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シルバーナイト!  作者: 三流
シルバーナイト アウェイクニング・オブ・ニュー・パワー
42/55

チャプター23

「んぁ…」


 杏は寝ぼけ眼をこすってベットから上半身を起こした。


 彼女はしばしベットの上で放心して、夢見心地で虚空を眺めていた。


 杏は眼をしょぼしょぼさせて、それから頭を振って眠気を払って立ち上がり、着替えをして部屋から出た。


 廊下を歩いている途中、杏ははたと立ち止まり、鼻を鳴らした。香ばしくて甘い香りが漂っている。この匂いの発生源は…。


「ダイニングルームか」


 彼女は進路を変更してその匂いの元へと小走りで駆け出した。角を曲がり、ダイニングルームへ駆け込んだ杏はその匂いの発生源を見て、歓声を上げた。


「おお!パンケーキ!」


 匂いの発生源はテーブルの上に山のように積み上げられたパンケーキだった。


「ん?やあ杏、おはよう」


 キッチンで作業をしていた健斗は杏の上げた歓声で彼女に気が付き、振り返って声をかけた。


「おう、おはよう、てか多いな!」

「みんなよく食べるからね。それと今ベーコンエッグ作ってるとこだけど、君はスクランブルエッグとどっちがいい?」

「あたしはベーコンエッグでよろしく!」

「はいはい、でもまだ食べちゃ駄目だぜ、先に手洗いうがいしてきなさい」

「あいあい」


 杏は言われたとおりにダイニングルームから退出した。そして戻ってくるといつの間にかいたアルバートとジェシカが山のように盛られたパンケーキを食べ始めていた。


「おおおおおう!?いつの間に!??」

「君が出た後すぐだねぇ、ほらコーヒー」


 杏は手渡されたカップを受け取りながら着席し、食べ始めた。


「お、うまっ」

「そいつはどーも」


 健斗は生返事をしながら自身も食べ始めた。


「てかお前料理できたんだな」

「こんなもん料理のうちに入んないよ、それに、まだまだへたくそさ」

「そんなことないよ!健斗は確実に料理上手になってるよ!特にパンケーキとフレンチトーストが絶品!」


 謙遜して言う健斗にジェシカがすかさずフォローを入れた。


「よせやい、君たちに比べたら僕なんてまだまださ」

「でも大したもんじゃないか、たかだか半年くらいで大分上達しているぞ」

「先生の教え方がよかったのさ」


 健斗は肩をすくめる。


「えへへ、褒めたってなにも出ないぞ、あ、おかわり」

「いや早えなおい!」


 そんなこんなで食事を終えた彼らは訓練室へ行き、健斗にはジェシカが付き、杏にはアルバートがついてゴーレムを使った訓練を開始した。


「ゴオオーン!」


 ゴーレムの愚直なパンチを身を屈めてかわした健斗は体を跳ね上げるように立ち上がり、その勢いでアッパーを繰り出した。


 アッパーを受けたゴーレムの頭部は木っ端微塵に砕け散り、その破片が付近にいたゴーレムに浴びせられ、たたらを踏んだ。その隙を逃さず健斗はひるんだゴーレムを瞬く間に叩き壊していく。


 破砕したゴーレムを乗り越えて別のゴーレムが飛びかかってきた。健斗は側転して飛びかかりを回避。そしてその無防備な背中にストレートパンチを叩き込んだ。


「さすがに通常ゴーレムじゃもう相手にならないね」


 破壊されたゴーレムを見てジェシカがつぶやく。


「準備運動はもう十分かな?」

「お、言ったな?じゃあレベル上げていくよ!」


 そう言うやジェシカは今出ているゴーレムを一度崩し、新たなゴーレムを作り上げた。新しく作られたゴーレムは先ほどまでの岩そのものが動いていたようなものとは違い、体躯もサイズも人間に近いものとなり、さらに関節各部から炎を噴き出していた。


 それが20体、健斗の周りをぐるりと取り囲んだ。


「私が出せる対人用ゴーレムの最大火力だよ!どうだ!」

「望むところ!」


 健斗は挑発的に笑い、拳を握りこんだ。握りこんだ拳に銀の光が灯り、瞳が黒色から銀色に変わった。彼は闘気を全身に張り巡らせ、どこから攻撃が来てもいいように全方位に警戒のアンテナを張った。


