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シルバーナイト!  作者: 三流
シルバーナイト&エレメントウェポン ウェルカム・トゥ・ザ・ラスト・キングダム 
43/55

チャプター1

 ロドニーでの戦いから約一ヶ月が経った。


 アイフ王国は未だロドニー王国の支援を行っており、魔族に占領されたアクアランドに攻め入る様子はなかった。


 本来の計画では1ヶ月経ったら強制的に復興支援を打ち切って、勇者をアクアランドへ攻めさせる手筈だった。


 だがそれを不服とした勇者一行のリーダー的存在である光が国王が気を許している数少ない人物の一人であるビリア王女の補助の元、何とか国王に復興支援の打ち切りを撤回させることに成功していた。


 さらに光は王へ勇者たちに復興支援の手伝いをさせること、かつその期間を延ばすこと、自分たちが攻めている間に復興支援を続けることを約束させた。


 だからこそ勇者一行は1ヶ月過ぎてなおロドニー王国に復興支援のために留まっていたのである。


 しかし、自分たち勇者が復興支援に費やす時間を延ばせばそれだけ魔族に占領されている国の人たちを放置することになってしまう。


 勇者としての使命を任されている光からすれば一刻も早くアクアランドへ攻めていきたいが、未だボロボロのロドニー王国も放っておくことができなかった。


 他者をいたぶれないため今にも誰かを殺してしまいそうな加間を何とかなだめながら、光と滝沢は限られた期間の中ただひたすら働いていた。


 自身の力のなさに歯噛みしながら。


 そんな中、興支援で戦いに出られない勇者たち一向とは別に、アクアランド国境付近で一足先に戦いを始めている者たちがあった。


 太陽の光がさんさんと降り注ぐ森の中、木々の陰から蔭へ素早く移動するオオカミの編隊、それに追従する魔族兵数名がやや離れて周囲を警戒していた。


「―――――――――――――――!」

「―――――――――――――――?」


 互いに何かを言い合う魔族兵たちだが、先行させているランペイジウルフたちがやにわに騒ぎ出したのを境に狼狽えたように周りを見回しはじめた。


 その一角、彼らの前方から光を発しながら猛スピードでこちらに向かってくるのが確認できた。ランペイジウルフたちはそちらに向かって狂ったように吠えていた。


 真正面から突っ込んでくる銀の閃光。然り、銀色の光だ。そんな光を発するものは一人しかいない。その正体がなんであるか気づいた魔族兵たちは指をさして喚きだした。


 そうこうしている間に銀の閃光はランペイジウルフの眼前へと迫っていた。あまりの素早さに誰も反応できなかった。


 ランペイジウルフのうち一頭が突っ込んできた銀の閃光にバラバラに引き裂かれた。味方が殺されてようやく反応できた魔族たちだが、動く間もなく飛び散ったランペイジウルフの残骸が頭上から降り注ぎ、出鼻をくじかれその場で足踏みをした。


 銀の閃光はその隙を突き瞬く間にランペイジウルフの編隊を皆殺しにし、あっという間に魔族兵たちとの距離を詰めた。


「う、うわあああああ!」

「ぬんっ!」

「ギャア!」

「ひいいいいいいいい!」

「だあ!」

「アバッ!」


 瞬きする間で仲間が殺され、絶叫しながら後ずさる魔族兵にその者はゆっくりとした足取りで歩み寄った。


 銀色の全身鎧。足元から湧き上がる装甲と同じ銀の光を身に纏い、唯一覗ける生身の部分である瞳には決断的な殺意が炎のように灯っていた。その瞳も銀色だった。


「ああああああああああああああ!?」


 魔族兵は叫んだ。今まで蹂躙する側だった自分が、蹂躙される側になったことへの恐怖のために。


「お前は!お前は!ああ!」


 魔族兵は叫んだ。己を殺そうとする者の名を。己を蹂躙者から引きずり下ろした者の名を。







「シルバーナイト!」



 騎士は一切の慈悲なく魔族兵の頭を叩き潰した。






 ----------------------------



 しばし時を遡りる。


「いいか?まだ我々はアクアランドへは入らん。入るにはまず国境付近の安全を確保しなければならん」


 アルバートは転移魔方陣の上に立つ健斗と杏の二人に語り掛ける。


「アクアランドにはまだ楔打ち込めてないんだ、だから転移陣の起点になる楔を国境付近に打ち込みたいんだよね!だから国境付近の安全の確保!頼んだよ!何より他の人も通れるようにしないとね!」


 アルバートの話にジェシカは付け加えた。二人は頷く。


「1ヶ月ぶりの作戦だ。へましないように慎重にいかないとな」

「おっしゃあ!やってやるぜ!」


 二人のやる気に満ちた姿にアルバートは満足げに頷き、ジェシカに目配せした。


「あいあいさー!」


 ジェシカは屈みこみ、魔方陣を起動させるために魔力を注ぎ込んだ。


「あ、そだ、健斗、どお、着心地?」


 その際、ジェシカは健斗へナイトの着心地について聞いてきた。


「うん、前よりずっと良くなってる気がする。流石だよ」

「うんうん、昨日徹夜で最終調整したんだよ!そう言ってくれてうれしいよ!」


 話をしているうちに魔方陣が完全に起動し、光が二人を包み込んだ。


「もし余裕があれったら魔獣の肉をいくつか持ち帰るぜ」

「じゃ、行ってく」

『――――――――――――――――…。』

「――――――――――ッ!」


 杏は二人に消える前に一言言い残し、健斗も彼女と同じように飛ばされる前に一言発しようと口を開いたが、直後に目の光景が消し飛び、ここではないどこか別の光景が視界の前に広がった。


(なっ…!?)


