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シルバーナイト!  作者: 三流
シルバーナイト アウェイクニング・オブ・ニュー・パワー
24/55

チャプター5

 シルバーナイトは突っ込んできた怪オオカミを右フックで殴り殺し、その勢いで一回転して回し蹴りを放って群がる怪オオカミを弾き飛ばす。


 弾き飛ばされた怪オオカミは空中で体をひねり衝撃を緩和したが、何匹かは回避し損ねて絶命しており、宙を舞って落下した。着地した怪オオカミも無事ではなく、とてもじゃないが戦えるような状態ではなかった。だが自分の怪我も同胞が死んだことも関係ないとばかりに生き残った個体はシルバーナイトに向かって脇目も振らずにに飛び掛かった。


「糞!どうなってんだ!こいつら一丁前に受け身なんかとってるぞ!」

≪健斗横だ!≫


 シルバーナイトは無線からの警告を聞き考えるよりも早く飛び込み前転を決めた。その一瞬後、彼がいた場所をバフォメットが踏み砕いた。その一撃は地面を陥没させ、小さなクレーターが出来上がった。


 シルバーナイトはバフォメットに一瞬注意を向け、決してバフォメットに背を向けないようにしながら周りに群がる怪オオカミを一匹一匹念入りに殺していった。そうしなければ受け身をとられて時間がかかってしまい、あの怪物から一撃を受けるであろうことは目に見えていた。そのうえ時折飛んでくるブラックバレットにも対処せねばならなかったため、なおのこと雑魚の方を積極的に片付けねばならなかった。


 ここにきて支部長にすらかなわない魔族兵隊長に苦戦を強いられることになったことが余計に彼を苛立たせた。


「ぬがああああああ!」


 怪オオカミの頭をつかみ、ねじ切りながらシルバーナイトは叫んだ。ざけんな!お前らごとき下っ端にかまっていられるような状況じゃないんだよ!


 人々が待っている。苦痛に顔をゆがめ、血を流して助けを、救いを求める人たちが待ってるんだ。救わねばならない。助けねばならない。為すべきことを為さなければならない!


「その邪魔をするなああああああああ!」


 シルバーナイトは腰からスモークボールを取り出し、怒りを込めて足音にたたきつけた。みるみるうちに煙はシルバーナイトの姿を覆いつくし、彼だけでなく魔獣の姿まで隠した。


「ええい何をやっている!さっさと撃て撃て!」

「ですがこれでは狙いなどつけられません!」

「馬鹿か貴様は!ブラックグレネイドで煙を吹き飛ばせ!」


 その間にもシルバーナイトは煙の中を動き回り、確実に怪オオカミたちを仕留めていった。そのさまがまるで影奉仕のように煙の中から朧気に視認することができた。


「ブラックグレネイド発射!」

「発射!」


 発射されたブラックグレネイドは煙の中心で爆発し思惑通りに煙幕をすべて吹き飛ばした。


「くっ!ランペイジウルフは全滅しています!」

「嘘だろ!?20匹いたんだぞ!それだけいれば人間を100人は軽く殺せるはずなのに!」

「うろたえるなバカ者どもめ!まだバフォメットがいる!たかが鎧を着た人間が奴にかなうわけがない!」


 魔族兵隊長はうろたえる部下をしかりつけ、バフォメットの正面で構えているシルバーナイトをにらみつけた。


 本来ならあの煙幕があるうちに魔族も皆殺しにしようとしていたのだが、そうしようとするとあの巨大シカが主人を守るように立ちふさがり、なかなか手出しができなかったのだ。


 シルバーナイトは眼前で威嚇するように後ろ脚を蹴るバフォメットとその背後で喚き散らす魔族を相手に、どちらから先に対処すればいいのか思案した。


 そのわずかな思考を読み取ったのか、それとも野生の勘かはわからないが、ともかく先に仕掛けたのはバフォメットのほうだった。


 バフォメットは一気に踏み込んでシルバーナイトの眼前まで移動し、その凶器じみた角で刺突を仕掛けてきた。シルバーナイトは敵の持つすさまじい瞬発力とスピードに舌を巻き、驚きながらもその危険な刺突を側転で回避。間髪入れずに胴体に右ストレートを叩き込んだ。


