずれ落ち、そのあとに全身が細切れなって爆散した。


「これで…終わったか…?」


 彼女は油断せず周囲を見回す。


『うん、反応なし、今のデカブツで最後だね』


 ジェシカが敵がいないことを確認し、そのことを脳が完全に理解したとたんエレメントウェポンはどっかりとその場に腰を下ろした。ことが終わったと認識したとたん疲れや痛みがどっと襲い掛かってきた。


 周囲に血と臓物の放つむせかえるような臭いが漂っているが、それを気にできないほど彼女は疲弊していた。


「体痛ぇ…疲れたぁ~…」

『お疲れ、今こっちへ転移させるからもうちょっと待ってね』

「おう頼む、もう魔力も体力もカラカラだ」


 それからしばらくの間その場で待っていると体がぼんやりと光始めた。送還の兆候だ。


『はいはーい転送の準備完了!今から転送するね!』

「ああ~早く飯食べて風呂入って寝たい!」

『うん、仕事が終わったらすぐご飯にしようね』


 そんな話をしながら杏は一足先に戻っていった。




 ---------------------------



 空を埋め尽くすエアホークの編隊が狂ったように空気弾を吐く。


 シルバーナイトはそのすべてをかわしながら瞬く間にグリフォンとの距離を詰め殴り掛かった。


 グリフォンはその巨体に見合わぬ敏捷さでよけ、前足で切り裂こうとする。


 シルバーナイトは腕を掲げて前足を防ぎ、アッパーでグリフォンの下顎を打ち抜いた。


「ぬんッ」

「ゴギョッ!」


 吹っ飛ぶグリフォンに追い打ちをかけるため走るシルバーナイト。しかしそれは上空のエアホークの吐き出す空気弾に阻まれた。


 シルバーナイトは舌打ちして空気弾をバックステップでかわし、狙いをグリフォンではなくエアホークたちに定め銀弾をばらまいた。


 散弾のようにばらまかれた銀弾はエアホークに命中すると小爆発を引き起こし、空を覆っていたエアホークをすべて叩き落した。


 時間にしてほんの1、2秒のことだったがグリフォンはそのわずかな時間で体勢を立て直し、翼を広げて空へ飛び立った。


「逃がすか」


 シルバーナイトも同じように飛び上がり、その後を追う。



「おおっ!」


 空を縦横無尽に飛び回るグリフォンの動きを見極め、その進行方向を予測しながらシルバーナイトは銀弾を連射した。


「キャアアアアアア!」


 グリフォンが金切り声を上げながら銀弾を縫うようにかわす。


 陸ならともかく空での動きには向こうに一日の長があるようだ。遠距離から撃っているだけでは倒すのに時間がかかりそうだ。負けるような相手ではないが、どうにかして地上に引きずりおろさなくては時間がかかってしょうがない。


 これからどう攻めるか考えていると通信があった。


『報告だ、魔獣の大群の接近を確認』

「なるほど、今の叫びは魔獣を呼び寄せるものか」


 シルバーナイトは合点がいき、魔獣がやってくる方向に顔を向けた。魔獣の大群があげていると思しき土煙が空からだとよくわかった。


 彼は知らなかったが彼が魔獣の大軍を引き受けたことでエレメントウェポンのほうへ魔獣がいかなかったのだ。だからこそ彼女は横やりを気にすることなくマンティコアと戦えたのだが、それはまた別の話。


「ならなおさら時間はかけられんな」

「キャアッ!」


 そうこうしているうちにグリフォンは彼の周りを大きく旋回、新たに呼び寄せたエアホークとともに空気弾を見舞った。


 360度全方位からシルバーナイト目がけまっすぐ飛んでいく空気弾は、しかし彼に当たるよりも前に何かに阻まれた。あまりにも高まりすぎたフォトンエナジーは一定以下の威力の攻撃をすべて弾いてしまうのだ。


