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シルバーナイト!  作者: 三流
シルバーナイト アウェイクニング・オブ・ニュー・パワー
26/55

チャプター7

 目の前に広がる光が完全に消え去ったのを確認した健斗は周囲を改め、きちんと目当ての場所に転送されたか見極めた。


 そして整備された街道のわきにある()()()()()()()()()()()()()()()を見つけ、転送はうまくいったことを確かめた。


 彼はゴーレムの楔を確かめた後周りを警戒して、それから通信を開いた。


「こちら健斗。転移は無事に完了。周りに敵性存在はなし。どーぞ」

≪こちらアルバート。了解した≫

「ここはロサンカに通じる街道でいいんだよね?」


 そう言って目の前にある整備された道を見ながら、健斗は確認した。


≪そうだ。そこからまっすぐ行けばロサンカにつく。が、当然ただでは通しててくれまい。レーダーから街道先にいくつか反応が固まっているのがわかる。向こうもこちらに来ることは想定済みらしいな≫

「邪魔するなら全部ぶち壊すだけさ。それに、そうやって固まってくれるのはかえって好都合さ。変にばらけられて動かれるよりよっぽどいい」

≪…頼もしいな。うん。そうだな。その通りだ≫

「?どしたの?」


 健斗はアルバートの声色がいつもと違うことを機敏に察知した。そしてその声に含まれる思いも感じ取った。感じ取った思いに含まれる感情は…。


「アル。何か心配事でもあった?」


 健斗はアルバートに問うた。


≪…いいや。そんなことより≫

「話題を逸らそうってんならそうはいかないぞ」


 はぐらかそうとするアルバートに健斗は待ったをかけた。


≪いやしかし≫

「しかしじゃない。そういうことは言えるときに言わないと後で後悔するもんじゃん?それに、物語とかでなんか違和感感じたくせにいざ聞かれたら気のせいだとかいう展開嫌いなんだよね」

≪健斗…≫

「アル。もし僕のことを気にしてくれているならなおのこと君が思っていることを僕に教えてほしいんだ。このままじゃ気になって戦闘に支障が出てしまうよ」


 そう言われたアルバートは深く息を吐いて、それから健斗に自信が今感じている思いを打ち明けた。


≪…嫌な予感がするんだ≫

「嫌な予感?」

≪そうだ。嫌な予感だ。私の勘はね、自分で言うのもなんだが結構当たってしまうんだ。よくないことは特に≫

「今回は悪いほうってわけ?アル。でも所詮は勘でしょう?その悪い予感とやらが確実に起きるとは断言できないわけだ。だって君には予知のスキルがあるわけじゃないんだからね!」

≪健斗…。確かにそうだが≫

「杞憂だよ。考えすぎ。ジェシカのことを思うあまり変なこと考えちゃってるんだよ」

≪違うのだよ。私は君も失いたくないんだ。もう君も家族のようなものだから。本当なら私も君の前に出て戦いたいのだ。だが私は戦うことができない。壊されてしまったから≫

「アル…」


 二者はしばし口を閉ざし、無言だった。


「でもさ」


 沈黙を破ったのは健斗だった。


「でもさ、そう言われたって止まってもいられない。嫌な予感がする、怖いからって止まれないんだよ。確かに国が勇者率いて魔族の討伐に動いてるけど、それだってすぐ終わるようなものじゃない。支部長クラスと戦うには勇者クラスの戦闘能力がいるからね。一つ一つ村や町をつぶしていくからその歩みは緩慢だ」

「その間に何人命を落とすだろう。その間にどれだけの人々が苦しい思いをすると思う?彼らに任せるだけじゃだめだ。僕らにできることをできる範囲でしなくちゃいけないんだ」

≪…≫

「僕らのすることは彼らと同じ。魔族に支配されている領域の開放。そのために今することは何だろうね」

≪…すまない。少し弱気になっていたようだ≫


 アルバートはイスに深く座り直し、溜息を吐いた。


「そういうことさ。じゃ、話も聞けたことだし、そろそろ動くか」


 健斗は誰に言うまでもなくつぶやき、一気に走り始めた。


≪そこから前進してすぐのところに反応が固まっている。見えるか?≫

「ああ見えるよ」


 健斗の視線の先には街道のど真ん中に陣取った数名の魔族と十匹ほどのランペイジウルフが待ち構えているのが見えた。


 そのうちの一人が健斗が来たことに気づき、仲間にそのことを伝え、ざわつき始めていた。ランペイジウルフは魔族兵たちがざわつくよりも先に彼めがけて駆け出していた。


 健斗は走り寄ってくるランペイジウルフを走る足を止めないで真っ向から迎え撃った。


 顔面を狙って大口を開けて飛び込んできたランペイジウルフの口に手刀をあてがって真っ二つに切り裂く。背後に回り込んで後ろから飛びついてきたランペイジウルフに振り向きもせずにバックキックを叩き込む。