「バオオオオオオ!」


 右ストレートを受けたバフォメットは一瞬たじろいだものの、すぐにダメージから復帰し怒りのボルテージをさらに上げてその場から跳躍。自身の何倍の高さまで飛び跳ね、シルバーナイトに向けて超強力なボディプレスを仕掛けた。


「なんてジャンプ力だ!」


 シルバーナイトは慌ててバフォメットのプレス範囲から脱するために走り出し、彼が範囲から逃れた瞬間にバフォメットのボディプレスが地面に炸裂。すさまじい轟音と爆発したかのように土煙が舞った。


 シルバーナイトは土煙の中に突入しバフォメットの背後から襲い掛からんとする。


≪待つんだ健斗!シカ相手に背後から突っ込むな!≫


 その忠告に従いシルバーナイトは急ブレーキをかけて止まったが、少し遅かった。


「バオオオオオオ!」

「!?」


 バフォメットはシルバーナイト向けて強烈なバックキックを浴びせた。とっさにガードしたもののシルバーナイトは跳ね飛ばされ、勢いよく背中から木に衝突した。衝突の衝撃で木はへし折れ、バキバキと音を立てて倒れた。


「ぐっ…!」

≪大丈夫か!?≫

「クソが!シカ風情がいい気になってんじゃねぇぞ!」


 シルバーナイトが吹っ飛とび、木にたたきつけられたのを見て魔族たちは歓声を上げた。


「いいぞバフォメット!そのまま串刺しにしてぼろ屑にしてやれ!」

「バオオオオオオ!」


 主の命を受けた従僕はその命令通り角を突き出してシルバーナイト向けて突進して串刺しにせんと迫った。シルバーナイトはサイドステップで突進を回避して側面に回り込み、バフォメットを数打殴りつけて離脱した。そのすぐ後にバフォメットの角が彼のいた場所を薙ぎ払った。


「あんまり効いてないな…」


 シルバーナイトは冷静に敵のダメージを分析しながら、決して一か所にとどまらないように動き回り、いかようにしてこの難敵を相手にすべきか考えた。


「小技じゃだめだ。でも大技なんて当たっちゃくれないんだよな」

≪いやいいんだ健斗。そのまま小技を当て続けろ≫

「なぜ?」

≪所詮奴は獣だ。いくらテイムされて強化されているとはいえ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。単純な奴ほど少しのことで怒るのさ≫

「ッ!なるほど!」


 アルバートの意図を察したシルバーナイトは動き回りながら、バフォメットの攻撃を誘った。


 バフォメットはちょろちょろと動き回るシルバーナイトを踏みつぶそうとやみくもに踏みつけを繰り出したが、敵の動きが早くまるで当たらない。シルバーナイトは踏みつけのたびに足に向けて打撃を数打繰り出しては離れを繰り返し、着実にダメージを稼いでいた。


 攻撃が当たらないどころか逆に攻撃を受けていることに牡鹿は激昂し、狂乱したように暴れまわった。


「やめろバフォメット!落ち着くのだ!これでは敵の思うつぼだぞ!」


 主人は従僕へ叱責を飛ばすが、怒り狂った牡鹿は聞く耳を持たない。ロデオ馬のごとく暴れまわるバフォメットにシルバーナイトはほくそ笑んだ。これこそが彼の目的であり、見事彼の目論見にはまったバフォメットは何の命令も受け付けない暴れるだけのただの木偶と化した。


 あとは潰すだけだ。シルバーナイトはバフォメットめがけて駆け出す。それに気づいたバフォメットは素早い前蹴りを放った。シルバーナイトは上体をそらして前蹴りを回避。


 好機!