「おら鳥野郎、お返しだ!」


 空気弾を防いだシルバーナイトはすかさずフォトンエナジーでできたバリヤーと自らのフォトンエナジーを収縮、瞬間的に開放して大爆発を引き起こした。


「ギョッ!?」


 グリフォンは咄嗟に前方にエアホークを強制的に固まらせて衝撃をやわらげ、その隙に爆発範囲から間一髪で逃れた。


 しかし逃れた場所にはすでにシルバーナイトが回り込んでいた。


「そおい!」

「ケーッ!?」


 シルバーナイトの飛び蹴りがグリフォンの胸に突き刺さり、きりもみ回転してぶっ飛ぶグリフォンに一気に距離を詰めとどめを刺そうと突っ込むが、突然目の前に大きな物体が飛んできた。


「あぁ?」


 シルバーナイトは眉を顰め、下方を仰ぎ見る。


 どうやら呼び寄せた魔獣が到着したようだ。バフォメットやブロウクンベアーを筆頭に魔獣たちが手近の木や石を手に取り対空砲よろしく投げつけてこちらを叩き落そうと躍起になっていた。


『どうする?』

「グリフォンが復帰する前にあいつら全員排除する」


 言って、シルバーナイトは飛来する木や岩をかわしながら地上に降り立ち、魔獣たちが反応するより早く地面に両手をついた。


「銀刃乱木!」


 そこでようやく魔獣たちはシルバーナイトがいることに気づき、慌てて攻撃を加えようとするも時すでに遅し。地面から次々と銀刀が生え、銀刀に体を貫かれ瞬く間に魔獣の大群を殲滅した。


『お見事』

「まだだ」

「キーッ!」


 ダメージから復帰したグリフォンの急降下攻撃を防ぎながらシルバーナイトは再び空へ飛び上がった。


「キュアアアアアア!」


 グリフォンは怒りの雄たけびをあげ、急旋回して再びシルバーナイトめがけて突っ込んできた。


 シルバーナイトはよけることなくその突進を真っ向から迎え撃つ。


 グリフォンは頭に血が上って仲間を呼ぶとか遠距離から攻撃といった手段を使う考えは頭から吹っ飛んだようだ。わざわざ向こうから近づいてくれるのだ。このチャンスを逃しはしない。


 空中で何度かの切り結びのすえグリフォンの攻撃パターンを見切ったシルバーナイトは、至近距離からの空気砲を横に飛んでかわし、背後へと回り込んだ。


 グリフォンの反応速度を振り切ったシルバーナイトは両手を組み、無防備な後頭部へ振り下ろした。


 すさまじい勢いで地面に落下したグリフォンは隕石のような勢いで地面に衝突し、クレータを作り上げた。


 クレーターの中心で虫の息で手足をばたつかせて藻掻くグリフォンの傍らに降り立ったシルバーナイトはグリフォンにとどめを刺すべく、拳を振りかぶってタメを作った。


 握りしめられた拳がミシミシと音が鳴り、さらに腕全体をフォトンエナジーが包み込んだ。


 その様を見たグリフォンが恐怖に目を見開きながらなんとか離れようと足掻いた。


「銀我!」


 ついにタメが完了したシルバーナイトはグリフォンの頭に必殺の一撃を振り下ろした。振り下ろす際、肘からジェット噴射のようにフォトンエナジーが噴き出して攻撃を加速させた。


「流星!!」


 鉄槌じみた攻撃はグリフォンの体を打ち砕くだいただけでなく、半径数百メートルを吹き飛ばす大爆発を引き起こした。


 爆発が晴れたときその場に立っていたのは銀色に輝く騎士だけだった。


 周囲に敵はなく、耳を澄ましても聞こえるのは風の音だけ。


『敵戦力の消失を確認、本日の作戦はこれで終了だ』

「ふぅ…一日目からこれかよ…」


 静寂が支配するもとは森だった更地に、シルバーナイトの呟きが虚空へと溶けてゆく。


 長かった1日がようやく終わりを告げた。


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