 四方八方から襲い掛かってくるランペイジウルフを踏み殺し、叩き殺し、蹴り殺した。


 ランペイジウルフを瞬く間に殺し終えた健斗は魔族兵たちに向けグレネードを投げ放った。投げ放たれたグレネードは魔族兵の一人の胸にめり込み絶命させ、その一瞬後に爆発して魔族兵をすべて吹き飛ばした。


 グレネードの爆炎の中を突き破り、健斗は肉片バラ撒かれる街道を疾走した。


≪第二陣、接触まであと100メートル!≫


 ジェシカからの警告が走り、健斗は走るスピードを上げた。彼がスピードを上げたのと同じタイミングで前方から彼めがけて大量の闇の弾丸が襲い掛かってきた。


≪50…20…≫


 ジェシカからの接触までの距離を耳にはさみ、健斗は飛来する闇の弾雨をかいくぐりながらなおもスピードを上げた。時折ブラックグレネイドも飛来してきたがすべて最小限の動作でかわし切った。


≪10・・・0!≫


 ゼロカウントが聞こえたのと同タイミングで健斗はジャンプした。そして目の前であっけにとられて呆けている魔族兵の顔面に拳をめり込ませ殺害。闇雲に殴り掛かってきた魔族兵の腕をつかんで止め、顔面を殴り飛ばした。


「う、うわあ!」

「た、退避!退避しろ~!」


 健斗は距離を取ろうと後ずさる魔族兵の一人をつかみ、しっぽを巻いて逃げ出した魔族兵の集団に投げつけた。集団はドミノ倒しのように地面にひっくり返り、健斗は一人ひとり確実に殺害した。


「おらぁ!」

「ぎゃぁ!」


 最後の一人の頭蓋を砕いて殺した健斗は死体を改めることなく脱兎のごとく走り出した。


≪最後の第三陣が来るぞ!それを超えればロサンカまで一直線だ!≫

「了解」

≪気を付けて!第三陣には一体だけ強力なエネルギーを持ってるのがいるよ!この反応は魔獣だね!≫

「魔獣…」


 健斗の脳裏に昨日の巨大シカが思い浮かんだ。そしてその暴威も。


「関係あるか!」


 健斗は無意識に思い浮かんだ魔獣のビジョンを振り払った。振り払って、眼前に佇む強力で非情な現実をにらみつけた。


 彼の目の前には関所のように設けられたバリケードが佇んでおり、突貫工事で作ったであろう櫓から魔族兵が彼めがけブラックマシンガンを放ってきた。


 櫓は関所の端と端にひとつづつ設けられており、片方はブラックマシンガンを、もう片方はブラックバレットより貫通力が上がり、威力も射程も上昇しているブラックライフルをそれぞれ放ってきた。