 これを反撃のチャンスと見たシルバーナイトは突き出された前足をガッチリと抱え込んだ。


「バオオオオオオ!」


 バフォメットは怒りの雄たけびを上げて振り払おうとするが、シルバーナイトは離さない。


「ええい!何をしている!自分より小さい相手だぞ!さっさと振り払ってしまえ!」


 魔族兵隊長の怒声にバフォメットはあらん限りの力で抵抗するが、それでもなおシルバーナイトは離さない。彼は抱え上げる腕にさらに力を込めて万力のごとく締め上げた。


 締め上げられた前足はミシミシと音を立ててきしんだ。それから生じる苦痛にバフォメットは悲鳴を上げて苦しみ、狂ったように暴れるが拘束は解けない。


「んおらああああああ!」

「バオオオオオオ!」


 シルバーナイトが叫び、締め上げる力を跳ね上げた瞬間、ついにバフォメットの前足が破損。


「グ…ぐおおおおおあああああああ!」

「バオオオオオオ!?」


 シルバーナイトはついにバフォメットの抵抗に打ち勝ち、前足をつかむ力をさらに強めてその場でハンマー投げ選手のようにぐるぐると回り始めた。自身の倍以上の大きさを持つバフォメットの体が回転に合わせて遠心力で浮かび上がる。


「ば、バカナー!」


 魔族兵たちはシルバーナイトの危険な回転を止めようとブラックマシンガンを連射するが、そのすべてがバフォメットの体に阻まれ回転を阻止することができない。


「バ…バオオオ…!」


 体をブラックマシンガンに穿たれ血を流しながらもなんとか抵抗して暴れようとするが回転のせいでうまく体を動かせない。何よりシルバーナイトのパワーがバフォメットのパワーを上回っており、いくら抵抗しても彼は微動だにしない。


≪これは…ッ!≫

≪わお!≫


 ジェシカとアルバートはレーダーに映るシルバーナイトのエネルギーを見て思わず驚きの声を上げた。彼が蹴っ飛ばされた時から明らかにエネルギー量が跳ね上がっており、エネルギー量は平時の時よりも倍以上になっていた。もしシルバーナイトの中の健斗の目を見たのならば、その眼はうっすらと銀色に輝いていたことがわかるだろう。


 だが今その光は鎧に阻まれて見ることは叶わない。シルバーナイトはなおも回転を続けた。バフォメットは回転の中で未だ抵抗を続けていたがすでに怒りも静まり、彼の中に主人への忠誠よりもこれから起きる衝撃への恐怖が現れ始めていた。


「だあああああああ!」

「バオオオオオオ!?」


 限界まで回転を強めたシルバーナイトはついにバフォメットを投げ飛ばした。4メートルの個体が宙を舞い、すさまじい勢いですっ飛んだ。


「あ、なあああああ!、ば、馬鹿者!こ、こっちへ来るなあああああ!」

「うわわわわわ!」


 魔族兵たちは悲鳴を上げて逃げようとするも時すでに遅し。4メートルの巨体が急行列車さながらに突っ込んできたのだ。よける間などありはしない。


 バフォメットは魔族をひき殺し、木々をなぎ倒し大地をえぐりながら数百メートルほど吹き飛んでようやく止まった。シルバーナイトは虫の息のバフォメットに駆け寄り、苦しげにあえぐ頭を見下ろした。


「ば、バオオオ…」


 健斗はカシャカシャと頭部鎧を背中に収納し、まるで助けてくれと懇願するように鳴くバフォメットの視線をじかに受け止め、目を閉じて黙考した。こいつを生かしたところで長いことは持たない。仮に生き延びたとしても甚大な被害がでるだろう。