「ゴオオーン!」


 しばらく睨み合いが続いたが、取り囲んでいるうちの一体が突如動き出し、背後から健斗へ向けてジャンプパンチを繰り出した。


「おおぉっ!」


 健斗は素早く振り向き、襲い来るファイヤーゴーレムを迎撃するべく背後へ振り向く腰のひねりを利用したパンチを繰り出す。


 健斗のパンチとファイヤーゴーレムの拳が激突。衝撃波が散り空気がびりびりと震える。押し勝ったのは健斗だ。彼はそのまま拳を振りぬいてファイヤーゴーレムの腕を砕いた。


 破砕音が響き、そしてそれが合図となり周りのゴーレムが一斉に動き出した。


「「ゴオオーン!」」


 周りのファイヤーゴーレムが一斉に健斗目がけて殺到した。健斗の目がギラリと光った。


「ほほぅ…健斗の動きもすごいが、ジェシカのゴーレム操作も随分と向上しているな」


 健斗とジェシカの操るファイヤーゴーレムの戦闘を見ながら、アルバートは感心したようにつぶやいた。


「ちょ、ちょっとアルバートさん!待った!ちょっと待った!」

「ん?なんだね杏?」


 二人のほうを向いていたアルバートは杏から声を掛けられ、そちらに振り向いた。ジェシカのゴーレムよりなお洗礼されたボディーを鋼の鎧に身を包んだゴーレムの波状攻撃にさらされている杏に。


「ちょ、これき、きつすぎ…あ、アルバートさん、いったんタンマ…」

「わはは!杏よ、これは実践を想定した訓練だ、敵が待ったと言われて待ってくれるかね?待った無し!」

「そんなぁ~!」


 待った無しと言われた杏は情けない声を上げた。


「杏よ、真の武器生成と防具生成のスキルは、そのスキル使用時に術者の力を爆発的に向上させる」

「うおおおおお!?」


 杏はチャリオッツゴーレムの下段回し蹴りを小ジャンプで回避し、背後からの弾丸のごとき勢いの飛び蹴りを紙一重で両手の属性剣で防いだ。


 防戦一方の杏にかまうことなくアルバートは静かに語り続ける。


「これから先戦い抜くためには武器生成と防具生成の力を引き出させることは必須。わかるな?」

「ちくしょう!んなこと言われなくったってわかってるさ!やってやるってんだよぉおおおおお!」


 チャリオッツゴーレムの刃を押し返し、その胴体をたたき割りながら杏は吠えた。そんな杏にアルバートは満面の笑みを浮かべた。


「そうだ、その意気だ!てことで追加10体!」

「ぬあああああ!?」

「おりゃーいけー!」

「があああ!」




 -----------------------------------





 訓練の休み時間中、健斗は大の字になって息を荒げている杏のそばに座っているジェシカに声をかけた。


「おーいジェシカ、ちょっといい?」

「んー?なんだね健斗君や」


 ジェシカは首を巡らせて健斗を見た。


「うん、シルバーナイトの点検終わったかい?」

「あー!うんうん、もうちょいってとこかな~」

「そう…か、フォトンエナジーで修復されてたとはいえやっぱ結構ガタついてた?」

「確かにほとんどの個所は修復されてたけど、細部まで見たらそうだね」


 それと、とジェシカは付け加える。


「なんかね、ガワは今までのシルバーナイトだけど中身がすんごい変わってたね!」

「というと?」

「どうもシルバーナイトは君のフォトンエナジーを増幅する、というよりエネルギー全般を増幅する増幅器に変わっているんだよね。あ、今までの機能も全部パワーアップしてたよ!」

「ほ~ん」


 ジェシカの説明を聞いて健斗は感心したように声を上げた。


「フォトンエナジーは君自身でも無限に増幅できるけど、生身のままだと増幅するのに限界があるんだね!ここ数日で分かったことだけど」

「まあ、そうだね。初めて生身で増幅してみた際なんて酷いもんだったもんねぇ、体に亀裂が入ってたもの」

「いくら無限に増幅できるとはいえ、肉体が限界を迎えちゃ意味ないもんね!ナイトを着れば肉体に小さい負担でより多く増幅できるようになるっぽいね!ロドニーでの時と生身で増幅した際のエネルギーを比べてみても段違いだったよ!」


 ジェシカは健斗へにこやかに笑いかけた。


「体を鍛えることも重要だけど、ナイトを着た訓練もしないといけないね!」

「うん、だから頼んだぜ!」

「アイアイサー!」

「おーい君たち!そろそろ休憩はおしまいだ!」


 アルバートから号令がかかり、二人は立ち上がった。そして遅れて大の字に伸びていた杏が億劫そうに腰を上げた。ジェシカはそんな杏に手を貸して立たせてやった。


「じゃ、杏ちゃんの今度の相手は私だね!」

「うえぇ~…お手柔らかにたのむぜ」


 ジェシカはそのまま杏の手を引いて離れていった。健斗は離れていく二人を一瞥して、それからその場で構えをとった。すでに周りをアルバートが作ったゴーレムに囲まれていた。


「悪いが手加減するつもりはないぞ」


 アルバートは静かに言った。


「当然さ、むしろされちゃ困るよ」


 健斗はアルバートへ挑むように手招きした。


「小僧め、言うじゃないか!」


 戦士は凶悪な笑みを浮かべ、自らの従僕を眼前の健斗目掛け()()()()()()()()()