 当然攻撃はそれだけではない。「関所」からぞろぞろと魔族兵が現れ、彼めがけてブラックバレットを放ってきた。


 健斗は舌打ちしてその場にとどまらないように動き回り、上と下のどちらから先に落とすべきか検討した。


「はははははは!手も足も出ないかシルバーナイト!おい見ろよあの逃げ回るさまを!何がシルバーナイトだ!ははははは!」


 櫓の上からブラックマシンガンを放っていた魔族兵が同じく反対側の櫓の上から健斗を狙っている魔族兵に声をかけ、勝ち誇ったように彼を罵った。


「ムカッ!」


 自分が有利な立場にいることを欠片ほども疑っていないその声色が、どちらを狙うべきかという問いに答えを出させた。


 健斗はジグザグに動いて弾丸をかわしながら、徐々に右の櫓、ブラックマシンガンを放ってきている魔族兵の櫓へと近づいて行った。


「おいてめぇらなにやってやがる!全然当たってねぇじゃねぇか!」


 櫓魔族兵は下でブラックバレットを放っている魔族兵に向けて怒鳴った。


「うるせえぞ玉無し(チキン)!こっちだって必死なんだ!てめぇこそ上にいるくせにカスリもしてねぇじゃねぇか!ヘタクソ!」


 下にいる魔族兵も負けじと怒鳴り返した。


「なんだと!グヌーッ!」


 逆に怒鳴り返された櫓魔族兵はブラックマシンガンを止め、手すりをつかんで身を乗り出して下に向かって怒鳴った。


「っだとテメー!調子乗ってんじゃ!」

「うわわわ!何やってんだ手を止めるな!」

「っしずしてんじゃねーぞ!」

「そうじゃねぇ!見ろ!」

「あぁ!?…アッ!」


 櫓魔族兵の視線の先には健斗がブラックバレットを振り切って櫓に向かって突っ込んでいくさまが見て取れた。


「あわあわあわ!やめろ!こっちへ来るなぁー!」

「もう遅いわいバーカ!」


 健斗は弾丸のごとき勢いのまま跳躍。櫓の根元に向かって強烈な飛び蹴りを放った。飛び蹴りを食らった櫓は根元から崩壊し、粉塵を舞い上がらせて倒壊した。


 少しの間静寂が訪れ、粉塵で何も見えない中で何かがひしゃげる音が轟いた。その音にびくりと魔族兵が身を震わせた一瞬後に健斗は粉塵を突き破って手近な魔族兵に襲い掛かった。


「おら!」

「ぎゃ!」


 びっくりして飛び上がっていた魔族兵のこめかみに裏拳を叩き込み殺害。真横から剣を振り下ろしてきた魔族兵の腹にボディブローを突き込み胴体を破裂させて殺す。


「こ、この!」


 櫓の上から健斗めがけてブラックライフルを撃とうとしたが、それを敏感に察知した健斗は櫓に向けて魔族兵を投げつけた。


 その衝撃で櫓はぐらつき、音を立てて倒壊した。突貫工事のツケがここで支払われることになった。


 残っていた櫓が倒壊したことで彼はようやく自由に動き回ることができるようになった。健斗は大ぶりなフックを放ってきた魔族兵の口にグレネードを突っ込み、敵が固まっているほうへ向け蹴り飛ばした。


 蹴り飛ばされた魔族兵はもがくように口元を掻いたがすでに遅く、仲間ごと吹き飛んで地面に飛び散る肉片とかした。


「チクショー!」


 破れかぶれに頭を突き出して頭突きをしてきた魔族兵の体を踏みつぶしてその反動で跳躍。そして近くにいた魔族兵に向けて空中回転回し蹴りを叩き込んだ。


「糞…イテェ…」


 櫓の倒壊で気絶していた狙撃魔族兵が戦闘音で目を覚まし、頭を振って起き上がり前方を見たときには戦闘は終わっていた。


「なあ!?う、うわわわわ!」


 健斗がツカツカと自分を目指して歩を進めるのが見えて、何とか遠ざかろうと後ずさったが何かにあたってこれ以上進めなかった。


 焦燥した面持ちで振り返って何が邪魔をしているのか見て、後悔した。それは倒壊した櫓とずたずたになった仲間の死体だった。櫓にたたきつけられた衝撃と櫓が崩れた衝撃でこんな有様になったのだろう。


 ザスッと足音がした。その足音で飛び上がって驚き急いで正面を向いて、そして、彼は死んだ。健斗の繰り出した手刀が狙撃魔族兵の首を胴体から切り飛ばしたのだ。


 健斗は残心して周囲へと気を配った。


「関所」の魔族は全滅させた。それは間違いない。彼の中の、何かよくわからない何かがそれを確信させた。


 だが、魔族兵たちを全滅させたにもかかわらずこの場の空気は重いままだった。


 そういえば、さっきジェシカが第三陣には一体だけ強力なエネルギーを持ってるのがいると言っていた。その反応は魔獣だと。


 そこまで考えたところで「関所」から破砕音が聞こえ、電撃的に音のした方向へと振り向いた。


 見ると「関所」のど真ん中がひしゃげており、あと少しで破られそうになっていた。ついでに獣の唸り声も聞こえてきた。


「ああ…そういうことね」

≪高エネルギー反応!来るよ!≫


 ジェシカからの警告が聞こえ、健斗は構えた。


 ドオン!ドオン!ドオン!


 三度にわたり「関所」の向こう側から衝撃が加えられ、そのたびに「関所」はメキメキと音を立てて軋んだ。


「ギャアアアアア!」


 叫び声がして、それから一際大きな破砕音が鳴り「関所」は轟音を立てて崩れた。もうもうと立ち込める粉塵の奥から、唸り声をあげる巨大な影が視認できた。


「上等だ…!来やがれ!」


 その言葉に触発されたかのように巨体は大声で叫び、健斗に向かってとびかかってきた。


「グラアアアアア!」









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