 健斗は眼を見開いた。もはやその目に同情はなく、決断的な殺意に燃え、銀色に輝いていた。


 シルバーナイトはバフォメットの頭に容赦なく拳を振り下ろした。


「バオオオオオオ!バオオオオオオ!」


 拳を受けたバフォメットの頭蓋は割れ、血を吹き出し、絶叫しながら身もだえした。シルバーナイトはそのさまを無感動に眺めながら、さらにもう一発拳を落とした。


「…ッ!…ッ」


 二発目の拳でバフォメットの頭部は完全に破壊され、体はびくっびくっと痙攣して完全に絶命した。


 シルバーナイトはバフォメットが完全に絶命したことを認めると、その場にどっかりと腰を下ろした。


 思った以上の強敵だった。攻撃はまともに食らってはいないが、ガードした腕から鈍い痛みを感じた。これが幹部でも支部長でもなくただの魔獣の一匹だということに健斗は戦慄した。


 これほどの強さの魔獣がただ一体だけということは考えにくい。おそらく無数に存在することだろう。数が少ない支部長クラスの戦力の調達の問題がこれで一気に解決したのだ。


 と、彼は思考を打ち切った。よくない傾向だ。例え万の軍勢を突きつけられたとて、今さら止まるわけにはいかない。


 健斗は頭を振ってマイナスな考えを振り払った。


 それでも俺はやらねばならない。苦しんでいる人が確実に存在しているのだから。為すべきことを、為さなければならない。恐れてはならない。そう自分に言い聞かせるように心中で唱えた。


「さて、じゃあ次に行くか」

≪残念ながらいったん君に帰ってきてもらう≫

「ナンデ!?」


 健斗は驚愕したように叫んだ。


≪君は君が思っている以上に疲弊している。だからこそいったん休息をとってもらうのさ≫

「そんな!俺はまだ」

≪残念。もう発動させちゃったんだなぁこれが≫

「んな!」


 健斗は立ち上がり、そしてバフォメットの死体ごと光へと消えた。






 ----------------------




 光から覚めた健斗はあれよあれよとシルバーナイトと上半身の服をを脱がされて椅子に座らせられた。


「あーあーあーあー!やっぱり痣になってる!」


 ジェシカはバフォメットの強烈な蹴りをガードした際にできた青あざを見て、やっぱりかといったように声を上げた。


「内出血までしてんじゃん!背中も腕ほどじゃないけど痣ができてるね!痛そう」

「こんなのなんてこと」

「はいはい。そういうのいいから」

「オノレー!」


 健斗とジェシカの漫才じみたやり取りを見ながら、アルバートは小さくため息を吐いた。


「う~むまさかあれほど強力な魔獣が配備されているとは…」


 アルバートは眉間にしわを寄せて顎をさすった。


「大丈夫さ!俺だって強くなってる!それに君たちが作ってくれたシルバーナイトがあれば無敵さ!」


 ジェシカに回復魔法をかけてもらいながら、健斗はアルバートに向けて不敵に笑って見せた。アルバートはそれがなんとか自分たちを不安にさせまいと出している、彼なりの精一杯の笑みであることを見抜いた。


「…そうだな。すまない。少し弱気になってしまったな」


 アルバートは健斗に向けて笑いかけながら、魔族たちの戦力の大きさの認識を修正した。そしてこれからのことを考え、何が何でも戦力の増強をしなければならないと心に誓った。


(そのためには何としても()()()戦力に取り入れねばならない。我々はあまりにも手が足りない。すべてが後手に回っている)


 アルバートは唇を噛んだ。


(今は何とかしのいでいるが、これから先どうなるかわからない)


「おとーさん!健斗の治療も終わったからご飯にしよう」


 ジェシカに声を掛けられてアルバートは思考をいったん打ち切り、彼女へ向き直った。


「ああ。そうだな」

「今日は健斗が持ち帰ったシカ肉があるからたくさん食べれるよ!やったね!」


 彼女も不安を感じているはずだろうに、それをおくびにも出さず明るくふるまうジェシカに、アルバートはより一層力を尽くさねばならないと改めて思った。







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