「「ゴオオーン!」」


 健斗は足元から銀の光を立ち昇らせ両拳、両足から順に全身に可能性の力を張らして真っ向から迎え撃った。


「うわぁ…あの二人訓練ってこと忘れてるんじゃないだろうな」


 全方位から繰り出される嵐のような連撃を捌く健斗と、ギラギラした目を輝かせて健斗を睨みつけるアルバートに杏は引き気味にぼそりと呟いた。


「私たちも負けていられないよ!あれに倣ってガンガン行こうぜ!」

「いやあれ訓練じゃないだろぉ!」


 彼らはこのようにして1ヶ月間ひたすら訓練を重ねていった。





 --------------------------




「ムフフフーン、苦しゅうない、面を上げよ」

「「はっ」」


 光、滝沢、加間、部座たち勇者一行は頭を上げ、王を見た。


「いやはや過程はどうあれロドニーは解放され、アイフ王国支援の下順調に復興が進んでおるわ、これでロドニーは我が国に大きな恩ができた。もはやかの国は我が国に口出しはできん!ムフフフーン」


 国王は口ひげをいじりながら満足げに頷いた。


「勇者たちよ、お主らは引き続き復興作業の手伝いを。特に野生化した魔獣の処理をな」

「「はい」」

「魔獣は食用にもできるゆえ、食料の問題と魔獣の処理で一石二鳥よ!我が国の負担も減る!敗戦国など卑しい獣肉でも食うてればよい!」


 国王は手をたたいて笑った。


「んむ、一刻も早く復興作業を終わらせ、次の戦場へ移りたいものだ」

「復興に目星がついたら次はどちらへ?」


 光は王へ疑問を投げかけた。王は光をじろりと見た。


 いつもの王ならいけ好かない光からの発言など許さないところだが、今回は咎められなかった。機嫌がいいからだ。


「次におぬしらを攻めさせる国はそうだな…」


 王は思案するように一端だまり、それから納得がいったように頷いた。


「よし決めた!次に攻めるのは北の国、水源が豊富で隙があれば手に入れたいと思っていたアクアランドにするとしよう!そうすればさらにに我が国は大きくなるぞ!」


 王はにこやかに言い放った。王はもう次の国を解放した後のことしか考えていなかった。その過程がどれだけ過酷かなど、それを行う者等のことなど何一つ考えていなかった。


 本来なら何年もかけなければいけない復興支援を1ヶ月余りしか行わないのがその証拠だ。この王はボロボロの国を救うことよりも次の利益のことしか頭にないのだ。


 それが唯一生き残っている国の行うことか。そんな王に従うのが勇者のやることか。


 光は心の中で怒りの感情を吐き捨てた。そんな様子の光を横目に滝沢は短い間でどれだけのことができるか、王の話を聞かずひたすら脳内でシュミレーションしていた。この王の話は話半分でいいとビリアに散々聞かされていたからだ。


 部座は目の前で醜く肥えた王に侮蔑の視線を浴びせ、そして自分の横で滝沢に下卑た視線を送る底抜けの愚か者にも同様の視線を浴びせた。むろん自分にも。


 そのとき脳裏に浮かび上がるのは銀の騎士の姿。その正体は自分たちが虐げた者。忘れたくてたまらなかった者の顔。上井健斗。


 ご機嫌な王の話をぼんやりと聞きながら、部座は健斗が去り際に言ったことについて思いを巡らせた。


 あの男はこれからどうするのだろうか。そういえばそのうちこの国へ来ると言っていたな。


 その考えに至った途端、部座の体に震えが走った。部座はばれないように手を握り、震えを何とか止めようとした。


 心臓が早鐘を打ち、全身に汗が噴き出る。


 あの男はこの国へ来るといった。何をしに?わからない。わからないがしかし、これだけは言えるだろう。あいつは俺たちを許してはいないということだ。あの時の顔合わせの時、こちらを見る目には隠し切れない怒りが確かにあったことを思い出したからだ。


 あいつは何をしにここへ?


 どん底から這い上がり、虐げた者へと復讐の刃でも振るうのだろうか。


 部座はちらりと光と滝沢を見た。正義の味方を。次に加間を見た。加間と自分、滝沢と光はきれいに分かれていた。向こうが正義。こっちは悪。


 向こうでも一目見るだけでわかる関係だったが、こちらに来てさらにそれが明確になった。ほかならぬ自身が行った所業によって。


 ちくしょう!一体俺はどこで間違えちまったんだ?


 王のご機嫌な演説は長々と続いた。集められた勇者たちはそれぞれの胸の内でそれぞれの思いを抱きながら、ただ黙って話が終わるのを待っていた。




 シルバーナイト アウェイクニング・オブ・ニュー・パワー


 終わり




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