 視界が切り替わったのはほんの一瞬の出来事のことだった。突然のことで驚いて瞬きをした時には視界が元に戻っていた。


(今のは…?)


 今起きた現象について健斗は思考を巡らせようとしたがそれもかなわず、考える間もなく健斗は杏とともにその場から消えた。


 二人が消えたのを確認したジェシカとアルバートも自らの定位置につき始めた。




 -----------------------





 転送された杏はまず周囲を警戒し、周囲が安全であることを確認しながら同じように飛ばされた健斗へ声をかけた。


「おしっ、無事転移完了だな。周囲に敵はいなそうだけど…どうだ?なんもなさそうか?」

「――――――――――」

「シルバーナイト?」


 声をかけても返事がない上に硬直している健斗に疑問に思った杏は再度声をかけた。


「おーいナイトさーん!」

「ん?あ、ああ、うん、…うん?あれ?もう転移終わってた?」

「おいおいおい大丈夫か?」

「平気さ、ただちょっと」

『おーいお二人さーん、転移は無事済んだ~?』


 心配する杏に返事を返そうとした健斗の言葉は通信から聞こえたジェシカの声にさえぎられた。


「あ、は、はーい!転移は無事完了。周りに敵影なし」

『はいは~い了解で~す』

『そこはアイフ王国の北にある森の中だ、そのままもう少し進めばアクアランドとの国境がある。我々の今の目標はその付近一帯の殲滅、及び安全の確保だ』

「おう、了解したぜ。それとこっちからもいいか?」

『ん?なんだね』

「なんか転移した直後のシルバーナイトがおかしかったんだ。もしかしたらなんかあったのかと思ってさ」

『何?それは本当かシルバーナイト?』

「ほ?」


 急に話を振られた健斗は慌てて返答を返した。


「(てかコードネーム呼びの設定まだ生きてたのか)お、おう転移自体は何ともなかったけど…その直後にね」

『?何かあったのか?』

「うん、転移の直前にどういうわけか視界が切り替わったんだ」

『視界がだと?』


 疑問の声を上げるアルバートに健斗は頷いた。


「そう、ここではないどこかのね。あれは…どこかの部屋?だったかのな」

『部屋か』

「う~んでも一瞬のことだったからもしかしたら違ったかも」

『それってやっぱりフォトンエナジーが作用して起こった現象なのかな?』

「たぶんそうだと思うんだけど…何とも言えないかな」

『ふむ、今考えても仕方ない。とりあえず今はこの話は置いておこう。続きは帰ってきてからな』


 アルバートはこの話題をいったん打ち切って作戦について話し始めた。


『これから何日かかけて付近にいる敵性存在をすべて排除する。期間は君らの働き次第だな』

「おう」

「任せとけ、3日くらいで終わらせてやるぜ!」

『頼もしいな、しかし焦りは禁物だ』

『ここらへんには魔獣の反応はないけど、もう少し国境に近づくともう魔獣の反応でうじゃうじゃ!レーダーが真っ赤っかだよ!』

『なので本作戦は二手に分かれてもらう』

『危なくなったらすぐに離脱してよね』

「そういうわけだナイト」


 杏は健斗の肩に手を置いて挑発的に笑った。


「どっちが多く敵を倒せるか勝負しないか?」

「やらないよ、君、今がどういう状況かわかってるの?」

「なんだよ、ちょっとしたジョークだよジョーク」


 呆れたように言う健斗に杏はやれやれと言わんばかりに首を振った。


『準備はいいな?では作戦開始だ』


 アルバートからの作戦の開始を告げられた二人は目配せして、互いの無事を短く告げあうと、それぞれ別々の方向へ走り出した。





 時間を現在に戻し、エンカウントした敵の集まりを倒し終えた健斗は次のターゲットに向かうために通信を開いた。


「戦闘終わったよ、アル、次は?」

『そこから先へ進んだところに…む?』

「ん?どうした?」

『そっち目がけて突っ込んでくるエネルギーを探知。このエネルギーは』

「言わなくて結構、このエネルギーには覚えがあるぞ」


 健斗はそう言って、向かってくるエネルギーの方へ体を向けた。


 眼前にある障害物をなぎ倒しながら地響きを立てて何かがこちらに突っ込んでくるのが見えた。近付くにつれ徐々にその者の輪郭が露になってゆく。


 歪な角、馬鹿げたサイズの巨体。木々を軽々と薙ぎ倒せるそのパワー。


「やはりな」


 健斗は確信したように呟いた。


『来るぞ、構えろ!』

「上等だ。来やがれ」


 そう言うや、眼前の木をなぎ倒しながら巨大な牡鹿方の魔獣が健斗に向かって襲い掛かってきた。


「バオオオオオオ!」






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